レプニーチェの悲劇と土くれの魔物達
慎吾達が外に出た時、辺りは混乱の極致にあった。
とは言っても、魔物の襲撃で被害が出ているというわけではない。
塔の足元にあるレプニーチェでは、こういう事態においての対処法が確立されている。
そのため、魔物の居る辺りでは既に一般人の避難が終了していた。
混乱していたのは、魔物の討伐をするべく魔物へと向かった冒険者の方である。
彼らが相対した魔物は、塔に出てこない魔物だった。
「な、何じゃこりゃ?」
「ゴーレムか?いや、それにしては動きが滑らか過ぎるな・・・」
という声が、あちらこちらで上がっている。
この世界のゴーレムは、言わば動く人形だ。
装甲の硬さと関節の自由度が高い点が厄介だが、動きが鈍いのでそれほど討伐難易度の高い魔物ではない。
しかし、今彼らの相対している魔物は違った。
見た目はあまり違わないが、動きが通常のゴーレムと比べ物にならないほど滑らかなのだ。
そのかわり装甲はそれほど硬くなく、関節の動きも人間と同じ程度の物のようである。
ただし自己修復がおこなえるようで、冒険者のつけた傷がすぐに塞がるのが見て取れた。
「何で、アレがこんなところに・・・」
「あれがなにか、知っているのか?」
慎吾達と同じように冒険者達と魔物の戦闘を見ていたシュミール神の呟きに、シームが質問する。
「知っているも何も、あの魔物が付けてる王冠は元々神が作った物だ。もっとも、あれは『愚王の操冠』と呼ばれる粗悪品だけどね」
「って事は、これも『欠番者』がやったことなのか?」
魔物の1体を指しながら言うシュミール神に、慎吾が眉をひそめる。
彼が指したのは、魔物の中でも一際大柄な1体だ。
全長は2メートルほどで、醜悪だが『頭の小さなだるま』のような見た目である。
わずかに揺らいでいるように見えるその魔物の頭には、くすんだ金色の王冠が載っていた。
もしもこの魔物が『欠番者』によるモノだとすれば、冒険者達には荷の重すぎる相手だ。
「さすがに、そこまでは分からない。ほとんどの『愚王の操冠』は大昔に廃棄されたけど、もしかしたら無事だったのが今頃になって活性化したのかも知れない」
慎吾の質問に、シュミール神は首を振りながらそう答えた。
「そんなことより、あれはちょっとマズイよ」
「どういうことだ、ミーリャ?」
説明を続けようとするシュミール神に割り込んだミーリャの言葉に、慎吾が首を傾げる。
神の言葉を遮ってまで言わなくてはいけないような事であると言う点に、嫌な予感がしてのだ。
「あの土の固まりの中、多分人が入ってる」
「マジか?」
顔をひそめながら言ってくるミーリャに、慎吾は目を見開いた。
「『愚王の操冠』はそもそも、ゴーレムを効率よく動かすために作られた道具だ。人は操れないはずだけど・・・」
「体の自由を奪って、強制的に操ってるのか?だがそんなことをすれば、体に負担が・・・」
顎に手を当てていうシュミール神に、シームも眉をひそめる。
ミーリャが言っていることが本当かどうかは、この際全く関係ない。
「それより、早くあいつらを無力化しよう。他の冒険者達も戦ってるみたいだけど、数が多すぎる」
「なら、周りのは我とそこの小娘でやろう。御主らは、あのデカブツと町の外れにいる妙な気配の持ち主をどうにかしろ」
とりあえず先にすべき事をしようという慎吾に、シームがそう言った。
ちなみに、この時点で魔物の数はおよそ100体に上っている。
冒険者もほぼ同数居るようだが、いささか力量が不足しているようだ。
ただ討伐するだけならともかく、中に居るかもしれない人間に気を遣いながら戦うのは難しいだろう。
「街の外れ?そんなの良く見つけられたな・・・って、おいおい!」
「どうした?」
シームの言葉にあきれながら魔力を解放した慎吾の言葉に、エレイナが首をかしげる。
「さっきシルヴィの力で、シームの言ってる奴を探したんだけど・・・。ビランツァで会った奴と、同じ姿をしてた」
「なるほど。ということは、そいつが黒幕で間違いなさそうだな。なら、そいつは私が責任もって倒そう。シンゴは、あのデカブツを頼む」
眉をひそめながら言う慎吾にそう答えて、エレイナはそこから走り出した。
魔法による身体強化を使っているらしく、その姿はすぐに建物の影へと消える。
「エレイナなら、大丈夫か。じゃ、俺達も行くか」
エレイナの後先考えない猛進ぶりにため息をつきつつ、慎吾はそう言う。
それに頷く他の3人をみて、慎吾もすぐに目標へと向かった。
「おい、小娘。貴様の土魔法で、あの人形共を一塊にしろ」
冒険者と魔物との戦いが見渡せる位置にたって、シームはミーリャにそう言った。
ちなみに、シュミール神は『僕は戦闘じゃ役に立たないからね』と言って議院館の中に避難している。
「・・・小娘じゃない」
「ん?」
ボソリと呟いたミーリャに、シームは思わず目線をそちらに向ける。
