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謎の少年と本当の管理者

頭上から降ってきた声に顔を上げると、純白の飛龍が下りて来ているところだった。

淡雪のごとく太陽を反射させる鱗に覆われた、天が隠れてしまいそうな巨体。

野生味にあふれているたたずまいだが、その中にも思わず跪いてしまいそうな神聖な何かを持っている。

リーンヘイムで居たときから様々なドラゴンと出会ってきた慎吾とエレイナであるが、ここまで圧倒されるような龍と会ったのは初めてである。


「白龍〈シュタン・ドラッハ〉・・・!」

「125層のボスが、なんで塔の外に・・・」


その白龍を見て、周りの冒険者達がざわつく。

塔の中にいるモンスターが外に出たということは、塔の外は安全という不文律の崩壊を意味する。

この街に、大切な者がいる者も居るだろう。

そう考えれば、冒険者達が騒然となるのも当然だろう。


「あの地にて守護に就いていたのは、我を元とした分身体過ぎん。そして、今の我はあくまでも我が主をこの地に運ぶための存在だ」

「つまり、〈あの方〉がここに居ると?」


警戒の目線を受けたシュタン・ドラッハの言葉に、リヴィルが周りの冒険者達を抑えながら聞き返す。


「というか、さっきからここに居るんだけど?」

「なっ・・・!」


(おいおい、気配は一切感じなかったぞ・・・)


唐突に背後から聞こえて来た声に、慎吾が驚きの声をあげる。

シュタン・ドラッハが現れたときから周囲を警戒していたにもかかわらず、ついさっき声を聞くまで背後に誰かが居ることに気付かなかったのだ。

エレイナも気付かなかったのか、隣で驚いた顔をしている。

慎吾の背後から現れたのは、白髪の少年だ。

ミーリャとほぼ変わらないくらいの背丈で、何となくおぼろげな不思議な印象である。


「相変わらず、人を弄ぶのがお好きですね・・・」

「まあ、それが僕の唯一の楽しみでもあるんだけどねー」


少年に対してリヴィルが溜息混じりに話しかけると、少年はニヤニヤとした笑いを浮かべながら返した。

慎吾はそれに、リーンヘイムで居た頃の仲間のレフィールを思い浮かべた。

要するに、この少年はいたずら好きのようである。


「おい貴様、何者だ?もしこの事態の関係者だというならば、今ここで拘束させてもらう」

「馬鹿っ!」


場違いな少年の登場による硬直からようやく立ち直ったの質問に、リヴィルが慌てて止めに入る。

だが、突然発生した圧力によってその場で足を止めてしまう。

圧力の原因は、少年の後ろにたたずむシュタン・ドラッハだ。

圧倒的な力によって放たれた威圧が、物理的な圧力となって周りに放たれたのである。

それは、リヴィルだけでなく慎吾や他の冒険者達にも影響を与えた。


「シュード、落ち着いて」


シュタン・ドラッハの口から何かが放たれようとしたその時、その前に居た少年が声を上げた。


「しかし、あの者は…」

「知らないみたいだから、仕方ないよ。それに、僕が名乗るまで君は手を出さないって約束でしょう?」

「…了解した。しかし名乗った後も態度が変わらなければ、相応の対処をさせてもらう」


少年が諭すようにシュタン・ドラッハへ話しかけると、さきほどまでの状態が嘘だったかのように圧力が消える。

思い出したかのように、冒険者達の中から何人かへたり込む者が居る。

ザンスハルトに至っては、真っ青な顔をして地面で震えている。


「さて、さっきの質問に対する答えだけど。関係者といえば、関係者だね。というか、多分この中で一番事態を把握できてると思うよ」

「…どういうことだ?」


肩をすくめながら言う少年に、どうにか震えを押さえ込んだザンスハルトが聞き返す。

さきほどあれほどの威圧受けたにもかかわらずなおも高圧的な態度を変えないのは、もはや尊敬に値するだろう。

ザンスハルトの質問に、少年はリヴィルの方へと顔を向けた。

目線を受けたリヴィルは、溜息をついて口を開いた。


「…この方の名前は、シュミール・モル・ニリバルト。この魔迷宮〈ニリバルト〉の本当の管理者にして、今だ天上に昇られていない唯一の神だ」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「こ、この人が、塔の本当の管理者…」

