ギルド長と正体の露見
8月13日 本文中に追加の記述をしました。ストーリー全体としては、変更はありません。
『ギルドマスター』
慎吾の口から出たその単語に、エレイナは改めて相対する男を見る。
その姿は先程とさして変わらないように見えるが、わずかに警戒しているようにエレイナには感じられた。
「・・・そう思った理由を、聞かせて貰おうか」
「なに、別に大した事じゃない」
警戒しながら聞き返す男に、慎吾は肩をすくめながら話す。
「この部屋に来たときから、少し疑問を感じてた」
「疑問?」
続く慎吾の言葉に、エレイナは思わず疑問を投げ掛けた。
「そうだ。ギルドマスターを狙うような奴らを自由に動かさない為に、この部屋で加入試験をやる。案内してきた女性は、そう言っていた」
「ああ、そうだ。それのどこが問題なのだ?」
行先の分からなくなってきた慎吾の言葉に、エレイナは眉をひそめる。
「考えてみろ。わざわざ主要施設から遠い所で試験をやるのに、どうしてここにはギルドの戦闘員が誰も居ない?」
「!」
しかし、続く慎吾の言葉にエレイナはハッとする。
言われてみれば、その通りである。
普通、被害を抑えるために戦闘員が常駐していてもおかしくはない。
むしろ、それに今まで気づかなかった自分に驚いた。
魔王との闘いが終わって気が緩んでいたかと、エレイナは歯噛みした。
正確にいうと、エレイナのその考えは正しくはない。
あたかもそれが普通であるかのように女性が振る舞っていた事に、エレイナが乗せられただけである。
「それに、なんでわざわざ案内してきた女性がそのまま試験場の中まで入らない?」
「そ、それは、中に別の人が居るからではないのか?」
混乱しながらも、エレイナはもっともらしい理由を返す。
「だから、それが非効率なんだって。普通、何回も名前の確認なんざやらねえだろ?」
それ以外にも、慎吾は奇妙な点を幾つか挙げていく。
わざわざ裏に入る理由に何度も通る同じ通路、そして部屋の頑丈すぎる扉など。
それを聞いていると、エレイナもこの試験の奇妙さが理解できてきた。
「この試験が変なのは、理解できた。しかし、なぜ彼がここの受付の男でギルドマスターだと思った?」
「それは、簡単な話だ」
エレイナの疑問に、慎吾は男を見る。
男は最初の場所で立ったまま、こちらをじっと見ていた。
「『マジッククリア』」
バシュッ
「!?」
慎吾が解呪の魔法を使用した瞬間。
巨漢の姿が消え、その後ろから羽を伸ばした男が現れた。
背は先程の巨漢より少し低く、全体的に細身な男だ。
もっとも、痩せているというよりは引き締まっていると表現した方が良いか。
ゆったりとした服の裾からは、鋼線を縒り合わせたかのような筋肉をもつ肉体が見え隠れする。
「幻影・・・か?」
「ああ。多分、自分に幻影を纏わらせていたんだ」
と、男の横に先程の大剣が音を立てて落ちてきた。
「やっぱり、剣は本物か。自分の動きに合わせて、幻影を動かしていたんだろ?」
「そ、そうか。しかし、魔力は感じなかったぞ?」
慎吾の言葉に頷きつつも、エレイナは疑問をうかべる。
今もそうだ。目の前に立つ男からは毛ほどの魔力も感じていない。
「よほど、魔力の制御が正確なんだろう。けど、幻影と実体の動きが完全に同調してなくて、剣を上げるときに腕がぶれてたぞ」
続く慎吾の言葉に、エレイナはまたしても納得した。
確かに魔力の制御が計画ならば、相手に魔力を感じさせる事はない。
慎吾も模擬戦等でたまに使用する、上級の魔力の操作技術だ。
続いて、慎吾は自分達の入ってきた扉を見る。
「あそこに居た男も、あんたの幻影だろ?喋るときに口が動いてなかった」
