黒幕との対決と闇の思惑
向かい合って剣を構える、エレイナと『欠番者』の男イータ。
お互いの出方を見るなどという悠長な事はせず、同時に地面を蹴る。
「フンッ!」
「シッ!」
短い呼気とともに繰り出される、エレイナの左下からの逆袈裟とイータの刺突。
お互いに、髪の毛の一部を犠牲にギリギリで回避する。
右に流れる剣からエレイナが左手を離し、イータに向けて魔方陣を展開した。
「疾れ、『ライトニングボルト』」
短い詠唱と共に、魔方陣から雷光がほとばしる。
体勢を直し切れていないイータの横腹に、雷光が突き刺さった。
お互いに向かい合って、停止する。
「硬いな・・・」
「生憎、特別製でして。それにしても、魔法ですか・・・」
先ほどの応酬の結果に顔をしかめるエレイナに、イータが腹部に手をやりながらニヤリと笑う。
イータが手を除けると、その下には拳大の穴が開いた服から無傷の肌が見えた。
先ほどの魔法で負傷したように見せかけて、不意打ちを喰らわせるつもりだったのだろう。
「悪いが、騎士のように正々堂々なんて言うモノとは縁が無かったのでな。使えるものは、とことん使うようにしている」
「いえいえ、良い心がけでは?最も、私に通じるかどうかは別ですがねっ!」
イータの言葉に肩をすくめたエレイナへ、イータが笑いながら再び突撃。
エレイナはそこから動かず、迎撃の構えだ。
イータに繰り出した突きを、三股の部分に刃を挟むことで受け止める。
エレイナは更に踏み込むことで、体ごと回転させるように胴薙ぎに移行。
それに対してイータは袖口から小振りのナイフを取りだし、エレイナの顔目掛けて振るう。
「チッ・・・」
「くっ・・・」
イータのナイフをエレイナが避けたため、お互いに小さく傷をつけるだけで終わる。
双方その場で転身し、切り結んだ。
「魔力を剣に纏わせて、切れ味を高めましたか・・・。体勢を崩せてなければ、危なかったですね」
「お前こそ、そんなところに刃物を仕込んであるとは思わなかったな」
鍔競り合いをしながら、お互いにそう言って笑う。
「仕方ありませんね、全力で行かせてもらいます」
「ん・・・?」
続くイータの言葉に、エレイナが内心首を傾げる。
瞬間、イータが力任せに剣を押し込む。
嫌な予感のしたエレイナはそれに逆らわずに後ろに下がり、お互いの距離が大きく開いた。
これまでのイータの戦い方にそぐわないその行動に、エレイナは警戒度合いを上げる。
距離を取った場から動かないエレイナの前で、徐々にイータの姿が変貌する。
皮膚がボロボロと剥がれ落ち、その下から黒い光沢を持った鱗が覗く。
金色の髪は漆黒に染まり、頭皮を突き破るように螺旋状の角が生えてきた。
「その姿・・・デーモン、か?」
「ご名答。とはいえ、見てくれだけですがね。ですが、表皮の硬さはさきほどよりも上がっていますよ」
怪訝げなエレイナに、イータは自分の姿を見回しながらそう答える。
そうしてエレイナの方へと笑いかけると、先ほどと同じようにエレイナに向かって突撃した。
行動こそさっきまでと同じだが、そのスピードは段違い。
その落差に、エレイナの反応がわずかに遅れる。
剣をかわして反撃するが、魔力の纏わせ方が不十分だ。
肩口を狙ったエレイナの剣は、イータの鱗を纏った手の甲で止められる。
「チッ・・・」
「効きませんよ」
舌打ちするエレイナに、イータがニヤリと笑う。
そのまま剣を掴もうとして来るイータに、エレイナは大きく飛び下がった。
「生半可な攻撃では、傷一つ付かぬか・・・」
「先ほどの倍の魔力であれば、貫かれたでしょうが・・・。その剣では、それほどの魔力に耐え切れないでしょうね」
眉をひそめるエレイナに、イータはエレイナの剣を見ながら肩をすくめる。
エレイナが今持っているのは、普通の鉄の剣だ。
それなりに業物なのでかろうじてエレイナの魔力に耐えているが、その表面には細かなひびが入っている。
先ほどの倍の魔力はおろか同等の魔力量でさえ、あと一度纏わせれば剣は粉々に砕けるだろう。
「仕方ない、剣は諦めるか・・・」
「・・・はい?」
剣の状態を見てため息をつきながら言うエレイナに、イータは首を傾げる。
瞬間、エレイナの魔力量が跳ね上がった。
「な・・・」
そのエレイナの魔力に、イータは驚きの声を上げる。
イータの驚きをよそに、エレイナは持っている剣へと魔力を纏わせていく。
その負荷に剣のひびが大きくなるが、エレイナは全く気にしない。
剣に収まり切らない魔力が槍のような形になったそれを、エレイナは肩に担ぐ。
