知りたくなかったかも
ずいぶんと長かったお兄様とお父様のお話し合いって何を話し合ってたんでしょう?
皆様の視線は恥ずかしすぎるので総スルーで(笑)
一人考えこんでいるとお兄様が
「何を話し合ってたか知りたい?」
と真面目なお顔で言いました。
嫌な予感がするけど・・・でも聞かないと悩みすぎて禿げそうだし・・・
「・・・知りたいですわ。教えて頂けるのですか?お兄様」
「もちろんだよ。でも、ここではちょっとね。屋敷に帰ってから教えてあげるよ」
うぅ~今すぐ知りたいけど、お兄様がこう言うってことは他の方たちには聞かせられない内容ってことだよね?
何か深刻な内容なのかな?
「この後、マリア達はどうするの?」
「えっと・・・この後、陛下と王妃様に呼ばれていますので、侍従の案内で応接室へ移動する予定ですわ」
「マリアも?私も陛下がお呼びになっていると、さっき伝えられたから・・・不愉快な叫びについてのことかな?それとも、ライアン殿が言っていた戯言のことかな?」
お兄様・・・めっちゃ良い笑顔ですが、目が笑っていませんよ?
私含め、この部屋にいる人間ガクブルです。・・・ラジェル様以外ですが(涙)
お兄様の仕度が整うのを待って、皆で応接室へと移動です。
和気藹々と移動しますが、誰一人としてエリカ嬢の叫びについて触れません。
というより触れられない感じ?
応接室の扉前で、案内してくれた侍従も私たちも固まりました。
と・・・扉の向こうから冷気が・・・(泣)
流石のラジェル様も固まってます。っていうかジェリク様はご両親でしょう?なぜ私たちと一緒に固まっているんです!?しかも、一番顔色が悪いし!
最初に再起動したのは、案内してくれた侍従でした。
「陛下、王妃様。皆様をご案内いたしました」
「うむ。全員入れ」
うわ~入りたくないなぁ~。陛下の声めっちゃ低かったし・・・
みんな最初に入りたくないのか、【誰から入る?】と視線を交わします。
すると、視線はこの中の最年長である、ラジェル様へと集まります。
一瞬だけ逡巡すると、ラジェル様は諦めたように溜息を一つつきました。
「・・・失礼いたします」
応接室に入ると、陛下と王妃様が待っていました。・・・いや、待ち構えていた?
先ほどまで、扉前で感じていた冷気はきれいさっぱり無くなってます。
流石に、子供たちを怯えさせては・・・とお考えになったのかも知れないですね(笑)
陛下より、座るように促されますが、私はどこに座れば?
具体的には『お兄様の隣』か『ラジェル様の隣』どちらに座るべき?
ちょっと悩んでいる間に、お兄様はさっさと一人がけのソファに座りました。
・・・そうですか。これは、暗にラジェル様の隣に座れということですね?
本当にお兄様はラジェル様に弱みでも握られているんですかね?
「そなたがサリエル・フローライトか?」
「はい。初めてお目にかかります。ギルフォード・フローライトが長子サリエルでございます。学園の騎士科3学年に在籍しております」
「うむ。今日は見事だったぞ。学生時代のギルフォードにそっくりだ。これは先が楽しみだな」
「ありがとうございます」
陛下と王妃様に初めて会うお兄様のご挨拶が終わると、陛下がおもむろに切り出しました。
・・・十中八九リナライト男爵夫妻に関する事はエリカ嬢の事でしょう。
「実はな、先ほどまでボーナイト騎士団長と、リナライト男爵夫妻と話しておったのだ」
「・・・陛下。それはエリカ嬢の事で、でしょうか?」
「その通りだ。マリア嬢」
「・・・エリカ嬢がライアン様に嘘を言って、応援に来ていたからですか?」
「そうだな。学園の人間で今日訓練場に入ることができるのは騎士科の生徒と関係者、それに審判を行う教師だけだ。エリカ嬢は関係者でもなく、普通科のAクラスでもない。そもそも王宮内に立ち入る資格すらないのだよ」
あ~・・・そっか。今日の決闘の見学者は、騎士科の生徒たちと関係者としてジェリク様たち王族とその婚約者、そして妹の私。ラジェル様は卒業しているからノーカウントって事ですね。
「息子に嘘を吹き込んだと、ファルコが怒ってのぅ・・・エリカ嬢本人を前にしたら切りかかってしまうんじゃないかと思って、親であるリナライト男爵夫妻を呼び出したんだが・・・」
うん?何でそこで言いよどむんだろう?