「話している途中に、良くそんなことに気付くな・・・」
慎吾の言葉に、エレイナは感心を通り越して呆れていた。
エレイナがそう言うのも、無理もない。
普通なら、緊張や高揚でそんな細かい所を気にすることも無いのだ。
「この規模で幻影を操れる実力者で、さらに試験の事に口出しできる立場の人間っ
て言ったら、ギルドマスターぐらいしか居ないはずだしな」
そう言って、慎吾は男を見る。
「ハーー」
「?」
「ハハハハハ!」
「!?な、なんだ!?」
いきなり大笑いしだした男に、さすがの慎吾も驚く。
「お、俺の幻影がここまで簡単に見破られるなんて、何年ぶりだぁ?ハハハハハ!し、しかも、俺がギルド長って事まで見破りやがった!」
いきなりの展開に慎吾達が呆然としていると、男は目に溜まった涙を拭きながらこちらを向く。
「いやぁ、すまねぇ。お前の言う通りだ。俺はここ 《ビランツァ》のギルドでギルド長をやっている、バラディス・ザンダールって者だ」
「さてと、俺達をここに呼んだ理由を聞かせてもらおうか?」
慎吾が男ーーバラディスに対して、最初の質問を繰り返す。
先程の言葉から、ギルド長が慎吾の言うギルドマスターと言うことは分かる。
しかし、相変わらずここに連れてきた理由は不明なままだ。
「俺がギルド長だと知っても、態度をかえねぇか。ますます面白れぇ」
「早く、質問に答えてくれないか?」
口端を歪めるバラディスに、慎吾は不機嫌そうに言い放つ。
「ったく、せっかちだなぁ。まあ、良いけどよ。ここに呼んだ理由は、お前達の実力をこの目で見ておきたかったからさ」
「俺達の実力?」
怪訝そうな慎吾の言葉に、バラディスが頷く。
「ああ、そうだ。受付の奴から、装備を簡単に転移させる奴が来たって聞いたからよ。ちょいと、手合わせたかっただけだ」
「あんたを暗殺しようとする奴らだとは、思わなかったのか?」
余りに意外な回答に、慎吾は思わず聞き返した。
普通なら、ギルド長の暗殺を危惧して、このような事はしない。
「あれだけの実力者が、わざわざ俺が一人になるときを狙うとは思えねぇしな」
そう言って、バラディスは大剣を持ち上げる。
「さぁてと、そろそろ試験をはじめっか。じゃねぇと、外の奴らが怪しむ」
「いや、その必要はねぇよ」
「?」
嬉々としていたバラディスは、慎吾の言葉に首を傾げる。
すると、エレイナと慎吾が唐突に指を鳴らした。
ーー次の瞬間、バラディスを中心として火の玉と剣が姿を現した。
その数、それぞれ軽く百は越えている。
「なっ!」
いきなりの展開に目を見開いているバラディスに、二人が同時に言い放つ。
「「もう、全部終わってる」」
そうして、エレイナと慎吾はバラディスに背を向けて出口へと歩いて行った。
「ハハハ・・・マジかよ・・・」
二人が居なくなった部屋の中で、バラディスは呆然としていた。
圧倒的である。
正直、まともに戦ってもバラディスに勝ち目は無かっただろう。
同時に、二人のことについて真剣に考えるバラディスであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「さぁてと、初めての依頼は何にすっかなぁ」
少々予想外の出来事がありながらも、バラディスとの会合と加入試験を無事終えた次の日。
慎吾とエレイナは初めての依頼を受けるために、ギルドの依頼ボードと睨み合っていた。
ちなみに、加入試験は二人とも合格という結果が受付から言い渡された。
半分猫だましのような魔法を使ったため、その結果に内心ほっとした二人であった。
ちなみに、二人のランクは最低ランクの1である。
加入試験の結果に関係なく、全ての冒険者が1から始めるのだそうだ。
