聞いてみました
一日の授業が終わり、お兄様がお迎えにきました。
あまり子ども扱いして欲しくないけど、何の心配をしているのかお父様からも必ず登下校はお兄様と一緒にするように言われました。
屋敷に帰っている間の話題は、やはり朝ジェリク様が話していたエピドート夫人についてです。
「お兄様。エピドート夫人という方はお父様たちの年代の方達には有名なのでしょうか?」
「うーん・・・どうだろうね。父上や母上からお名前を聞いたことがなかったから私にも分からないんだよ」
「リリウム様たちとクラスに着いたら、アラン様からなぜお兄様がクラスまで送ってこなかったのか質問されました。その時にジェリク様からエピドート夫人のいらっしゃる修道院を陛下にお勧めすると仰られて、それを聞いたアラン様も大変驚いていたのです。イルバイト公爵様はご存知の方ということですよね?」
「恐らくは。イルバイト公爵ダグラス様は陛下の1つ下で父上を同い年だし、公爵家の跡取りとして陛下やその側近候補の子息たちと指導を受けていた可能性は高いかな」
「なるほど。お父様はともかく、お母様ならエピドート夫人のことをご存知でしょうか?」
「どうだろう?確かに母上はエメリア侯爵令嬢だったし、父上は学園入学まではよほどのことが無い限り王都には来なかったみたいだから、父上よりは母上の方がご存知かもしれないね」
「・・・お兄様。カトレア・エピドート夫人がどの様なご夫人か気になりませんか?」
「興味はあるかな。ジェリク様が父親である陛下に夫人のいらっしゃる修道院を提案するくらいだし、陛下や宰相様が候補に入れるのを躊躇ったくらいだからね」
「では、お父様と一緒に領地へ帰ってしまう前にお母様へお聞きしてみませんか?」
「そうだね。今日にでも聞いてみようか」
「はい。では、急いで戻りましょうお兄様」
お兄様とそんな会話をしつつ、帰宅を急ぎます。
陛下への婚約報告も終了したため、お父様たちが王都の屋敷に滞在する日数は然程残されていないのですから。
屋敷に到着した私とお兄様を、お母様とマリエルが出迎えてくれました。
「ただいま戻りました。母上、マリエル」
「ただいま帰りました。お母様、マリエル」
「お帰りなさい。サリエル、マリア」
「お帰りなさい。兄上、姉上」
「あの・・・お母様。あとでお聞きしたいことがあるのですが、お時間をいただけますか?」
「あら、何かしら?」
「今日、学園でお伺いしたとあるご夫人についてお母様はご存知なのかと・・・」
「そう。いいわよ。では着替えてサロンにいらっしゃい。私でわかる方ならお話ししますよ」
「ありがとうございます。ではお兄様もご一緒によろしいですか?」
「あら。サリエルも?構わないわよ」
「では自室で着替えてからマリアと一緒にサロンに向かいます」
「分かったわ。急がなくても良いからね。ではマリエル。サロンへ行きましょうか」
「はい。母上。兄上、姉上。サロンで母上と一緒にお待ちしています」
「ではマリア、着替えてサロンに行こうか」
「はい。お兄様」
自室へ到着して、すぐに着替えます。
お兄様やお母様をお待たせする訳にはいきませんからね。
着替え終わると同時に、自室の扉がノックされました。
お兄様、着替えるの早いですね!
私と同じようにお母様をお待たせするのはNGと思っているのかも。
「マリア。着替え終わったかい?」
「はい」
「では、サロンへ行こうか」
「はい。お兄様。・・・お母様がエピドート夫人のことをご存知だと良いですね」
お兄様と一緒にマリエルとお母様の待つサロンへと向かいます。
ドキドキしますね。
「お母様、マリエル。お待たせして申し訳ございません」
「あらあらいいのよ。そんなに待っていないわ」
お母様に促されて、お兄様と一緒にお母様とマリエルの向い側のソファへ座ります。
使用人が私とお兄様の前にお茶を置いてサロンから出て行きました。
「さてと。マリアが聞きたいと言っていたご夫人とはどなたのことなのかしら?」
「はい。お母様はカトレア・エピドート夫人という方をご存知ですか?」
「カトレア・エピドート夫人ね。知ってるわよ。でもなぜマリアがカトレア様のお名前をご存知なのかしら?」
「今日、学園でジョージ様が『とある令嬢を送る修道院の候補が見つからない』とお父上である宰相様がお話しされていると聞いたジェリク様が、それなら陛下にエピドート夫人という方がいらっしゃる修道院はどうかと陛下へご提案すると仰っていたのです」
「あら。まだ決まっていなかったのね。早々に選定を終えて修道院へ送り出しているものとばかり思っていたわ」
そうでしょう。そうでしょう。私も聞いたときは驚きましたとも!