何か言いにくいことでもあったのかな?
「あまり効果がなくてな・・・男爵夫妻がファルコが放つ怒気に終始震えていた」
・・・あぁ。そうでしょうね。関係ない私たちも怖かったし。
でも、エリカ嬢の行動を改めさせることが出来なかった時点で男爵夫妻も同罪でしょ。
それでなくても、学園で問題起こしすぎて、首の皮一枚で学園に通うことが出来てるのに。
今日のエリカ嬢の叫びはマズかった。
これが、騎士団の訓練場じゃなくって学園でのことなら、まだ釈明の余地はあったかもしれないけど、学園関係者以外。それも陛下という一国の元首の前での奇行と、騎士団長子息を欺いたことはよろしくなかったね。しかも、それがライアン様の口からもたらされてるからなおさら。
下手すればライアン様も連帯責任で罪に問われるかもしれなかったわけで・・・
そりゃ騎士団長も怒るでしょ~うちのお父様以上に怒ってそう・・・
「まぁ。一年やそこらで貴族令嬢としての礼儀作法を完璧にしろとは言わんが、学園からあがってくる報告書を見る限り反省の色も見えないしな。だからこれから学園長を呼び出して、エリカ嬢の学園での処遇について話し合おうと考えている」
そうなりますよね~でも、エリカ嬢は今度問題を起こしたら退学って言われているんですよね~
奇声を発して廊下を走ったりしたことは、先生方がお目こぼししたんですよ。
本来であれば、問題行動と見なされますからね。
まぁ。お兄様と私が兄妹だということを知ったエリカ嬢の奇行は見なかったことにされてて良かったです。
だって、知らなかったエリカ嬢の行動も問題だけど、その理由が私たち兄妹っていうのが・・・
あれで退学させられてたら、正直いい気分ではないし。
「そうですか。たしかに彼の令嬢は学園の廊下を淑女にあるまじき奇声を発して走っていたようですし・・・本日の件については陛下のご判断にお任せします」
「ふむ・・・その学園の廊下を走っていたというのは、サリエル。そなたが事情を聞きにきた職員にこれ位のことで退学となってはマリア嬢が気に病むからと、職員に目こぼしを頼んだらしいが・・・それは本当か?」
「はい。マリアに直接危害を加えられた訳ではございませんから。それに、多数の生徒たちに目撃されているため、彼の令嬢も男爵夫妻も社交に不都合が出始めているのでは?」
「そうだな。それはフローライト辺境伯夫人からの情報か?」
「はい。エメリア侯爵夫人と頻繁に手紙のやり取りをしておりますので、若干のタイムラグはございますが、王都で起こったことや学園で起きたことなどを詳細に綴っているみたいです」
「王都のことはわかるが・・・学園でのこともか?」
「はい。従兄のオーランド・エメリアの婚約者は現在、学園の普通科最高学年に在籍していますから、婚約者経由でエメリア侯爵家に学園内での騒動が伝わってます」
アスター伯父様!?ウィンディ伯母様!?いったい何をしてらっしゃるのでしょうか!?
道理でアスター伯父様がしつこく学園巻き込まれたアレコレを知ってて、なおかつ詳細を当事者である私に聞きたがるわけだ・・・
お母様宛の手紙に書く内容を集めてたってことか・・・面白いこと大好きなアスター伯父様が言うことを聞く唯一の人。ウィンディ伯母様がエメリア侯爵家で一番強いってこと?
っていうか、そんなこと知りたくなかったよ・・・(泣)