「なになに?『街道の大岩の撤去』に『薬草採集』、『ゴブリンの討伐』か。いきなり討伐依頼をやるのは、やめとくか」
「そうだな。まずは、この世界に慣れることが先決だろう」
ランク1の依頼を見ながら、エレイナと慎吾は話し合う。
そんな二人に、奥から出てきた一人のギルド職員が近づいてきた。
周りには二人の他に人が居ないので、二人に何か用があるのだろう。
「シンゴ・ツルギ様とエレイナ・ティアラール様でしょうか?」
「ん?ああ、そうですけど・・・」
(あ、あぶねぇ。エリーが偽名使ってんの、完全に忘れてた・・・)
女性の言葉に冷や汗をかきながら、慎吾が答える。
「お二人に、少々お話ししたいことがあります。こちらに、付いて来ていただけますか?」
「話したいこと?」
職員の話に、慎吾が疑問をうかべる。
職員の話す声が聞こえたのか、周りの冒険者達が騒がしくなる。
慎吾達のような新人にギルド職員の方から話しかけるなど、本来ならあり得ないことなのだろう。
特に変な事はしてないはずだと、疑問に思いながらも慎吾達は女性の後に付いていく。
加入試験の時と同じように受付の横の扉から奥へ入って行くが、前回とは違ってそのまま真っ直ぐに奥へと進む。
「この中で、ギルド長がお待ちです」
「ギルド長が?」
頑丈そうな扉の前に案内された慎吾達は、女性の言葉に首を傾げる。
「はい。何でも、大事なお話があるとか」
「何の話とかは、聞いてないですか?」
女性の言葉に、慎吾は警戒しつつ聞き返す。
「はい。聞いてないですね」
「・・・分かりました。一応、会ってみます」
女性の言葉に少し考えた慎吾は、バラディスに会ってみる事にする。
その言葉を聞いて、女性は扉を2回ノックする。
すこし待つと、中から男のものらしき声が聞こえてきた。
「・・・誰だ?」
「エレイナ様とシンゴ様をお連れしました」
中から聞こえる声に、女性が返した。
「分かった。入れ」
「失礼します」
中からの了承を聞いて、女性は扉を開け中に入る。
続けて、慎吾達も中に入った。
部屋の広さは十畳ほどで、目の前に机があるだけの質素な部屋だった。
そこに、ひとりの男が座っている。
前の加入試験の時に慎吾達が相対した、長身で細身の男ーーバラディスだ。
「ご苦労。お前は、持ち場に戻って良いぞ」
「分かりました」
バラディスの言葉に、女性が部屋を出ていく。
「よう、お前ら。久しぶりだな」
「久しぶりって言いっても、昨日会ったばっかりだろうが」
明るげなバラディスの挨拶に、慎吾が素っ気なく返す。
「素っ気ねぇな。もっと愛想良くできねぇのか?」
「悪いが、底の見えない相手に見せる愛想は無いんだ。そんなことより、俺達に何の用だ?」
軽く睨んでくるバラディスに、慎吾は鼻を鳴らす。
「おう、そうだ。お前達に聞きたい事があったんだ」
「?聞きたい事?」
手を打ちながら話してくるバラディスに、慎吾は訝しげな表情をする。
「そうだ」
「なんだ?聞きたい事って」
少し警戒しながら聞く慎吾に、バラディスは口許を吊り上げる。
「お前達、勇者の知り合いだろ?」
「「!?」」
予想外のバラディスの言葉に、思わず慎吾とエレイナは後ろに下がる。
それを見て、バラディスは膝を叩いて笑った。
どうやら、バラディスのカマかけに引っ掛かってしまったようだ。
「ハハハ。やっぱり、そうか」
「・・・チッ、カマかけやがったな」
バラディスの態度に、慎吾は舌打ちして悪態をつく。
「で?どうなんだ?」
「・・・そうだよ」
目をキラキラさせながら聞いてくるバラディスに、慎吾は溜め息混じりに返す。
「何で、分かったんだ?」
「なぁに、ほとんど勘みてぇなもんだ」