「『火纏:炎竜飛槍』」
エレイナそう言って、魔力の槍を投擲。
光の尾を残して飛んでいくそれは、イータの胸の中心を穿った。
そのまま数メートル飛んで、そこで止まる。
魔力の光が消え、核となっていた剣がイータの胸から落ちて砕けた。
力が抜けたように膝から崩れ落ちるイータに、エレイナがゆっくりと歩み寄る。
「参りましたね・・・。まさか・・・剣を・・・使い潰すとは・・・」
「生憎、あの剣は予備のものでな。壊れたところで、懐は痛まない」
苦しげに言うイータに、エレイナはそう言って手元にさきほどと同じ剣を呼び出す。
それを見てイータが驚いたような顔をするが、すぐに穏やかな表情に戻った。
そんなイータに、エレイナは剣を持って近づく。
今のイータは、まがい物とは言え魔物に分類される。
証人であるとは言っても、街の中に入れるわけにはいかないのだ。
「とどめは・・・必要ありませんよ。痛みは・・・ありません・・・」
「そうか・・・」
エレイナを見て穏やかな表情のまま言うイータに、エレイナは頷いて剣をおさめる。
エレイナの見ている前で、イータの体は先端から塵になって消えていく。
「約束を・・・果たしましょうか・・・。『魔導疑兵』の・・・数は・・・24体・・・内3体は・・・」
そこまで言って、イータの体は一気に塵となって消える。
それをみて、エレイナは頭を振ってレプニーチェの街へと帰って行った。
そのあと風に乗る塵と一緒に光の球のような物が飛んで行ったが、それを見たものは誰一人として居ない。
所変わって、魔物に蹂躙された北方の聖国リックハーン。
その元聖都カルラスタに建つ、漆黒の城の地下施設。
元々は防衛用の設備の開発だった場所にある一室で、一人の男が机に向かって何やら作業を行っていた。
「・・・ん?」
周囲に響く音に異音が混ざったのを聞いて、男は部屋の隅にある機械に近づく。
金属の管に繋がった容器に空いているのぞき穴から中を見ると、透明な液体の中に白い球のような物がプカプカと浮いている。
「また1体、やられたか・・・」
男はそう言って、のぞき穴の横にあるレバーを引く。
機械に付いているランプがいくつか点滅して、レバーの横にさきほどの白い球のような物が吐き出された。
「コイツは、イータだな・・・。確か、送り出した場所はデルタと近かったはずだ」
男は球を眺めながらそう呟き、それを隣にある機械に放り込む。
機械が球を取り込んでガチャガチャと音を立てていたが、すぐにそれもなくなった。
「まあ、良い。所詮は人形、また作り直せば良いだけだ」
男がニヤリと笑うと同時に、今度はブザーのような音が響く。
薄暗い部屋の中に、一筋の光が差し込んだ。
「・・・誰だい?」
「私だ」
光のほうも見ず不機嫌げに尋ねる男に、低い男の声が答える。
「何だ、一番か・・・。お前さんがここに来るとは、珍しいな。一体、何の用だ?」
「新たな勇者が、動き出したようだ。アレの解読は、進んでいるか?」
驚いたように言う男に、ピヤービと呼ばれた男が短く尋ねた。
その目線は、部屋にある機械の間に開いた正方形の窓に向けられている。
そんなピヤービに、男は窓の近くにある棚から一枚の資料を取り出して渡す。
「ボチボチ、と言ったところだな。あとは、肝心の中枢だけだ」
「できるだけ、急いでほしい。どうも、今回の勇者は毛色が違う」
少し肩をすくめながらいう男に、資料に目を通しながらピヤービはそう言った。
「ほう・・・。お前さんが、そこまで言うか・・・」
「もしかすると、前に言っていたお前の新兵器とやらを使うかもしれん」
ピヤービの言葉に男が驚くと、ピヤービは顎で別の場所を差しながら言う。
それを見て、男はニヤリと笑った。
「了解した。最終調整をしておこう」
「言いたいことは、それだけだ」
男が頷くと、ピヤービはそう言って男に背を向ける。
「新たな勇者、の・・・。少しばかし、観察してみるか・・・」
男はそう呟き、部屋の奥へと向かっていった。
そこにあるのは、薄汚れた紙に書かれた図面だ。
全体の形は、恰幅の良い人型。
しかし、その中身は丸や四角といった図形が複雑に絡み合った奇妙な物が詰まっている。
それを見ながら、男は再びニヤリと笑った。
うーん、後半がとても短い・・・
せっかく前半削ったのに、あまり意味なかった・・・orz
謎の多い連中って設定なんで、あまり詳しいことかけないんですよね。
ちなみに、第21話のフラグはここで曖昧ですが回収したって事で。