「というか、さっき天上に昇られていない唯一の神って…」


リヴィルの放った言葉に、再び周りが騒がしくなった。

地球と異なり、この世界には神という存在が実在するとされている。

少なくとも現在確認されている歴史上、そういう存在がいることは確かだとされていた。

だがその全てが遠い昔に天上へと昇っており、その存在は今や神話という形でしか残っていないはずなのだ。

まさか地上に神が残っていて、しかも塔の管理をしているとは思ってもみなかったのだろう。


「まあ、天上に行ってないのは塔に縛られてるからってだけだけどね」

「縛られていると言えど、その気になればいつでも抜け出せると我は聞いているが?」


当の本人は呑気にシュタン・ドラッハと話しているが、それを聞いている者は居ない。


「しかし、本人であるとの証拠が…」

「ーー本人じゃよ」


いち早く衝撃から復帰したザンスハルトがなおも疑問を発するが、それはその後方からの声に遮られた。

冒険者の間を縫うように出てきたのは、年期の入った様相の老人だ。

慎吾が誰かと疑問に思っていると、隣からリヴィルが『この街の最高議長だ』と教えてきた。


「やあ、久しぶりで良いかな?」

「そうですな。以前降臨された時から、60年経っていますので」

「60年ね・・・。君がお爺さんになってるくらいだから、それくらい経っててもおかしくは無いか」


少年ーーシュミール神の前に老人がひざまづき、少し親しげな会話が交わされた。

シュミール神と老人が知り合いであることに、周りが騒然となる。


「最高議長。えらく、断言しますな」

「そりゃ、そうじゃろう。ほれ、この街の管理を任された時に結んだ契約が反応しておる」


後ろから割り込んできたザンスハルトに、老人は左腕を差し出した。

そこには親指ほどの大きさの宝石が繋がった紐が巻き付いており、宝石の中には二対の羽の模様が光っている。

契約と言っていたので、おそらくシュミール神に関する何かなのだろう。

再びそれをそでの中に仕舞った老人は、もう用がないと言わんばかりにザンスハルトから目を離す。


「して、今回はどういったご用件でしょうか?」

「いやなに。どうもそこにいる冒険者達をそこの人が拘束しようとしてたから、止めてほしいと言いに来たんだよ」


先ほどのやり取りが無かったかのような老人からの質問に、シュミール神はさきほど現れた理由を説明した。


「彼らが塔の異変の原因と何の関係も無いことは、僕が証明するよ」

「・・・分かりました。では、拘束命令は取り消しましょう」


シュミール神の言葉を受けての老人の言葉にザンスハルトがまた何か言おうとするが、老人睨まれて黙る。

そのやり取りに、シュミール神は特に気にする様子もない。


「それと、塔の異変についてなんだけど。どうにも、厄介な事になってるみたいだ」

「厄介なこと、ですか。あなたがそういうとは、相当な事態ですな・・・」


続くシュミール神の言葉に、老人は困ったような顔をする。

神の感覚は、地上の者達とは掛け離れていると言われている。

何せ、ほぼ不老不死とまで言われている存在だ。

その神が、厄介だと言っている。

普通に考えて、国の存亡というレベルだろう。

最悪の場合、この世界の危機だ。


「ここから先は、ちょっとここでは話せないかな。どこか、落ち着いて話せる所ってある?」

「では、議会館の私の執務室にしましょう。盗聴への対応もしておりますので、ご安心を」


シュミール神の質問に、老人はそういってきびすを返した。

老人の先導に従って冒険者の間を行くシュミール神だが、何を思ったのか途中で立ち止まって慎吾の方へと向かってきた。

老人もいきなりのシュミール神の不可解な行動に、立ち止まって首を傾げている。

何があるのかと警戒する慎吾の前で、シュミール神は口を開いた。


「シンゴ・ツルギ君、だよね?僕と一緒に、来てくれないか?」

前編後編共に誰かの台詞で終わるという、なかなかにレアな話になりました。

投稿周期ですが、前話での後書きで書いた通り三日で一話になりそうです。

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