「嘘をつくな。それに、仮に勘だとしても根拠くらいあるだろ」
「・・・やっぱり、隠せねぇか」
肩をすくめながらのバラディスの答えに慎吾が目を細めると、溜め息混じりにバラディスが漏らす。
「お前達が勇者の知り合いって思ったのが勘ってのは、本当だ。しかし、お前達が『世渡り人』ってのは受付の話を聞いてすぐに分かった」
「世渡り人?」
「その字の如く、世界を渡った人間の事だ」
慎吾の疑問に対するバラディスの説明に、なるほどと頷く。
「で?俺達が、その世渡り人とやらだと思った理由は?」
「そりゃ、簡単だ。お前達の使う魔法だよ」
慎吾の質問に、バラディスは足を組みながら答える。
「その魔法は、この世界のどこにも存在しねぇモノだ」
「おいおい。まるで、この世界の魔法を全部知ってるような口ぶりだな」
大袈裟だと言うような慎吾に、バラディスが口許を吊り上げる。
それを見て、慎吾の表情が固まった。
「おいおい。もしかして・・・」
「そう。俺は、この世界の魔法を全部知ってる。おっと、なぜかって質問は今は無しだ」
バラディスの言葉に慎吾の口が開くのを、手を翳して遮る。
「・・・いずれ、聞かせてもらうぞ」
「機会が有れば、な。話を戻すぞ?世界中の魔法を知ってる俺の知らない魔法、ってことはこの世界以外のモノって事だ」
「それが使えるから、俺達が世渡り人だと思ったのか・・・」
「そういうことだ」
気軽げなバラディスの言葉に、慎吾は溜め息をつく。
正直、信じられないような話である。
色々と聞きたいこともあったが、それはまた今度になりそうだ。
「後は、お前さんでも想像つくだろ?」
「・・・1週間前に、近くで大規模な魔力を感じたんだろ?それこそ、勇者召喚でしか使わないような。だから、勇者の関係者だと思った」
「そうだ。召喚される勇者は、その王族の紋章をどこかに着けている。だから、勇者本人ではないと思ったってわけだ」
言いにくそうに繋げる慎吾に、バラディスが補足した。
ちなみにティルキアは既に王族ではないので、勝間達も紋章を着けることはない。
「まったく、正体を隠して生活しようと思ってたのによ・・・」
「大丈夫だ。ほかの奴らには、知られてねぇよ」
肩を落とした慎吾達に、バラディスは事も無げに返す。
しかし、それを聞いた慎吾は、改めてバラディスに詰め寄った。
「・・・本当か?」
「あ、ああ、本当だ。俺も、隠してほしそうなのに言うつもりはねぇからな」
バラディスの引きつつもはっきりと返した言葉に、慎吾は安堵する。
「てな訳でだ。できれば、お前達の事を話してもらいてぇんだが。もしかしたら、協力できるかも知れねぇ」
「・・・分かったよ。後ろ盾なんかも、欲しいと思ってたしな」
そう言って、慎吾とエレイナはバラディスに自分達の事を話し始める。
海香「鶴城君達って、凄いんだね。」
エレイナ「ん?何がだ?」
海「だって、相手に知られずに武器や魔術を設置できるんだもん。」
エ「ああ、あれか。あれは、魔力を凝縮してそれっぽく見せただけだ。」
海「え?そうなの?」
エ「ああ。だから、殺傷能力は皆無に近い。」
海「なぁんだ。そうなんだ。期待して、損しちゃった。」
慎「…とは言っても、あれだけ凝縮するのは難しいんだがな。当たれば、普通に痛いし。」
勝間「ハハハ…。」
いやぁ、慎吾君もエレイナさんも強すぎでしょ。
あと、ギルマスとの決着の時の台詞がかっけぇ。(因みに、某世紀末英雄伝説との繋がりは有りません。)
さて、次話は勝間君と海香さんのお話しーーではなく、久しぶりに四人+2匹(?)が揃って登場します。
少々、グロテスクな描写になるかも知れないので、耐性の無い方はご注意を。(次話の前書きでも書きますが、一応。)