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迷宮での決着と濡れ衣

「ヴル、シルヴィ、行けるか?」

「こっちは、問題ねーぜ」

「こっちも大丈夫だけど、これで本当にやれるの?」


慎吾の確認に、シルヴィとヴルが答える。

ただし、シルヴィのほうはいささか不安が残るようだ。

常日頃の言動からは分かりにくいが、シルヴィは意外と繊細な一面もあるのだ。

どうやら、先ほどの攻撃を防ぎきれなかったという事が堪えているようである。


「成功するかどうかは、分からねーよ。今は、これしかやりようがねぇんだ」

「うー・・・。不安だなぁ・・・」


正直に口のした慎吾に、シルヴィはますます怖じけづく。

このままでは、できるはずのこともできないだろう。

そう判断した慎吾は、ヴルに目線を向けた。

他人をフォローするのが得意ではない慎吾に比べて、ヴルは何かと面倒見が良いのだ。


「ウジウジしてても、変わんねーだろ。いつもみたいに、気ままに構えとけ」

「ヴルの中の私の評価がどんなものか、すごく気になるよ!」


ぶっきらぼうなヴルの物言いに、シルヴィが頬を膨らませる。

だがその一言のおかげで、吹っ切れたようだ。

良くも悪くも、切り替えの早いシルヴィである。


「とにかく、始めるぞ!」


慎吾が意識を切り替えるように言って、シルヴィとヴルが前に出る。

とは言え、今回は二人同時に使うわけではない。

慎吾は先に、シルヴィへと魔力を渡した。


「「風よ。我の求めし一切合切を引きはがし、その腕にて拘束せよ!『風腕の束縛(モル・デ・ヴィアルム)』」」


呪文に応じて発生したのは、そよ風のように弱い風だ。

しかし弱かったのは最初だけで、風は次第にその力を上げていく。

豪風のようになった風は壁のなくなった125層を隅々まで行き交い、相手も魔物の一部とも言うべき溶解液を巻き上げて一カ所に集まっていく。


「ただ引きはがして拘束するだけの割には、いささか規模が大きすぎないか?」

「相手が相手だからな・・・。お、そろそろかな?」


魔法の様子を細かく確認しながら、エレイナの言葉に返す。

渦の中にスイカほどの大きさの塊ができているのを確認して、慎吾が次の魔法を使った。

ちなみに、シルヴィの魔法も発動したままだ。

慎吾は事もなげにやっている並列発動だが、実際にはかなりの高等技術である。


「「ともりしは聖炎、(けが)れを滅し混沌を焼き払う浄火よ!『浄炎の救済(ガル・ディ・イルミオ)』」」


呪文と共に点ったのは、色を抜いたかのように純白の炎だ。

もちろん、ただの炎ではない。

それなりの修業をつんでいる神職が見れば、炎の中に神聖な力が宿っているのが分かるだろう。


「白い炎・・・」

「上位の火精霊が操ると言われる、聖浄せいじょう白焔はくえんか。使えるとは思っていたが、見るのは初めてだな」


ミーリャのつぶやきに、エレイナが続ける。

普通の炎のように物を焼く炎ではなく、聖なる力によって浄化するための炎。

エレイナが見たことが無いのは隠していたからではなく、単純に出番が無かっただけだ。


「本来は不死属(アンデット)や死霊属の魔物に使うモノだから効くかどうかは賭けだったけど、どうにかうまくいったみたいだな」


炎の中の影が次第に小さくなっていくのを見て、慎吾が溜息混じりにそうつぶやく。

聖浄の白焔による攻撃は『焼く』というより『浄化する』という事に特化したものであるため、通常の炎より物質的な攻撃力としてら低いのである。

負の魔力に傾いた存在でなければ効果が無いため、実際にはかなり分の悪い賭けだったりする。

そうこうするうちに、炎が消えた。

浄化の対象であった例の魔物が消滅したため、自然に鎮火したのだ。


「さてと・・・。他にやることもなさそうだし、さっさと帰るか」

「このままこの層を攻略して外に出た方が、わざわざ下に戻るより楽ではないか?」


