慎吾の羞恥とティルの説得
「・・・なんだ、こりゃ?」
レプニーチェを発ってから、およそ1ヶ月.
慎吾達4人は、ビランツァのギルド前にある像の前で立っていた。
純白の石を削って作られた、高さ2メートル程の石像。
体の線に沿うような服を着た、男の像だ。
なぜか、顔は彫られていない。
とは言え剣も杖も持たずに拳を突き上げている格好から、誰の石像かは丸分かりだが。
「えっと・・・。『我がビランツァを守りし英雄の勇姿を、ここに遺す』だってさ」
「つまり、防衛戦の時に街を守った英雄の像だと・・・」
石像の台座に付いている金属プレートに彫られた文字を読むミーリャに、シームがニヤニヤとしながら続いた。
慎吾はと言えば、羞恥に身もだえしている。
格好とプレートの言葉を読めば、誰のことかなど一目瞭然だ。
自分が救世主に祭り上げられているところを発見するなど、もはや罰ゲームにも等しい事である。
「・・・よし、壊そう」
慎吾はゆらりと立ち上がりながらそういうと、おもむろに像に向けて魔方陣を展開した。
使うのは、エアロ・プレス。
空気の塊で、相手を押し潰す魔法だ。
慎吾が使えば、目の前の石像など一瞬で塵と化すだろう。
虚ろな目のまま照準を石像に合わせる慎吾だが、魔法を放つ前にそれを止めるものがいた。
「こらぁ!ここで一体何をして・・・って、シンゴ殿ですか」
突然後ろからかかった声に、慎吾はつい魔法を解除してしまう。
振り向いた先に居たのは、鉄製の鎧に身を包んだ青年だ。
ビランツァの警備隊の1人で、英雄が慎吾だと知っている者の1人。
防衛戦で遠見の魔法を使っていたときに、偶然地竜と戦うところを見ていたらしい。
「で、一体何を?」
「本人に許可を取らずに建てられた物を壊して、何が悪い?」
青年の問いに、慎吾は不機嫌そうに返す。
慎吾とて、英雄の事を語り継ぎたいという住民の気持ちもわからなくはない。
ただ、できれば一言連絡が欲しかったのだ。
ちなみに、バラディスに通信用の宝玉を渡していなかったのはすっかり忘れている。
「言いたいことは分かりますが、この像は今やビランツァの象徴のような物です。シンゴ殿と言えど、勝手に壊されては・・・」
慎吾の言い分に、青年は苦笑した。
この石像がここにできて半月だが、すでに街のシンボルとして有名になっている。
モデルとなった慎吾だとはいえ、さすがに壊されるわけにはいかないのだ。
それに対して、慎吾は黒い笑みを浮かべる。
「じゃあ、勝手じゃなかったら問題ないんだよな?」
「へ?ま、まぁ、そうですが・・・」
慎吾の言葉に、青年は曖昧に頷いた。
それを確認して、慎吾はギルドの方へ向くとーー
「おーい、バラディスのオッサン!」
と、大声で叫んだ。
補助に風魔法まで使った、本気の大声である。
目の前に立っていたら、鼓膜が破れただろう。
しばらく待っていると、ギルドの中央にある窓が勢いよく開けられる。
「うるさい、誰がオッサンだ!って、シンゴか?」
怒鳴りながらバラディスが顔を出すが、慎吾の姿を確認して顔を引き攣らせた。
そんなバラディスぼ表情に、慎吾はニコリと笑いながら右手に炎を点す。
「冒険者ギルドごと吹き飛ばされたくなかったら、さっさと降りてきてくれないか?」
「わ、分かった!すぐに降りるから、その左手の炎を消せ!」
慎吾の脅しに、バラディスは慌てて顔を引っ込めた。
しばらくして、ギルドの出入口からバラディスが出て来る。
さっそく問い詰めようとする慎吾だが、何かいう前にバラディスがそれを遮った。
「一応言っておくが、あれを建てるのを決定したのはティル・ソフィネスだぞ?」
「は?ティルが?」
バラディスの言葉に、慎吾が意外そうな顔をする。
ビランツァに戻るときに連絡をとったが、そんな話は聞いていなかったのだ。
慎吾の様子に、バラディスは肩をすくめる。
「説明は自分がするって言っていたから、さっさと顔見せて来い」
「はぁ・・・わかったよ」
バラディスの提案に、慎吾はため息をつく。
そして、エレイナ達と一緒にギルドから離れて行った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「別に深い意味はありませんよ?」
「・・・は?」
慎吾は、ティルことティルキアの言葉に一瞬頭の中が真っ白になった。
先ほどの言葉は、冒険者ギルド前の石像についての質問に対して返ってきた答だ。
何かしら理由があるだろうと思っていただけに、不覚にも思考が停止したのである。
「我が国で囲おうというつもりもありませんし、私の地位をあげようという意思もありません」
動きの止まった慎吾をよそに、ティルキアは話を続ける。
そもそも、英雄が慎吾であることすら広めていないのだ。
「じゃあ、どうして・・・」
「そうですね、あえていうなら・・・」
慎吾の質問に、ティルキアはニヤリと笑う。
「シンゴさん達に対しての、ささやかな八つ当たりでしょうか?」
ティルキアの言葉に、慎吾達の動きが止まった。
いつもと同じ笑みを浮かべるティルキアだが、目が笑っていないのが分かったからだ。
「行く先々で問題を起こしますし、厄介事は全て私に丸投げ。少し仕返ししても、バチは当たらないでしょう?」
「ぐ・・・」
ティルキアの指摘に、慎吾が詰まる。
自分からいったわけではないが、確かに慎吾達は多くの厄介事に巻き込まれていた。
直接頼んだわけではないが、ティルキアに後始末を任せた形になったのも確かだ。
小さくなる慎吾達に、ティルキアは追い撃ちをかける。
「聞いた話によれば、レプニーチェでは神に会ったとか。そんな事をして、何も影響がないとお思いですか?」
「う・・・。だが、いくらなんでも・・・」
段々と口調が凍りついてくるティルキアに、エレイナはわずかながら反論をしようとした。
だが、それを無視してティルキアは続ける。
「それに、あなた達の旅は子守旅行ではないと言いましたよね?何で、連れの幼女が増えてるんですか?」
「うう・・・」
ティルキアの指摘に、ミーリャがうなだれた。
いつも堂々としているシームですら、ティルキアの雰囲気に半歩下がっているほどだ。
ティルキアが不機嫌な原因が、慎吾達にあることは明白。
ならば、とるべき行動は1つだ。
言い訳すらせずに、慎吾は頭を下げる。
「済まなかった、俺達が悪かった」
「分かれば、良いのです」
慎吾の謝罪に、ティルキアの雰囲気が元に戻った。
それを見ながら、慎吾はティルキアには敵わないと実感するのである。
ちなみに、ギルド前の石像は結局そのまま残ることになった。
その理由は、ティルキアを怒らせては怖いというものだ。
慎吾達は誰にも言わなかったので、そのことを知るものは当事者以外に居なかったが。
ティルキアの意外な一面が出てきました。
勝間達は、次の話です。
では、また次話。




