閑話 酒場の出会いと慎吾の妹
魔王城の探索から3日、レフィール達魔王城探索部隊は魔王城に程近い一つの村に立ち寄っていた。
「こんな所に、村があったとはね・・・」
村の酒場でジョッキを傾けつつ、レフィールはそうつぶやく。
この村は、魔王城捜索のついでに周りを探索していた際に見つけたものだ。
魔王城からは、北西に半日ほど行ったところにある。
「私達も、隅々まで探索した訳ではありませんからね。小さくて分かりにくい場所にありますから、見つけられなくて当然かと」
レフィールの言葉に、隣にいたリーシャも苦笑する。
これほど魔王城から近い村が存在しているのは、住民50人という村の規模の小ささと周りを森に囲まれているという立地のおかげだ。
更には、過去の魔法使いが張った隠蔽用の結界の効果も大きいだろう。
もっとも、レフィール達はこの結界の調査でここに足を運んで村を見つける事になったのだが。
「シルヴィなら、見つけていたかも知れませんが・・・」
「空気がある限り、どこでも見聞きできるからね・・・。正直、あれは反則だったよ」
そっと呟いたリーシャに、レフィールも苦笑する。
2人の間に、沈黙が走った。
「異世界か・・・」
ジョッキを持つ手を見つめながら、レフィールが呟く。
それを聞いて、リーシャは少し意地悪げな笑みを浮かべた。
「行きたかったですか?」
「まさか。いくらなんでも、あの2人の邪魔はしないよ」
リーシャの問いに、レフィールは肩をすくめながら答える。
リーンヘイムでいた頃の慎吾とエレイナのやり取りは、周りから見ると実に甘々カップルそのものだった。
それこそ、2人がくっついていないのが不思議なほどである。
レフィールとしては、そんな中に1人とかどんな苦行だと言いたい。
「ただまあ、4人で行けたら良かったなとは思ったけど」
「確かに、そうですね・・・」
小さく笑うレフィールに、リーシャもつられるように笑った。
生真面目なエレイナをレフィールがおちょくり、それに慎吾が突っ込んでリーシャがたしなめる。
戦闘力もそうだが、慎吾やエレイナとの旅は2人にとって非常に楽しいものだった。
エレイナと慎吾と一緒に1人でどこかへ行くのは勘弁したい2人だが、4人でなら話は別である。
レフィールはそう思いながらジョッキに口を付けようとするが、その視界に気になる人影が写り込んだ。
「ん?」
「どうしました?」
思わず動きを止めるレフィールに、リーシャが首を傾げる。
「いや、あの子・・・。あの、黒髪の子。なんか、シンゴに似てない?」
リーシャの問いに、レフィールはそういいながら酒場の働き手の1人を指した。
腰まで伸びた黒髪が特徴的で、全体的に細身な印象の少女だ。
「シンゴに、ですか?そういえば、そうですね・・・」
レフィールの指す少女を見ながら、リーシャが考えるように言う。
が、すぐに首を横に振った。
「いや、そんなはずないですよ。だって、シンゴは異世界から来たんですよ?こんな所に、肉親が居るはずが・・・」
「あの・・・」
一緒に旅をする間に教えてもらった話を根拠に、レフィールの指摘を否定するリーシャ。
だが、その言葉は横からの声に遮られる。
2人が声の方を向くと、そこには先ほど2人が話題にしていた少女がたっていた。
「あ、すいません。騒がしかったですか?」
「いえ、そうじゃないんです。ちょっと、気になる言葉が聞こえたんで」
慌てて頭を下げようとするリーシャに、少女は手を振った。
そして、少し言いづらそうにこう切り出す。
「さっき、シンゴって言いましたよね?それってもしかして、シンゴ・ツルギって人の事ですか?」
少女からの質問に、レフィールは首を傾げた。
勇者のパーティーの一員として知られている慎吾だが、その名前を知っている者は実際のところあまり居ない。
慎吾の存在は精霊拳帝という名前で広まっており、名前を知るのはレフィール達が彼を呼んでいるのを聞いた事のある者だけだ。
ましてや、苗字まで知っているのはこの世界にはほんの一握りの人間だけである。
