勇者からのお願いと災厄の予感
慎吾達がビランツァに帰還して、2日
「模擬戦?」
前に居たときから使っていた部屋で作業をやっていた慎吾は、突然勝間から言われた事に首を傾げた。
それに対して、勝間が頷く。
「ああ、久しぶりにやってほしいと思ってな」
勝間の言葉に、慎吾は考え込む。
慎吾が今手に持っているのは、バラディスに渡す予定の宝玉だ。
とは言っても、まだ完成はしていない。
今ここで作業を中断しては、また1日中作業をする羽目になる。
さすがに慎吾としても、それは勘弁してもらいたいところだった。
勝間達との模擬戦は2ヶ月ぶりなので、慎吾としてもやりたいところなのだが。
「うーん・・・。今はちょっと、手が離せないからな・・・」
「ならば、我がやってやろうか?」
断ろうとする慎吾に、部屋の入口から声がかかった。
その幼い声とそれに見合わない老齢な口調は、言わずと知れたシームの物だ。
「シームか、どうした?」
「暇なので、外で鍛練でもしようと思ってな。ちょうど、一緒に行く者を探していたところだ」
入口の方を見ずに質問する慎吾に、シームは肩をすくめながら返す。
「今の体に慣れていないのか、魔力の制御が甘くての。魔法を撃つだけならともかく、魔力強化になるとイマイチ調子が出ん」
そう続けながら、シームは手に魔力を纏わせた。
強化魔法などではなく、純粋に自分の持っている魔力だけで肉体を強化しているのだ。
普通の魔法と同じように一度体の外で発動しなくてはならない強化魔法に比べて、強化効率の良い強化方法である。
もっとも体内の魔力を垂れ流しているのと同じ事なので、よほど制御がうまくなくてはすぐに魔力が枯渇してしまうのだが。
それができている辺り、元魔王というのも頷ける話だ。
「えっと・・・シームで良いか?一応、エリーにもついていくように言ってみるからさ」
「まあ、大丈夫だけど・・・」
慎吾の確認に、勝間が言葉を濁す。
先ほどの魔力強化を見る限り、魔法に関しては慎吾並だと思ったのだ。
その考えを見抜いたのか、シームが苦笑した。
「なに、心配はいらん。手加減はするつもりじゃ」
「じゃあ、大丈夫かな」
シームの言葉に、勝間が頷く。
そして、エレイナと一緒に模擬戦を行うことが決定したのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
勝間達が模擬戦に出かけた頃、ビランツァの北にある森を抜けた荒野にてーー
「ハァハァ・・・」
岩や倒木がゴロゴロと転がる土地を、1人の少女が走っていた。
すすけた金髪に、薄汚れた肌。
年齢は、12か13といったところか。
着ているものは汚れているものの、仕立ては良さそうだ。
おそらく、どこかの元令嬢か何かだったのだろう。
道とも言えない場所を走ってきたせいで、泥だらけの足からは血が滲んでいる。
「あうっ」
フラフラと走っていた少女だが、倒木の1本に躓いて転んでしまう。
と、その少女に1人の男が近寄ってきた。
「ヒッ・・・」
「ったくよう。あんまり、うろちょろと逃げるなよな?街の人間共に見つかったら、どうするんだ」
小さく悲鳴を上げる少女に、男は面倒そうに頭をかく。
この荒野は、農地開拓によって拓かれた森のなれの果てだ。
作物は育たず、生き物も居ない。
あまりにも何もないので、誰も近づく事すらしないのだ。
とは言え全く居ないわけではなく、たまに興味本位でここまで足を運ぶ者も居るのである。
「こ、来ないで・・・」
そう言って少女は男から逃げようとするが、足が限界の用ようでまたすぐに転んでしまった。
這うように逃げようとする少女の腕を、男が掴む。
「ほーら、捕まえた」
男はニヤリと笑い、少女の腕を吊り上げた。
少女は男を睨むが、それ以上の抵抗をする体力はもう残っていない。
もっとも、抵抗する体力が残っていたところで少女に男をどうにかできたかは怪しいが。
嗜虐的な笑みを浮かべる男の後ろから、黒のローブを纏った人影が現れる。
「さっさとしろ、クズが。あまり人間が寄り付かないといっても、全くないわけじゃないんだぞ?」
「わーってるよ。おら、行くぞ」
黒ローブの言葉に、男は舌打ちしながら少女を肩に担ぐ。
傷付いた足が痛み、少女が顔をしかめた。
「ったくよう、なんだってコイツを追うために俺達が駆り出されるんだ?」
少女を担いだまま、男が黒ローブに問う。
「知らん。まあ、組織にとってその娘は特別ということだろう」
それに対して、黒ローブはぶっきらぼうにそう言った。
その態度に、男は再び舌打ちする。
「間違っても、手を出そうと思うなよ?」
「分かってるよ、そんなこと。俺だって、命が惜しい」
黒ローブの忠告に、男は顔をしかめながら返す。
よほど、その組織というのが怖いのだろう。
その背中で、少女は小さく口を開いた。
「お父様、お母様・・・助けて・・・」
涙と共に呟かれた言葉だったが、体力の消耗でその声は風に掻き消される。
少女を担いでいる男にすら、届かなかった。
もっとも、声を張り上げたところで今いる2人以外に声が届くことはなかっただろう。
何もないこの荒野に人が来ることなど、ほとんどないのだから。
しかし、少女は口にださざるをえなかった。
それはもはや、神頼みにも近かっただろう。
そしてーー
「御主ら、一体何をやっておるんだ?」
緩やかに沈んでいく意識の中で、少女はその声を聞いた。
うーん・・・
少ないw
ネタがなさ過ぎて、どう書こうか凄く悩みました。
ここでフラグ立てないと後が面倒だし・・・
って感じです。
今回のフラグがどうなったかは、次話のお楽しみ。
では、また次話。




