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閑話 リーンヘイムの実情と精霊神

『輪廻世界〈リーンヘイム〉』

精霊神の庇護によって成り立つその世界の伝説に、一月ほど前新たな1ページが追加された。

勇者を筆頭にした4人による、魔王の討伐である。

精霊神に選ばれた勇者であるエレイナ・フォン・リックハーンと2柱の最高位精霊と契約した精霊拳帝シンゴ・ツルギを中心とした者達の活躍は、今や世界中の吟遊詩人達の語りぐさだ。

そして、今日。

勇者パーティーの一員であるリーシャ・シャーレグとレフィール・アルサスは、〈ミグレスタ王国〉の王城にてとある人物と対峙していた。

「双方、今回の任務ご苦労だった。リーンヘイムの危機が去ったこと、余としても大変うれしく思う」

謁見の間で膝を突いていた二人に、頭上から声がかかる。

「ミグレスタ国王自らのお言葉、誠に喜ばしく」

リーシャがそう言って一礼し、顔を上げた。

目線の先にある玉座に座って居るのは、50歳程の男性だ。

ミグレスタ王国第21代国王、ミバルス・ゼル・ミグレスタ3世。

3年前に先代から代替わりしたばかりの国王にして、エレイナの叔父にあたる。

政策は実直で民からの信頼もそこそこだが、王命をでっちあげるという黒い噂も立っている人物だ。

ありもしない任務をあたかも自分が命令したとでも言うように口にする辺り、噂もあながち間違ってはいないようだが。

「魔王との戦いについては、報告を受けておる。精霊拳帝シンゴ・ツルギ及び精霊神に選ばれし勇者である我が姪エレイナの死は、我が国としても大変遺憾な事だ」

ミバルス王はそう言って、悲痛そうに顔を覆った。

周りから見れば姪の死を悼む叔父そのものなのだが、リーシャ達はそれが演技であると知っているため何も思わない。

(良くもまあ、そこまで嘘で固められるものですね・・・)

むしろ、リーシャは内心顔を歪めていた。

そもそもミバルス王はエレイナが勇者であると分かった瞬間に、魔王討伐という名目で彼女を王城から追い出したのだ。

本当の理由は、エレイナが重要な立場に立って自分の今の地位が脅かされるのを恐れたためである。

彼としては、エレイナが魔王討伐に失敗してのたれ死ぬ事を期待したのだろう。

リーシャ達3人の中で1番最初にエレイナと出会ったのはレフィールなのだが、その時の彼女は近くの森を空腹でさまよっていたらしい。

そのような経緯があるため、リーシャ達2人のミバルス王に対する心情は最悪に近いものだ。

「レフィール・アルサス、及びリーシャ・シャーレグ。双方には、褒美として騎士爵の位とミグレスタ騎士団の特別顧問の座を与えたい。もちろん、元々の褒美である金貨1万枚も付けよう」