「あ、ああ。そうだけど・・・って、うわ!」
少女の質問に、レフィールが警戒しながら答えようとした。
だが、言い終わる前に少女がレフィールの肩を掴む。
大慌てで離すように言おうとするレフィールだが、少女の浮かべる必死そうな表情を見て口をつぐんだ。
「お願いします、教えてください!兄さんは、どこにいるんですか!?」
レフィールの様子も気にせず、少女はそう言う。
少女の様子に戸惑いながら、レフィールとリーシャは顔を見合わせた。
再び少女に向き直った2人の口から、同じ言葉が発せられる。
「「兄さん?」」
慎吾の妹だと言う少女が現れた数分後、レフィール達は酒場の上階にある宿部屋の一室に居た。
レフィール達が取ったものではなく、少女が間借りしている部屋だ。
その少女はと言えば、部屋のベッドに座って小さくなっている。
レフィールに詰め寄る少女を、酒場の主人に言われた2人がここに連れ込んだのだ。
ちなみに、酒場の方は現在休憩している状態にしておくという話だった。
「えっと・・・トウカちゃん、だっけ?君は、シンゴの妹だと。で、つい2ヶ月ほど前に地球からこの世界に来た」
少女に向かって、レフィールが確認するように声をかける。
この部屋に入ってすぐ、お互いの自己紹介は済ませていた。
少女の名前は鶴城桃花、慎吾の妹ということだ。
彼女がリーンヘイムに来たのは、今からおよそ2ヶ月前。
慎吾達が消えたことに呆然としながら、レフィール達が魔王城を後にした直後である。
「はい、そうです。とは言っても、兄さんとは血が繋がっている訳ではありませんが」
レフィールの確認に頷きながら、トウカはそう付け足した。
「君が来たのは、ここのすぐ近く?」
「いえ、この方向にまっすぐ行ったところにある黒いお城です。私が目を覚ましたら、そこの大きな部屋に居ました」
続くリーシャの質問に、トウカは南東向きの窓の方を指す。
その方向にある黒い城といえば、魔王城しかない。
「ここには、歩き疲れて倒れていた所を助けてもらいました」
「なるほどね・・・」
本当に助かっていますというトウカに、リーシャが少し考えるように返す。
「ちょっと、ここで待っててもらえる?」
トウカにそう言って、2人は部屋を出た。
誰も居ない廊下で、2人は顔を突き合わせて話し合う。
「どう思う?」
「少なくとも、作り話ではなさそうですね」
レフィールの質問に、リーシャがそう返した。
トウカの物言いには、不自然なところは全くない。
事前に計画していたなら別だが、さすがにそれはないだろう。
だが、トウカの話が本当だとすると1つ疑問があった。
「って事は、シンゴとエレイナが行ったのは地球ってこと?」
「シンゴから聞いた話では、地球というところには魔法が無いようですよ?それに、シンゴ達を地球に呼ぶためならなぜ彼女がこちらに?」
レフィールの言葉に、リーシャも首をひねる。
物の場所を入れ替えるような魔法なら別だが、普通の転移や召喚の魔法は一方通行だ。
入れ替えるということは、それだけ余計な力を使うということに他ならない。
万が一慎吾の知らない所で魔法があったとしても、さすがにそんな無駄な事はしないだろう。
2人で頭を抱えていると、誰かが2人の方へやって来る気配があった。
警戒する2人の前に、精霊神の一部である老人が姿を現す。
知った者であることに、2人はため息をついて警戒を解いた。
「シンゴ・ツルギの妹が現れたと聞いたんだが?」
「あ、はい。この中です」
老人の質問に、レフィールは桃花の居る部屋の方を指す。
「失礼するぞ」
老人はそう言って、部屋の扉を開けた。
知らない者が入ってきたと身を固くする桃花に、リーシャが心配いらないと言う。
「わしは、シンゴ・ツルギの知り合いの者だ。あやつの妹と言うのは、おぬしでよいか?」
「あ、はい。鶴城慎吾の妹で、鶴城桃花と言います」
老人の言葉に、桃花がぎこちなく返した。
緊張する桃花を、老人が見つめる。
「なるほどの・・・」
