行き先の変更とレプニーチェ出立
「そういえば気になったんだけど、君達ってこの後どうするの?」
慎吾が精霊拳帝の話をし終わったとき、シュミール神が突然こんな事を言い出した。
いきなりの話題に、慎吾達がキョトンとする。
そもそも、シュミール神が慎吾達の方針を聞いて来るのはこれが初めての事だ。
「そ、そうですね・・・。そもそもこの旅は俺が、リーンヘイムに戻る手段を探すってのが目的だったんですよ」
少し戸惑いながら、慎吾が考えるようにそう切りだす。
レプニーチェでいろいろあり過ぎたため、慎吾自身も忘れかけていた目的だ。
もっとも、目的地に着く前に意外な所で目的を達成する事になってしまったが。
「当初の予定だと、この後は南のバータル皇国に向かうつもりでいたんですよね」
「ああ、知恵の塔ね。あとは、大賢者もあそこだっけ?」
慎吾の言葉に、シュミール神が思い出したように手を叩く。
「知ってるんですか?」
シュミール神の様子に、慎吾がやや意外そうに聞いた。
いくら有名だったとしても、所詮は人間レベルの話。
まさか、神である彼が気にしているとは思わなかったのだ。
「まあ、この世界のほとんどの知識はあそこに集まるからね。それで、君が帰る糸口をと思った訳だ」
「実際には、シュミール神にあったおかげで南に行く必要は無くなりましたけどね」
シュミール神の言葉に、慎吾は苦笑する。
そんな様子の慎吾に、シュミール神はこう言った。
「けど、神との交信が途絶えた現状だと結局はここに来ることになってたよ?」
その言葉に、慎吾達の動きが止まる。
壊れたゼンマイ人形のように、全員の目線がシュミール神に集中する。
どういうことだというような目線に、シュミール神は首を傾げながら続けた。
「だってそうでしょ?世界中のほぼ全ての知識なんてもの、普通に人間に扱えるわけないよ」
「って事は、神が関わっているんですか?」
慎吾の確認に、シュミール神は首を縦に振る。
「大賢者や知恵の塔って言うのは、元を辿ればあの国の貴族達が外向けに付けた名前だからね。本来の役目は、知恵の神の神託を受けるための巫女や神殿みたいな物さ」
神殿って言うよりは図書館に近いけどねと、シュミール神は笑いながら言った。
ちなみに、この話はレプニーチェより南の地域ではそこそこ有名だ。
つまり、慎吾達がバータル皇国に行こうとすれば嫌でも耳に入ってくる話である。
「ということは、神の神託を受けられない現状では・・・」
「残念ながら、何の役にも立たないね」
呆然と聞く慎吾に、シュミール神は肩をすくめながらそうかえした。
「知恵の神は何かと用心深いから、何かあったら僕を紹介するように教えてるはずだ。って訳で、君達は遅かれ早かれ僕の所に来る事になってたよ」
ニヤリと笑うシュミール神に、慎吾達は微妙な顔をする。
レプニーチェからバータル皇国に知恵の塔までは、最短で50日程だ。
塔へ入る許可が出るまでの期間も含めると、往復で5ヶ月は拘束される計算である。
その間をゼロにできたのは良いのだが、ここでの出来事を考えると素直に喜べない慎吾達であった。
「で、どうするんだい?君達の事だから、いつまでもここに居るって訳じゃ無いんだろ?」
ニヤリと笑うシュミール神の話題変換に、慎吾はありがたいと思いながら口を開く。
「そうですね、実は・・・」
シュミール神にこの世界の話を聞いてから考えていたことを、具体的に話す慎吾。
それを聞いたシュミール神は少し驚いたものの、最終的には面白そうに笑った。
シュミール神に今後の事を聞かれて10日、魔迷宮ニリバルトの入口にて。
慎吾達は、シュミール神と人の姿をとっている白竜シュタン・ドラッハの見送りを受けていた。
