神との対話と隠された真実
「さて、さっきの話の続き・・・という前に僕が君の事を知っている理由を言った方が良いかな?」
最高議長の案内で議院館の彼の執務室に入ってすぐ、シュミール神は慎吾達にそう切り出してきた。
ちなみに、この部屋の主である最高議長はここには居ない。
彼にも聞かせられない話だからと、一時的に退出してもらっているのだ。
ここに居るのは慎吾達三人にシュミール神、人間の姿に変身したシュタン・ドラッハの五人だ。
シュミール神の連れてきた者はもう一人居たのだが、彼が呼ぶまで部屋の前で待機しているように言っていた。
「できる事なら話して欲しいですが、話せられない内容なら特に聞こうとも思いませんね」
「そんな内容なら、君意思に関係なく聞かせるつもりはないよ」
肩をすくめながら返答する慎吾に、シュミール神は苦笑いを浮かべながら返す。
それを見た慎吾は内心、慎吾達が巻き込まれたのは勇者召喚に神が干渉したからではと考えていた。
神が出てくるような事は、慎吾達が召喚に巻き込まれた件以外に考えられないからだ。
「先に言っておくが、別に君達がここに居ることは僕達が干渉した結果という訳ではない。と言うより、僕達にとっても君達の存在はイレギュラーだ」
「俺達が聞いた所だと、俺の魔法と召喚魔法が重なったのが原因との事だったんですが?」
慎吾の考えを見透かしたように言うシュミール神の言葉に、慎吾は首を傾げた。
ティルの言う通り膨大な魔力に引き寄せられて召喚魔法に不具合が出たのならば、そのような言い方はしないだろう。
対策は無理にだったとしても、神がその事を予測していないと言うのは明らかにおかしい。
「ああ、北の第三王女の事だね?正直言うと、あれはあの子の認識不足だ。あの程度の魔法で不具合を起こすほど、あの魔法はヤワじゃない」
「そうなんですか?」
続くシュミール神の言葉は、慎吾にしてもエレイナにしても意外だった。
召喚魔法については相当詳しいであろうティルが、まさか認識不足とは思わなかったのだ。
もっとも、これには少し事情がある。
大昔の国家間での戦争によって、召喚魔法の制作者についての記述がほとんど紛失している。
もしもそれが無ければ、ティルも違う結論を出していただろう。
「神の中でも、特に魔法に関する事が得意な者が作った魔法だからね。世界そのものを破壊するような魔法なら別だけど、そうでもない限りあれをどうこうするのは不可能だ」
「それは、何と言えば良いのか・・・。それじゃあ、なんで俺達はこの世界に?」
シュミール神の説明に、慎吾は微妙な顔をしながら聞く。
リーンヘイムで魔王に使った『焔の大嵐』も大技だが、世界をどうこうできるものではない。
それこそ、慎吾が全力でやっても召喚魔方陣に影響を及ぼすことは不可能だろう。
それだけに、なぜ慎吾達がこの世界に来たのかが疑問になる。
「端的に言うと、召喚用の魔方陣と呪文に細工がされていたんだよ。とは言っても、照準が数パーセント不安定になる程度だけどね」
「神の作った魔法を、ですか?」
シュミール神の言葉に、慎吾は驚きの声を上げる。
横にいるエレイナとミーリャも、驚きのあまり言葉を失っていた。
神の作ったものに細工を施すというのが、どれほど困難か想像できたのだ。
少なくとも、普通の人間に可能な事ではないはずだ。
でなければ、神などという大仰な呼ばれ方などしていないだろう。
「それができるのが、彼らだ」
シュミール神は、少しもったいぶるように前置きをする。
その表情は、今までと違って真剣そのもの。
その名前を聞いたらもう戻れないと、忠告しているかのようだ。
それに対して慎吾達は確認するようにお互いに顔を見合わせ、同時に頷いた。
それを見て、シュミール神はその名前を口にする。
「神の技術を盗んだ者達、『欠番者』・・・。それが、この件の裏に居る者達だ」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「チスゥラー・・・」
シュミール神の言った名前を、エレイナが繰り返す。
ビランツァの村を襲った盗賊達のアジトに現れた、ギガプラントという魔物を操っていた男が言っていた名前だ。
「その様子を見るに、どうやら会ったことがあるみたいだね。とは言え、恐らくは彼らの下で動いている者達だろうけど」