しばらくして、老人がそう呟いた。
「おぬし、この世界に来る前に誰か近くにおらなんだか?」
「えっと・・・。兄さんの知り合いが、2人居ました」
老人の質問に、桃花が返す。
その答えに老人はまた少し考えるようにし、桃花に向かって口を開いた。
「おぬしの兄の所在だが・・・。実は、今この世界にはおらん」
「え?」
老人の言葉に、桃花は呆然とする。
「シンゴ・ツルギは今、ここともおぬしの居た世界とも異なる世界に居る。そして恐らく、おぬしが先ほど言ったシンゴ・ツルギの知り合い2人も一緒じゃ」
「えっと・・・説明してもらっても?」
老人の説明に、リーシャがそう言った。
隣に居るレフィールや当事者である桃花も、老人の説明に戸惑っている様子だ。
「そうじゃな・・・。まずおぬし達が地球という場所から異世界に来た理由だが、恐らく召喚魔法によって喚ばれたのだと思われる」
手始めにそう言う老人に、全員が頷く。
桃花も、ここが地球ではない世界である事は理解している。
この世界に、魔法というものが存在していることもだ。
「で、その召喚先がシンゴ・ツルギとその知り合いが居るであろう世界だ」
この説明は少し分からなかった桃花に対して、リーシャが魔王城で起こった事を説明する。
その説明に、桃花はさっき老人が言っていたのはこの事だったかと理解した。
「次におぬしがこの世界に居る理由だが・・・。ここから先は、わしの憶測になる」
少し伺うような老人の様子に、桃花が頷く。
それを見て、老人は説明を続けた。
「そちらの世界に直接繋がるはずだった召喚魔法が、幸か不幸かこの世界とも繋がってしまった。それによってこの世界に居る者が向こうに飛び、代わりにおぬしがこの世界に取り残されたのだろう」
説明しながら、老人は魔力で3つの球体を作り出す。
それぞれに『A』『B』『リーンヘイム』と名付け、AとBを3本の線で結んだ。
さらに線の1本をリーンヘイムと書かれた球体に引き込んで、今度はそこから赤色の線をBと繋ぐ。
球体がそれぞれの世界、線はそれを繋ぐ召喚魔法を表している。
リーンヘイムに引き込まれたのは桃花、代わりに出た赤色の線がエレイナ達だ。
「でも、こちらの世界から飛んだのはエレイナとシンゴの2人ですよ?彼女が1人なら向こうに飛んだのも1人のはずでは?」
「おぬし達から聞いた話では、シンゴ・ツルギは魔方陣が展開された後に中に飛び込んだのだろう?ならば、シンゴ・ツルギは入れ代わりには数えられておらんはずだ」
リーシャの質問にそう返して、老人は桃花の方へと向き直る。
「と、言うことだ。悪いが、現状シンゴ・ツルギの居る世界におぬしを向かわせる方法が無い。元の世界に帰るにしても時間がかかるので、できればこやつらと一緒に居てほしいのだが・・・」
老人の言葉に、桃花はレフィール達を見ながら少し考えるような仕種をした。
しかしそれもすぐに終わり、桃花は吹っ切れたような表情で老人に向き合う。
「・・・そうですね。いつまでもこの村の人達にお世話になる訳にもいきませんし。どうせなら、兄さんの事を知っている人の近くに居たいです」
そう言って、桃花はレフィール達の方へ向いた。
その様子にレフィールとリーシャは驚いたように顔を見合わせ、同時に苦笑する。
実を言うと、慎吾がパーティーに入った時も似たようなことがあったのだ。
もっともその時に答えたのはエレイナで、慎吾を説得したのは慎吾が滞在していた街のギルドマスターだったが。
そのことを懐かしく思いつつ、レフィールは桃花に手を差し出す。
「それじゃ・・・。よろしく、トウカ」
「はい、よろしくお願いします」
レフィールの言葉に、桃花は笑いながら手を握った。
今回は、結構長かったです。
あと、地味にグダグダです。
今回の閑話の中でのリーンヘイムの話はここまでですね。
この後は勝間達の話が2話入って、本編に戻ります。
ちなみに前話のティセル君と今話の桃花ちゃんですが、一応本編にも絡ませる予定です。
まあ、当分先ですが。
では、また次話。




