大山 圭吾の通信記録
私の乗る有人宇宙ロケットが、周りにストーリーロケットと呼ばれている理由を皆さんはご存じでしょうか。答えは簡単。私がロケットに積め込めるだけの本やDVDを積みこむからです。何故小説やDVDをロケットに積み込むのかというと、よく勘違いされがちですが、私が読んだり観たりするためではないのです。とある友人のためのプレゼントなのです。
その友人との出会いは小学校五年生の頃で、父のトランシーバーを勝手に自室に持ち込んで使っている時でした。
実はというと、私が宇宙に興味を持ちだしたのは四年生の頃で、それまで何の興味もありませんでした。ただの難しい空間ぐらいの認識で、授業や教育番組で聴く宇宙の話にもあくびしてばかりで。
そんな私が突然宇宙を好きになったのは、ある映画のおかげでした。皆さんはご存知でしょうか『地球の侵略者』という映画なのですが。あまり有名な作品ではないので、知らないという人も多いでしょう。映画のストーリーは地球を侵略しに来た宇宙人を主人公達地球防衛軍がやっつけるというよくあるものです。
ですが、そんなよくあるものが私の世界を変えた。家でたまたま録画されて、誰も観ないままDVDの中で眠り続けて、偶然見つけたそのDVDを退屈しのぎで観ていたら、世界を変えられていたんです。
あの瞬間から、ただの穴の開いた遮光カーテンのようにしか見えなかった星空が、地球という船を包み込む無限に広がる素晴らしい宝のように見えました。退屈だった宇宙の話も、まるで神様の言葉を聞いているようでした。
さて、私の宇宙好きのきっかけを話し終えたので、友人の話に戻りましょうか。
トランシーバーをいじっていた理由は父の影響などではなく、宇宙人とコンタクトを取り、もし相手が地球を侵略する気でいるのなら、映画の主人公と同じ様に戦おうと思っていたからです。今思い返すと少々恥ずかしい行動ですが、子供の頃のことなので大目に見てくださいね。
その日も、夜の八時頃に自室でトランシーバーをいじっていました。でも、聞こえてくるのはザーザーと耳障りなノイズのみで、今日も駄目かと肩を落としたその時でした。
ノイズの中から微かに不思議な声が聞こえたのです。初めは外国の方に繋がってしまったのかと思ったのですが、どうも聞いた事のない言葉でとにかく不思議な話し方でした。
私は、もしやと思い慎重にトランシーバーの周波数を会わせました。人生の中で一番真剣に集中していましたね。段々と声がハッキリしてきて、ノイズもほぼなくなった所で私は「もしもし、聞こえますか?」と相手に応答を願いました。
すると、相手は驚いたような声を上げ、他に誰かいるのか一人なのかは分かりませんが謎の言葉を早口でまくしたてたかと思うと、カタカタと何かを操作し始めたんです。
本当に宇宙人かもしれないぞと思った私は、こっそりスマートフォンの録音アプリを起動させました。ここからは、その謎の声と私の通信記録となります。
私:もしもし、聞こえますか? 聞えてたら返事をしてください。
宇宙人?:あー、あー。よし、翻訳機に問題なし。君は地球の子供かい?
私:はいそうです。貴方は宇宙人ですか?
宇宙人?:まあ、そういう者になるのかな。
私:本当!? 本当に本物の宇宙人!? 凄いや大発見だ!! 今地球にいるの? それとも太陽系のどこかで地球を観察しているの? やっぱり地球の鉱物や水を狙って地球を侵略しに来たの?
宇宙人:質問は一つずつにしなよ。それに、侵略なんて恐ろしい行動するわけないじゃん。たまたま太陽系の近くを通っていたら、君の信号をどういうわけかキャッチしちゃったんだよね。
私:侵略してこないの?
宇宙人:別に欲しくもないしなー。地球よりも優れた星は沢山あるからなあ。私の住む星から最も遠くて、優れた知性があるわけでもなし。他の宇宙生命体と未だに接触すらできていない孤独の星を欲しがる奴らはいないんじゃないかな。
私:孤独の星って?