ちなみに、冒険者ギルド等の関係者との別れは既に終えている。
行き先は、ビランツァだ。
「それじゃ、しばらくお別れだね」
「まあ、それほど長い間向こうに居るつもりもないですけどね。だいたい、1ヶ月程度で帰ってくるつもりです」
少し寂しそうなシュミール神に、慎吾は小さく笑った。
今回は簡単な報告だけにする予定なので、あまりビランツァに長居するつもりはない。
「召喚された勇者達に、『欠番者』の事を話に行くんだっけ?」
シュミール神の確認に、慎吾は頷く。
「そうですね。あとは、俺の力が戻ったのでその報告も」
『欠番者』やこの世界の異常の事も重要だが、今回の一時帰還は主に慎吾の力の件だ。
契約精霊が4柱になったため、色々とできることが増えたのである。
レプニーチェとビランツァの間を1ヶ月で往復できるのも、このおかげだ。
「これを持っておけば、どこでも話ができるんだっけ?」
懐から手の平程の大きさの球を取り出しながら、シュミール神は慎吾に確認する。
それは、ビランツァを出るときに勝間達に渡したものと同じ物だ。
もっとも、物が同じだけで中身は強化されているが。
「そうです。力が戻ったおかげで使用限界の無限化や瞬間移動ができるようになりましたけど、あまり多用はしないでくださいね」
渡すときも言ったことだが、念のため慎吾はシュミール神に再度注意しておく。
使用限界の無限化はともかく、瞬間移動はシルヴィ達への負担がそれなりに大きいのだ。
「大丈夫、大変って時にしか使わないよ。もちろん、街の連中に使わせるつもりも無い」
「まあ、その辺りはシュミール神にお任せします。あまり頼られても困りますけど、下手に遠慮してここが壊滅してもあれなんで」
真剣に頷くシュミール神に、慎吾は苦笑する。
何せ相手が神なため、危険度の価値観が慎吾達とズレているのだ。
「それじゃ、そろそろ馬車の時間なんで」
「うん、わかったよ。あ、そうそう」
切りの良いところで別れようとする慎吾達に、シュミール神は思い出したかのように言った。
「何でも、ラマサンダやビランツァで面白い事が起こってるらしいよ?」
「面白い事、ですか?」
ニヤリと笑いながら言うシュミール神に、慎吾は首を傾げる。
シュミール神がわざわざ言うほどなのだからそれなりになのだろうが、慎吾には検討もつかない。
「そう。別に、魔物の被害とかって言うんじゃないよ。どちらかと言えば、良い出来事だね」
もっとも君達に適用されるかどうかは別だけどと、シュミール神は続ける。
「まあ、言ってみれば分かる」
「はあ・・・」
シュミール神の言葉に、慎吾は曖昧な返事を返した。
少し嫌な予感がするが、こうなるとシュミール神の口を割るのは至難だ。
ここは素直に、自分の目で確認するべきだろう。
「それじゃ、いってらっしゃい」
「行ってきます」
笑顔で手を振るシュミール神に、慎吾達も笑顔で返した。
部屋の一角にある転移魔方陣が光り、慎吾達の姿が消える。
魔方陣の光が消え、部屋に静寂が戻った。
部屋に居るのは、シュミール神とシュタン・ドラッハの二人だけ。
慎吾達が来るまでは、これが普通だったのだ。
「・・・行ったか」
シュミール神が、小さく呟いた。
「人間としての気持ちは、とうの昔に捨てたと思ったんだけどな・・・」
そう呟くシュミール神を、シュタン・ドラッハは後ろから抱きしめる。
めったにない行為に少し驚いたシュミール神だが、小さく笑ってシュタン・ドラッハの腕を撫でた。
予約投稿するの、忘れてたΣ( ̄ロ ̄lll)
本当に、すいませんm(__)m
あと、文字数超少ないです。
多分、この物語で一話3000を割ったのは初ですね。
次からは、勝間君達やらリーンヘイムの方々やらを何話か出します。