正面を向いたままのミーリャだが、その表情はいささか不機嫌そうだ。
「ミーリャって呼んで。それが、私の名前」
「ふん。呼んでほしければ、それ相応の働きをすることだな」
不機嫌さ丸出しのミーリャの言葉に、シームは若干上から目線でそう笑った。
今の状況でそれを言うかとも思ったが、それを指摘することはない。
ミーリャの力量が、この程度の魔物相手に苦戦するようなものでないことは最初に見たときに分かったからだ。
シーム自身、この戦闘よりもそのあとの事を考えてミーリャと組んだというのもある。
「殺しちゃ、ダメだよ」
「安心せい。我も人殺しを楽しむような、酔狂な趣味はしてないわ。それに、あの者達に敵対はしとうないからの」
念のために注意してくるミーリャに、シームは肩をすくませながらそう返した。
自由を奪われてはいたが、リーンヘイムでの戦闘はシームの記憶の中にもある。
慎吾とエレイナが自分より上の領域に居ることは、百も承知なのだ。
そのシームの言葉に頷いて、ミーリャは魔力を解放した。
「大地の恵よ、彼の者を束縛せよ。『ウィスプ』」
ミーリャの唱える呪文に従って、目の前に魔方陣が描かれる。
そこから飛び出たのは、ねじくれた太い木の根だ。
数百本にも及ぶ数のそれは魔物へと殺到し、その体に絡み付く。
それだけでなく、さらにそこから細い根が伸びて魔物の自由を奪った。
ミーリャがこの魔法を使った理由は、ここにある。
ただの蔦だと力任せに引きちぎられる可能性があったため、こうして木の根が土を掴むイメージで拘束したのだ。
「蔦・・・いや、木の根か。中々、魔法の使い方が上手いの」
「つぎ、アナタの番」
ミーリャの魔法にシームが感心していると、ミーリャがそう言って一歩引いた。
「うーむ、どれにするかの・・・。よし、これにするか。『ショックレイン』」
シームは少し考える素振りを見せると、指先を魔物に向けてそう唱えた。
それと同時に魔物の上空に巨大な魔方陣が現れ、そこから下に衝撃波が放たれる。
すると、一瞬魔物が振動したように震えてその動きを止めた。
「動きを止めることはできたが、あの土のような物を剥がすのは無理じゃったか・・・」
「どんなものでできているか分からない以上、仕方がない。あとは、シンゴに任せる」
自分の放った魔法の結果に少し不満げなシームに、ミーリャがそう言う。
少しなぐさめるような言い方になっているのは、シームが手加減をしたのを分かっているからだ。
おそらく、シームがあの魔法を全力で使えば魔物を覆う土のような物も剥がせただろう。
だが、中にいるであろう人間も無事では済まなかったはずだ。
「仕方がないの、そうするか・・・。それより、おぬし」
「何?」
ため息混じりに呟いた後思い出したかのように聞いてくるシームに、ミーリャは首を傾げた。
「あの精霊使いに、いつまで本当の事を隠しておくつもりじゃ?」
「・・・気づいてたの?」
シームのその言葉に、ミーリャは驚いたように彼女の方を向く。
シームのいった『本当の事』とは、ミーリャの種族と年齢の事である。
ミーリャの種族は、獣人族の中でも特殊な分類だ。
そのため、種族の他の者達は隠れ里のような場所で細々と暮らしているのである。
ミーリャは両親を捜すために旅をしているが、そのことがバレれば何をされるか分からない。
そう言った理由で、ミーリャは慎吾達にも本当の事を隠しているのである。
とは言え勝間や美香ならともかく慎吾とエレイナにまで隠しつづけているのは、ミーリャの人間への恐怖や二人に話すことへの恥ずかしさなども含まれているのだが。
「まあ、我も似たような事をやったことがあるからの・・・」
「・・・そう。別に、気付かないなら最後まで隠しておくつもり」
少し悲しげな表情のシームに、ミーリャは目を細めてそう言った。
「・・・そうか。まあ、べつにかまわんがな」
ミーリャの言葉を聞いたシームの顔がさらに悲しみに歪むが、それを振り切るようにぶっきらぼうに彼女は返した。
「ではこれからよろしくの、ミーリャ《・・・・》」
「!」
何かを振り切るようにミーリャを方を向いてきたシームが言った言葉に、ミーリャは驚く。
自分で要求しておいて何だが、ミーリャはシームが自分の事を名前で呼ぶのはまだ先だと思っていたのだ。
そのことを悟ったのか、シームはミーリャを方へ手を差し出す。
「・・・よろしく、シーム《・・・》」
それを見て、ミーリャも恥ずかしげにその手を握り返した。
何か、すごく遅くなりましたm(__)m
原因は、ミーリャとシームのやり取りです。
二人とも地味に会話が少ないので、すごく手間取りました。
あと2、3話でレプニーチェは終わりになるかな?
塔の事があるので、もう少しあるかも。
それが終わったら、リーンヘイムや勝間達の事を挟むつもりです。
レプニーチェを間違えてラマサンダと入力していましたので、訂正しました。