エレイナの呟きを聞いたシュミール神の言葉に、慎吾が頷く。
それはシュミール神の言った内容の、両方に対する肯定だ。
少なくともギガプラントと一緒に出てきた気障男は、神の技術を盗んだという『欠番者』では無いだろう。
でなければ、ギガプラントの特性を読み違えるような事はしなかったはずだ。
もっとも、あの気障男の死がフェイクだったという可能性も十分ありえるのだが。
「彼らはそもそも、神話の時代から存在する神の技術を伝える一族の末裔だ。とは言っても、その一族も今はそういった事はしてないんだけどね」
「神の技術を伝える一族、ですか?」
シュミール神の言葉に、エレイナが首を傾げる。
神の技術を伝える一族ということは、元は神と協力関係にあったという事だ。
それがどうして敵対するはめになったのか、不思議に思っているのだろう。
その辺りの認識の違いの理由は、リーンヘイムとこの世界の神の在り方にある。
この世界の神が複数柱なのに対し、リーンヘイムの神は精霊神ただ一柱なのだ。
多神と唯一神との違いが、エレイナにシュミール神の言葉の意味を分からなくさせていた。
「そう。さっき言った召喚魔法も、その一つだ。神の技術で作った物は、普通の人間では扱えるものではないからね。それを人間にも使えるように工夫して広めるのが、彼らの一族の役割だった」
「いわゆる、代弁者と言うわけですか」
シュミール神の説明を、エレイナが自分にも分かりやすい言葉で表現する。
代弁者というのは、地球の神話で言うところの天使のような存在の事だ。
精霊神の声を聞き大衆に伝える、いわば人間と精霊神との伝言役のような存在である。
「ちょっと違うけど、おおむねその通りだと思ってくれて構わない。『欠番者』と呼ばれているのは、その中でもちょっと特殊な者達だ」
「特殊、ですか?」
エレイナの言葉に返したシュミール神の補足に、今度はミーリャが首を傾げる。
神の技術を誰かに伝えるというだけでも、十分特殊な存在だ。
その中でも特殊な存在などと言われても、ミーリャには想像すらできない。
「彼らが仕えていた神は、今はこの世界には居ない。正確には、悪の方向へとその神格を堕落させた者達だ」
欠番者達は我々の方が堕落したと言っているがねと、シュミール神は苦笑する。
もちろん、その事はミールヘイムに伝えられている神話には書かれていない。
元々善の神だったものが悪に堕落したなどと知られれば、その影響は計り知れないからだ。
慎吾は、隣で青い顔をしているミーリャの手を握る。
自分の知らなかった神話の暗い神話を知ったショックは、異世界から来た慎吾とエレイナには分からない物だ。
その正面では、シュミール神が申し訳なさそうにしている。
彼にも、このミーリャの反応は大方予想できていたのだろう。
それでも、言わなければいけないと判断したのだ。
部屋を出るか聞いた慎吾にミーリャが首を横に振るのを見て、シュミール神は話を続ける。
「仕えていた神の堕落は、その下で働いている者にも影響を与える。今の彼らは、この世界に悪影響を与える存在だ」
「なるほど・・・」
シュミール神の言葉に、慎吾は溜息交じりに呟く。
シュミール神は今まで、堕落した神や『欠番者』の事を『敵対者』とは表現していない。
それはつまり、悪に堕落したとしてもその神々を仲間だと思いつづけていると言うことだろう。
甘いとも言えるしえらく人間くさいが、わからない訳でもない。
道を間違えた仲間を救いたいと言う思いは、慎吾もエレイナもしたことがあるのだから。
「彼らの目的は、『堕神』と呼ばれている彼らの仕えていた神の復活」
シュミール神の声の雰囲気が、固いものへと変わる。
「堕神という存在は、近くに居る神を無条件に堕落させる。その先にあるのは、この世界の崩壊だ」
そこまで言って、シュミール神は慎吾達に頭を下げた。
「すまないが、この世界を救う手伝いをしてほしい」
どうにも最近、話が短くなっているような気がする・・・。
最初の辺りは一話4000字だったのに、今は3000字ちょっと。
説明話が続いて、会話文の量が少ないというのもあるんですが。
ダラダラ書くのもあれなんで、もしかしたら今後会話文を増やしていくかもしれないです。




