お母様の尋問タイム
屋敷に到着するまで、馬車の中の雰囲気はピリピリしていました。
早く到着して欲しいような欲しくないような・・・
ソウコウしているうちに屋敷に到着してしまいました。
お父様たちに続いて馬車から降りると、速攻でお兄様に捕まりました。
・・・やっぱり逃げられないか。
「マリエル。今日は疲れたでしょう?早めに休みなさい」
お母様が私の退路を断ちます。
「そうだな。陛下への報告も済んだから近いうちに領地へと戻るからな。今日は早く寝なさい」
お父様まで、お母様の援護に回ります。
はっきり言って四面楚歌です。
「はい。父上、母上、兄上、姉上。お休みなさい」
「「「「お休み。マリエル」」」」
とりあえず、マリエルを自室へと戻し、私はそのままサロンへと連行されました。
これから質問という名の尋問が始まると言う訳ですね。
ですが、先輩とそのお家の事を考えると、絶対に言えない・・・
知らぬ存ぜぬを通さなければ!
「さてと。マリア?先輩の名前は思い出せたかな?」
お兄様からの先制攻撃です。
お父様とお母様も笑顔ですが、目が笑ってません。
「あの・・・本当にお名前は存じ上げないのです・・・」
目が泳いでしまいます。正直いって、三人の笑顔が怖いです。
だってジェリク様から、お父様が陛下へ婚約の報告のために登城することになって、城内で仕事をしている貴族たちがお父様へのトラウマから仕事にならなくなると困るから、特別に謁見の間での報告ではなく、国王執務室での報告になったと聞いたら・・・絶対に言えないでしょう?
「マリア?本当に知らないのかな?」
「まさか、その先輩のことを庇っているのかしら?」
「お父様、お母様。本当に存じ上げないのです。それに最近はお兄様のことを聞きに来る先輩や同級生が多くて・・・」
何とか話しの矛先をお兄様に変えられないかしら?
お父様には、お手紙でお願いしたのにリストアップしてくれてないのだから、ここいらでちょっとプレッシャーを掛けておかないと、そのままスルーされちゃいそうだもの。
「あら?それはどういう事なのかしら?サリエル。説明してくれるわよね?」
おぉっ!?お母様が反応した!よっしゃ!ここが踏ん張りどころよね。
このまま話題をお兄様へとシフトさせれば開放されるかも。
「は、母上?今はマリアを呼び出した令嬢について聞いているのではないのですか?」
お兄様も自分に矛先が向いたことを察したのか、私の話しに戻そうとしてます。
ちょっと動揺しているみたいです。
「確かにそうだけど、サリエルのことをマリアに聞きに来る令嬢が多いのもねぇ」
お兄様・・・目が泳いでいますよ?
お父様はリストアップ出来なかったから、私とお母様の方を見ないようにしています。
・・・私のお願い通りにリストアップしていれば良かったのに。
そしてお母様はお兄様から聞きだせないと判断したのか、私に聞いてきました。
「マリア。サリエルのことを聞きにくるってどういうことを聞かれているのかしら?」
「えっと・・・本当にお兄様に想い人はいないの?とか、好みの女性のタイプは?と聞かれます」
「そう・・・それでマリアはなんと答えているのかしら?」
「あの・・・妹の私でも分からないのでお兄様に直接お聞きください。と」
私の答えを聞いたお母様は何かを考え始めました。
お兄様を見るとその目はありありと【裏切ったね?】と言っています。
なので私も【自業自得では?】とお兄様へ目で訴えます。
「・・・マリア。その令嬢たちだけど、学園の先生方はどのように対処しているのかしら?」
あれ?先生方に飛び火した!?
「授業に遅れないように、令嬢方を散らしてくれています。お兄様とライアン様の決闘が決まってからは、準備と対応で追われていたのでここしばらくは対処していただけませんでしたが・・・」
「そう。では今は対処してもらっているのよね?」
「はい。それにラジェル様と婚約したことが学園中に広まったので、今後はしつこく聞いてくるご令嬢は減ると思います」
「どういうことかしら?」
「リリウム様はラジェル様の妹ですよね?」
「そうね」
「そして、リリウム様はこの国の第二王子ジェリク様の婚約者です。私がラジェル様と結婚したらリリウム様は私の義妹になりますもの」
そこまで説明すると、お母様は納得してくれました。
ジェリク様がリリウム様にベタ惚れだという事を知っているのでしょうか?
・・・きっとマグリア夫人から聞いたのでしょうね。
こうやって夫人ネットワークって出来上がっていくんだろうなぁ~
とりあえず、私に令嬢方がお兄様のことを聞きに来る理由と、その対処については納得してくれて私は・・一安心です。
まぁ。今度はお兄様がお母様から質問攻めされる番です。
「サリエル。あなた、自分のことでマリアが令嬢方から質問攻めに合っているのを知っていたのかしら?」
「・・・それらしいことは聞いています」
「それで?今、想いを寄せているご令嬢はいるのかしら?」
「いえ。ですが、私はまだ3学年です。卒業までに相手を見つければ良いかと考えています」
「そう。ではあなた?あなたは父親として息子の婚約者候補についてどう考えているのかしら?」
お母様からのご指名にお父様がちょっぴりビクっとしました(笑)
私から手紙でお兄様の婚約者候補をリストアップして欲しいとお願いされていたとは絶対に言えないと思う。
そして話しの流れによっては、お兄様の婚約者候補となりえる令嬢のリストアップがお父様からお母様へと変更になってしまいそうですね。
「サリエルの婚約者候補の選定については、吟味を重ねている。サリエルが家督を継いだら伴侶となる令嬢は辺境伯夫人となるのだからな。下手な家の令嬢を選ぶわけにはいかない。それに、基本的に領地にいることになるから、王都から離れたくないという令嬢は問題外だからな」
「まぁそうよね。私は王都での貴族間のやり取りにうんざりしていたから問題なかったけれど。それで?サリエルには理想の婚約者像はあるのかしら?」
おぉ?お母様ナイス質問!これだけでも分かればお兄様のことを聞きにくるご令嬢方の対応が楽になる!
「えぇ。ありますよ母上」
「それは聞いても差し支えないのかしら?」
「もちろんです。私の婚約者の理想像は母上ですよ」
「私?」
「はい。父上も仰っていたように、私が父上の跡を継げば、そうそう王都へ来ることはありません。母上が父上を支えているように、私のことを支えられる令嬢が理想です」
マザコンと思われそうなことを言ってるけど・・・
お母様のような令嬢が理想って・・・それはかなりハードル高くないか?
ご令嬢方がお母様はどのような人かを、ご自分の家族に聞いたらほとんどのご令嬢が諦めちゃうんじゃなかろうか・・・
まぁ、爵位や見た目で群がってきている令嬢方を篩いにかけるのには最適な理由かな?
よし!!今度からお兄様の理想のタイプを質問されたらそう答えよう。
お父様には、爵位目当てや見た目でお兄様を狙っていた令嬢をこっそりと教えておこう!
ついでに、お兄様の理想を聞いて脱落した令嬢をリストアップして送ってあげよう。
多少は候補選定の足しにはなるでしょう。
ちらっとお母様を見てみれば、跡継ぎである長男の理想のタイプが自分だといわれて嬉しさを抑えきれないといった感じですね(笑)
お父様に関しては、誇らしそうです。まぁ・・・自分の妻が息子の理想だと言われ、自分のことを支えてくれていると分かってくれていることが嬉しいのでしょう。
お兄様の機転(?)でホンワカした雰囲気でお母様の質問タイムは終了したのでした。