宇宙人:私の住む星の周りには様々な星が集合していて、何百と種類のいる宇宙生命体達がそれぞれの星同士同盟を築いて互いに助け合いながら生きているんだ。一つも同盟を結んでいない地球は、まさに孤独の星だよ。こんなに広くて沢山の生き物が居る宇宙で、ただぽつんと一つだけで浮かんでるんだから。
私:そんな……で、でも地球は良い所なんだよ。侵略する気が無いんならさ、せめて遊びに来てよ。
宇宙人:それはできないな。法律で同盟星以外の宇宙生命体との接触は避けないといけないんだ。私達はやってくる者だけを受け入れる。自ら招くことはない。君達地球人じゃこっちにたどり着くまで何億年かかるか分からないけどね。あ、今の君との通信は別に気にしなくて良いよ。記憶を消したりもしない。どうせ子供の言うことなんて信じる大人はいないだろうしね。ていうか、私たちは隠れてるわけじゃなくて、君たちが見つけられないだけだから、別にばれてもいいんだけどさ。
私:……なんだよ…映画と全然違うじゃないか…。
宇宙人:映画?
私:『地球の侵略者』ってSF映画があるんだけど、僕その映画のおかげで宇宙が好きになったんだ…。て、地球でもあまり知られていない映画の話を宇宙人にしても意味ないよね。
宇宙人:それってあれかい? 金髪で青いひとみの地球人が隊長の地球の軍隊が、顔色の悪くてヌメヌメしてて気色の悪い触手を持った地球外生物を宇宙空間で倒す話の?
私:え?…そうだけど。
宇宙人:その映画とかいうの、私は観たことある。
私:ええ!? どういうこと!!?
宇宙人:何年か前に指名手配されていた犯罪者を捕まえて、そいつの宇宙船を調べていたら、小さな丸い円盤が見つかってね。分析したところそれが地球のDVDという娯楽品だということが判明したんだ。同盟を結んでいない星から勝手に物を持ってくるのは犯罪だから、もちろん没収したんだ。そしたらそのDVDを私と船にいた他五人の連中で、観てみようということになっちゃって。まあ、押収した証拠品のチェックつうわけ。私達の手にかかれば、DVDがどのような仕組みの物なのか簡単に分析できたよ。コンピューターが一瞬にしてDVDの中にある物を映し出してくれたさ。それで、映し出されたのがその映画。残酷なシーンや武器のうるささには驚かされてさ、目を背けたり、戦争を美化してると騒いだりしてた奴が殆どだった。でも、誰も映画を止めようとはしなかった。面白かったんだよ。みんなだんだんとしゃべるのを忘れちゃうくらいにね。観終わったあとは証拠品だから提出して、用がすんだら処分しなきゃならないんだけど、みんな名残惜しそうだった。私も出来れば、手放したくなかった。いや、あれは本当に良い物だったよ。主人公が宇宙船に乗りこんできた地球外生命体に追い詰められて死を悟った瞬間に、妻と娘の姿が脳裏をよぎり、彼女達を守るべく己を奮い立たせ一人でも立ち向かう。あのシーンには胸に迫る物があったなあ。
私:ぼ、僕もそのシーンかっこいいとおもう! でも宇宙人たちをやっつけるために宇宙に旅立つシーンも僕好きなんだ!
宇宙人:ああ、確かに宇宙の美しさが良く出てたなー。私達の星にも物語はあるけど、どうもパッとしなくてさ。地球には他にも面白い物語が溢れてるんだろ? 羨ましいよ…。
私:だったら、僕が届けてあげる。僕、宇宙飛行士になるよ。本当は地球を守るのが夢だったんだけど、君が僕の友だちになってくれるんだったら、夢を変更して届けてあげてもいいよ。
宇宙人:ハハハ! それはいい考えだ! じゃあ、私と君は今から友達だな。もし出会えたら、一緒にあの映画を観よう。
私:うん、必ず持って行くよ。約束だよ。
宇宙人:ああ、約束だ。いつかで会える日を楽しみにしているよ。
こうして私は、宇宙人を倒す武器よりも友人を喜ばすための物語を、ロケットに詰め込むことになったのです。
こんな話はデタラメだ、宇宙人なんているわけない。と考えになる方もいるでしょう。それでもいいのです。私は誰かにこの話を信じてもらいたいわけでも、宇宙人との通信を自慢したいわけでもありません。
この話は自分自身のために書いているのです。私が死んだ後、生まれ変わった私が、どこかにちらばった私の思いが、この話を呼んで友人に物語を届けてくれるように、私の願いがかなうように、書いているのですから。