例えミバルス王がこう言っても、受けとるつもりはないのである。

ちなみにこの褒美、魔王討伐の褒美にしては少なすぎるといっても良い。

一代限りの領地の付かない爵位に、必要かどうかも不明な席。

金貨にしても、今の2人にはその100倍の資産がある。

正直、王城の宝物殿から一品賜った方が2人としてはありがたかっただろう。

「身に余る褒美、感謝いたします。ですが、我々は友の行方を探すという使命がありますゆえ」

リーシャがこう言うのも、仕方がない事だ。

「シンゴ・ツルギに、我が姪の事か。だが、報告では生存は絶望的だとか」

「絶望的であったとしても、万に一つの奇跡を信じております」

王の言葉に、リーシャも受けて立つ。

依頼人との交渉も時には必要になる冒険者としては、この程度の応酬はお手の物だ。

リーシャ達をこの国に留めるために用意するであろうモノも、ある程度は予想している。

だが次に王の口から出たのは、その予想を上回る言葉だった。

「悪いが、あの地は今だ危険なゆえ立ち入りは禁じておる。すでに任を終えた以上、そなたらを向かわせる訳にはいかんな」

予想外の言葉に、リーシャの動きが止まった。

その頭の中にあるのは、『何を言っているんだ、このひとは』という思いだけである。

確かに魔王のいた地域の周辺は近隣の国から立ち入りを禁じられていたが、それは魔王が居たからという理由だ。

元凶である魔王が倒された今、わざわざ立ち入りを禁ずる必要はない。

むしろ、調査のために立ち入りを推奨すべき状況である。

それを今なお禁ずるということは、勇者による魔王討伐を疑うということに他ならない。

まさかこの期におよんでそんな愚行に出るとは、リーシャも思わなかったのだ。

「友を思う気持ち、素晴らしく思う。代わりといってはなんだが、二人の活躍を後世に伝えるために像を建てよう」

硬直するリーシャをよそに、王の言葉は続く。

ミバルス王はこの際、徹底的にエレイナと慎吾の死を決定づけるつもりなのだ。

しかし、その計画は一つの声によって打ち砕かれた。

『悪いが、それはやめておいた方が良いの』


いきなり謁見の間に響いた声に、その場にいた貴族達は一同騒然となった。

自分達の知らない声が突然響いたのだから、それも当然だろう。

「何者だ!」

謁見の間に立っている騎士の一人が、周りを見ながらそう叫ぶ。

その背後から手が伸びて、彼の肩を突いた。

「ここじゃ、ここ」

「なっ・・・」

突然の事に驚いたのか、騎士が慌ててその場を飛び退く。

その影から姿を現したのは、腰の曲がった老人だ。

魔法使いが着るようなローブに見を包み、長い杖を突いている。

着ている物はそれなりだが、明らかにこの場には似つかない風貌だ。

「この程度の隠し身を見破れんとは・・・。いささか、腑抜けておるようじゃの」

自分の姿に周りが疑問を抱いて居るのを無視するように、そう言って老人は残念そうに首を振る。

それを聞いて、先ほどの騎士が眉をひそめた。

「言うに事欠いて、近衛騎士長である私が腑抜けだと?」

その騎士の言葉に、老人はさらにため息をつく。

「それ以外に、何と言えば良い?事実、あの程度ならばそこらの冒険者ならば見破るわ」

老人の口調は、心底残念そうだ。

気持ちを切り替えるように首を振り、老人はミバルス王の方へと目線を向ける。

「それはそうと、ミグレスタ王よ。おぬし、シンゴ・ツルギとエレイナ・フォン・リックハーンの像を建てると言ったな?それは、やめておいた方が賢明じゃぞ」

老人の態度に周りから非難が飛ぶが、ミバルス王はそれを手で制して老人を見た。

「誰だか知らんが、我が国の英雄を奉るのをやめろと?」

「そういう事は、言っておらんわ。あの者達を侮辱すると大変な事になると、そう申しておるだけよ」

『別に、あの者達が英雄かどうかは関係ないわい』と、老人が続ける。

老人のその言葉に腹を立てたのは、先ほどの騎士だ。

顔を真っ赤にして、老人に向かって剣を突きつけた。

「私だけでなく国王に対して、何たる口の利き方だ!その首、叩き切ってやろうか!」

騎士の言葉を聞いても、老人の態度は変わらない。

それに業を煮やした騎士は、老人に対して剣を振り上げた。

「あっ・・・」

「ばっ・・・」

騎士の行動に、リーシャとレフィールの2人が慌てる。

だが、2人が制止する間もなく騎士は剣を老人に対して振り下ろす。

そこにいるほとんどの者が、剣が老人を切り裂く様を幻視した。

しかしーー

ギィィン・・・

周りの予想に反して、剣は老人の手前数センチの所で停止している。

もちろん、騎士が剣を止めている訳ではない。

「なっ・・・」

「邪魔じゃの・・・」

驚く騎士をよそに、老人はそう言って剣に手を伸ばした。

切っ先を摘んで手首を捻ると、鋼鉄の剣がそれだけでグニャリと飴細工のように曲がる。

あまりの事態に、騎士は顔を真っ青にしてしりもちをついた。

老人は騎士し目もくれず、ため息をつく。

「全く・・・。わしの正体に感づいておるのは、そこの2人だけか?」

心底残念そうに言って、老人は目線をリーシャ達の方へと向けた。

冒険者として世界でも上位の強さを誇る2人が、それだけで見を固くする。

「まあ、良いわ。おい、そこの娘っ子。わしの名を、ここに居る者共に教えてやれ」

「あ、はい!」

老人の言葉に、リーシャが慌てたように立ち上がった。

その様子に、王を初めとした謁見の間にいるレフィール以外の全員が嫌な予感を覚える。

そして、リーシャの口からついにその名前が紡がれた。

「この方は精霊神にしてリーンヘイムの護り手、フェルグハルド様です」

リーンヘイム編、その1です。

ニールヘイム側でのタイミングとしては、慎吾達がビランツァを出た辺りの話になります。

15話辺りに入れる予定だった物ですが、都合によってここに。

慎吾達がビランツァを出立する前の話とビランツァを出た直後の勇者達の話を入れて、レプニーチェ辺りの時期の話に移ります。

都合、閑話は一気に6、7話入る計算です。

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