嵐がやってくる
今回はジェリク視点です
私の名はジェリク・アダマンティ。アダマンティ王国の第2王子だ。
今年13歳になり、婚約者のリリウムとアダマンティ王立学園に入学した。
リリウムは8年前に婚約したとても美しく優秀な自慢の婚約者だ。
学園では同じクラスになった。このままの成績でいれば、5年間同じクラスで学べる。
リリウムに虫がつかないように監視もできるしな。
さて、同じクラスにはフローライト辺境伯の娘である、マリア嬢がいる。
このマリア嬢はリリウムの恩人だ。
学園の入学直後から私や妹の婚約者であるアラン、宰相子息のジョージの周りをうろついているおかしな男爵令嬢が、あろうことかリリウムに嫌がらせをされたと騒ぎ立てた。
そのときに、件の男爵令嬢が自分で教科書や制服を破いている現場を偶然目撃してリリウムを救ってくれた。
冤罪とはいえ、リリウムは王族の婚約者で侯爵家の娘。あらぬ噂が流されたらサフィール侯爵がこれを好機と婚約破棄を言い出しかねない。
サフィール侯爵は子煩悩で、政略結婚を良しとしない御仁だ。
最初、私との婚約も難色を示していたくらいだ。ついでに、今もこの婚約に納得してない。
もっとも、リリウムが婚約を受け入れてくれたから、最後には侯爵も折れたわけだが・・・
男女別の授業直後に起こったことだから、私はその時にリリウムの側にいてやることができなかった。
冤罪騒動の経緯は、リリウムとクラスメイトの令嬢たちから聞いた。
リリウムが、お礼をしたいがどうすれば良いのかと相談を受けた。
恐らく、侯爵は侯爵で礼をするだろうしな・・・
そこで私は、国王である父と王妃である母にあるお願いをした。
婚約者を冤罪から救ってくれた恩人を王宮の夜会に招待したいと。
両親は、私がリリウムに心底惚れているのを知っているし、厳しいお妃教育を受けつつ学園に主席入学できるほどに努力しているのを知っている。
両親も私の兄・姉・妹もリリウムのことをかなり気に入っている。
リリウムに不誠実なまねをしようものなら、侯爵家のみならず、家族からも叱責されてしまう。
それどころか、追放されてしまうかも・・・私が。
事情を説明すると、既に娘認定しているリリウムを冤罪から救った恩人ならぜひ招待しよう。
ついでに、非公式ではあるが面会してみたいとも言っていた。
ちなみに、夜会後に両親から、私がリリウムと出会った茶会にマリア嬢も妃候補として出席していたが、突然倒れてしまいそのまま帰宅。後日フローライト辺境伯から候補を辞退する旨の書状が届いたとか。
あの茶会にマリア嬢が出席していたのにも驚いたが、倒れて運ばれていった令嬢だったのかと、不思議な縁を感じたものだ。
夜会当日、マリア嬢は両親のフローライト辺境伯夫妻と一緒に登城した。
私も、両親とリリウムと一緒に応接間へと入る。
入試でも上位の成績に入っているマリア嬢は綺麗な礼をした。
辺境伯夫妻の教育の賜物だなと関心する。
話しは進み、リリウムを救ってくれた礼を告げる。
父とリリウムから礼を言われて慌てていたのはご愛嬌だ。
夜会が始まると、なぜかマリア嬢はリリウムの兄であるラジェル殿と一緒にいた。
しかも、ダンスを踊っている!あのラジェル殿が!!
社交界デビュー後、ご自分から令嬢をダンスに誘うことがなかったのに!
リリウムも、兄がなぜマリア嬢と一緒にいるのか疑問に思ったみたいだ。
早速、ダンスを踊り終わった二人のもとに向かい、話しを聞く。
なぜか、妹のロベリアと婚約者であるアランも一緒だったが。
・・・お友達ねぇ。ラジェル殿は明らかに婚約者としてマリア嬢を狙ってるよな。
マリア嬢はこの手の話しは鈍感で気づいていないのか、あえてスルーしているの分かりづらい反応だな。
ちらっと両親の方に視線を向ければ、侯爵が何かを話している。そして頷いている。
恐らく、侯爵からラジェルの婚約者にマリア嬢をと話しているのかもな。
侯爵も、息子自らダンスに誘っているのを見ているしな。
長期休暇後の学園はラジェル殿とマリア嬢の話題だった。
そのせいかマリア嬢は勘違いした先輩女生徒から階段から突き落とされる事件もあった。
おかしな男爵令嬢は、マリア嬢がサリエル殿の妹と知ってからは静かなものだった。
騎士科の剣術テスト最終試合では、騎士団長子息がサリエル殿に何か話した直後にサリエル殿の纏う空気が一変していたな。
後日聞いた話しだと、自分が勝ったら例の男爵令嬢のエスコートをサリエル殿がマリア嬢のエスコートを自分がすると言ったとか。
騎士団長子息はマリア嬢のことが好きなのだろうか?もっとも本人は気づいていないと思うが・・・
最近、妹のロベリアが妙に学園での事を聞きたがる。
しかも、マリア嬢のことについてだ。
ロベリアは隣国に嫁いだルピリア姉上にマリア嬢とラジェル殿のことを手紙で報告しているらしい。
アランも婚約者にねだられて話しているみたいだが、王宮で共に暮らしている私に聞きにくるのも仕方がいのかもしれないが・・・
まさか、新年祝賀会に姉上が夫である皇太子を国において参加するとは思わなかった。
侯爵からの要請で、両親はフローライト辺境伯夫妻とマリア嬢に新年祝賀会の招待状を送っている。
そのことをロベリアは姉上に手紙で報告→母国の新年祝賀会に参加(夫は国に置き去り)となった。
なんというか・・・マリア嬢申し訳ない。私には暴走する姉妹を止められない。
これは両親や兄でも無理だ。恐らくリリウムにも。
いや、それどころかリリウムからも話しが聞きたいと連れて行かれる可能性があるな。
新年祝賀会まであと4日。頭の痛いことだ。




