愛の急激な喜怒哀楽の変化
それから昼休みがやってきた。
もちろん、交替でだ。
朝のうちに何時にだれが休憩にはいるのかをだいたいの目安ではあるが決めてある。
僕と愛は午後一時に入ることにしてあった。
バックルームにいた、パートのおばちゃんに休憩はいります、と声をかけ、愛も同じように言って頭を下げていた。
僕は愛にはなしかけた。
「僕は弁当あるけど、愛は買うのか?」と。
「買います。買ったら相澤先輩の車に行きますね」
「わかった、待ってる」
そう言いながら僕は店の駐車場に向かい、愛は売り場に向かった。
僕は車の中で煙草を吸いながら愛が来るのを待った。
五分ほどして、彼女は買い物袋を持ってやってきた。
そして、助手席に乗り、
「お待たせしました!」
と言いながら、缶コーヒーを一本くれた。
「お!サンキュー。今度、おごるわ」
「いや、コーヒーくらいいいんですけどね!」
僕はカバンから弁当箱を取り出し、
「じゃあ、たべるか」
「ところで話しってなに?」
愛は唐突に訊いてきたので、少しおどろいたがこう答えた。
「今度さ、この辺じゃバレバレだから、札幌じゃないところでランチしない?」
「へ?」
愛は気の抜けた返事をした。
「シフト表見たか?」
「見ましたよ。来月の金曜日が二回休みが一緒ですね」
愛は嬉しそうに笑顔でそう言った。
「さすが!気付いていたな」
「そりゃ、先輩と私のシフトは入念に見ますよ」
愛はパンの袋を開け、食べ始めた。
僕もそれを見て、弁当のふたを開け箸を手に取った。
「そのお弁当は奥さんに作ってもらったんですよね?」
「そうだよ。いつまで作ってもらえるものかわからないけどな」
僕は愛の目の奥の方を見つめた。
「なんか…悔しい…!」
僕は黙っていると、彼女は言葉を続けた。
「私の作ったお弁当食べてみて下さいよ。今度作ってきますから!」
「じゃあ、その時には嫁の弁当は断るわ」
「いえ、捨てて下さい!」
僕は再び黙ってしまったので愛は、
「それができないなら私にも考えがあります!いい加減、だらだらと私と奥さんを天秤にかけるような真似は止めて下さい!」
愛はいきなり目尻をつり上げ、凄い形相で僕を睨んでいた。
まるではんにゃのようだ。
「わかってるよ。そんなに怒るなって。愛の気の済むようにするよ」
そう言った途端、彼女は風船でもしぼんだかのように体をかがめ、僕の左腕に頭をあずけ、洟をすすって泣き出した。
愛はまだ何か言いたげな様子で頭を上げたが、場所が店の駐車場というだけに再び頭を下げ泣いていた。
僕は思った。
きっと、不安なのだろうと。
そして、こうも思った。
決して愛を見放すようなことはしない、と。
僕は愛の頭をさすりながら、大丈夫だからと呟いたあとに、
「ランチ、一緒にいこうな」
そう言うと愛は頷いていた。