退学になった令嬢のその後なんて、中々聞けないもの。
知る術もないし、知るための伝もない。ナイナイづくしですからね。
「それがまだのようです。それでジェリク様がエピドート夫人のお名前を出したとたんに、ジョージ様のお顔色が悪くなったものですから気になったのです」
「なるほどね。マリアはエピドート夫人について何か知っているのかしら?」
「リリウム様からお伺いした程度です。以前、王宮でマナーの主任教師をされていたと。それと、陛下に礼儀作法とマナーをお教えした方とだけ」
「そうよ。カトレア様は前エピドート侯爵の奥様で、現当主であるイレクス様が幼いころに前侯爵がお亡くなりなっから、イレクス様が侯爵家を継ぐことができる年齢まで中継ぎで女侯爵となってお家を守った女傑ですよ」
「そうなのですか!?」
「えぇ。イレクス様が成人・結婚したのを機に、修道院へ入って亡きご主人様の冥福を祈る生活をしようとお考えだったのだけれど、前国王陛下がカトレア様をマナー教師として王宮に勤めてくれないかとお願いされたそうなの」
「なぜエピドート夫人だったのでしょう?王宮なら他にも立派な教師の方たちがいらっしゃると思うのですが?」
「当時の王太子殿下はそうれはもう教師の言うことを聞かない困った方だったのよ」
「そうなのですか!?今の陛下からは想像もつかないのですが・・・」
「そうなのよ。側近候補の子息たちも王太子の暴走を止められなかったようで、エピドート夫人はご子息の教育を行いつつ、女侯爵としての務めを果たしておられたから、前国王陛下のお目に留まったのでしょう」
「でも、今は修道院にいらっしゃるのはなぜですか?それほどマナー教育に定評のあるご夫人ならば家庭教師として引く手数多だったはずです」
「王宮でのお勤めは無理だと最初はお断りしていたのよ。でも前陛下の懇願に折れた形になるわ」
「そんなに教師の方が見つからなかったのですか?」
「見つからなかったのよ。まず勉強やレッスンがイヤで逃げ出す殿下を捕まえなければならないから、その事を聞いた時点で半数以上の教師候補が辞退したようよ」
「半数の教師候補が辞退・・・それはまた凄いですね」
私も驚きだよ!お兄様も瞠目しているし、今の陛下とのギャップについてどうにか受け入れようと頑張っているみたいです。
お兄様の表情筋がモニョモニョとどういう表情を作ったら良いのか模索しているみたいです(笑)
「凄いでしょう?だからかしらね。前陛下がカトレア様に教師になってくれとお願いしたのは。当時からカトレア様に礼儀作法とマナーを習いたいという令嬢は多かったのよ。カトレア様に教えを受けた令嬢たちは良縁に恵まれたから」
「まぁ!そうなのですか?では前陛下が王宮へエピドート夫人を招聘したのを快く思わなかった貴族もいたのではないですか?」
「あぁ。それは大丈夫。既に王太子殿下の脱走癖は知れ渡っていて、口々に『エピドート夫人以外に王太子殿下の教育は無理だ』とまで言われていたもの」
「ですが、エピドート夫人はよく王宮で教師をすることを受けましたね」
「あぁ。それはカトレア様が教師になるにあたりいくつか条件を出したのよ」
「条件ですか?」
「そう。
一つ、王太子殿下とその側近候補の子息以外の教育は行わない。
一つ、時間までに王宮側で王太子殿下を捕まえてレッスンを受けられる状態にしておく。
一つ、王太子殿下の教育が終了したら修道院へ入ることを認める。
以上の3点を約束してもらって教師になったのよ」
あれ?でもおかしいな。なんで一時的とはいえジョージ様の教育係を受けたんだろう?
だってその頃はもう、エピドート夫人は修道院にいたわけで・・・
お母様はその事知らないよなぁ・・・一応聞いてみるか
「なるほど。でも昔、ジョージ様の教育係が体調を崩して長期療養に入ることになった時に、エピドート夫人が一時的に教育係を務められたとお聞きしました」
「カトレア様は、恐らくサルファー宰相の懇願に折れたのでしょう。サルファー宰相が夫人から指導を受けていた際、陛下よりも年が上なのだからお手本になるようにと度々お願いをされていたそうよ。だからサルファー宰相のお願いを断らなかったのかもしれないわね」
なるほど。情に厚いご夫人なのですね。
そして問題児の扱いに長けていると。
今日、ジェリク様が陛下にエピドート夫人のいらっしゃる修道院に送ることを提案するって言ってたけど、大丈夫なのかな?
恐らく、ジョージ様はジョージ様で宰相様に提案していそう・・・
明日、登校したら聞いてみようかな?
それに、いつまでも騎士団の方たちを監視に回せないだろうし、ジェリク様は嬉しいかもしれないけど、そろそろリリウム様もお家が恋しくなってきているみたいなんだよなぁ~
昨日のサフィール侯爵家でのお茶会が終わって、王宮に戻るのちょっと躊躇ってたんだよね。
双子姉妹のイリス様とシンディ様も寂しそうにしていたし、明日エピドート夫人のいらっしゃる修道院を候補にいれることを提案したのか聞くついでに、早めに選定を終えてリリウム様をお家へ戻してもらえるようにお願いしてみよう。
私だけでダメなら、お兄様とラジェル様にも協力をお願いしよう。