念のためシルヴィの力を使って索敵をした慎吾が言うと、エレイナがそう聞いてきた。

この125層より下で転移魔方陣があるのは、1番近いもので120層になる。

しかも、125層の迷宮じみた壁は今は破壊されている。

わざわざ5層分下りるよりも、目の前に見えているボス部屋の主を倒して外に出る方が手っ取り早いと思ったのだ。


「それもそうだけど、この状態で攻略するのはインチキしてるみたいで嫌なんだよな・・・」

「さっきのヤツの浄化しきれなかった部分があるかもしれないし、今ここを通るのはやめておいた方が良いね」


私事が混ざっていた慎吾の言葉に、シルヴィがフォローを入れる。

ある程度の塊になっていた溶解液は先ほどの魔法で消え去ったのだが、微細な飛沫まで消えたかと言うと疑問が残る。

踏み込んですぐにどうこうなるとは思わないが、用心に越したことは無いだろう。


「そういうことならば、戻るしかないか・・・」


シルヴィの言葉にエレイナも納得し、層の三人は入口にある下り階段へと向かった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


ーー慎吾達が125層を出てから、数十分後。


ようやく120層の転移魔方陣経由で塔から出てきた慎吾達を出迎えたのは、数人の冒険者らしき集団とその前に立つリヴィルだった。


「ようやく、戻ってきたか・・・」


慎吾達が帰ってくるのを待っていた事を隠す気も無いのか、あからさまに安堵したようすでリヴィルはそういってきた。

異変の原因を処理して125層の転移魔方陣から出て来たにしては時間がかかり過ぎていたため、少々非難気味な口調だ。

この誤解は、リヴィルがこの異変の原因を125層のボスである白龍〈シュタン・ドラッハ〉が関係するものだと勘違いしているため起こったものである。


「塔に穴が空くわそのあと馬鹿でかい魔力が感知されるわで、こっちは大変だったぞ」

「塔の穴は異常の元凶がやったやつだけど、魔力の方は俺だな。ちょっと厄介な相手だったから、大技を使った」


苦労が滲み出たようなリヴィルの言葉に、慎吾は肩をすくめながら答える。


「あれが、大技って範疇かい。それで、その異常の元凶ってのはどうにかできたのか?」

「まあ、少なくとも今まで居たヤツが復活することは無いだろうな。今はまだヤツの一部みたいなのが漂っているかもしれないけど、核は潰したから1週間もすれば元に戻ると思う」


驚きながら聞いてきたリヴィルに、慎吾は125層でシルヴィがエレイナ達に言ったことを繰り返す。

それを聞いて、リヴィルはようやく慎吾の言う元凶が自分の考えていたものと違うことを認識した。

今はもう関係の無いことなのでとりあえず脇に置き、先に今後の事を考えることにする。


「一週間ねぇ・・・。念のため、10日後に塔の調査をするとしようか。もちろん、あんた達にも参加してもらうよ」


リヴィルの言葉に、慎吾達も渋ることなく頷く。

10日後の調査は原因の究明もあるが、1番の目的は行方不明になった冒険者達の捜索だ。

無事に生きているとは思えないが、身につけていたものの一部でも回収できればと思っている。


「それで、今回の報酬の方だがーー」


リヴィルがそういっていると、突然当たりが騒がしくなった。

何事かと騒がしい方を見てみると、小肥りの男が数人の兵士を連れてやって来ている所だった。

軍務大臣の、ザンスハルトである。


「えらく、騒がしい登場だね」

「ふん、今回は貴様には用は無い。何でも、塔の中から戻ってきた者が居ると報告を受けたのでな」


目の前で立ち止まったザンスハルトは話しかけて来るリヴィルに鼻を鳴らすと、慎吾達の方へと目を向けた。


「リヴィルが話をしていたところから見るに、戻ってきた者と言うのはお前だな?」

「まぁ、確かにさっき塔から戻ってきたところですが・・・」


名乗りもなくいきなり上から物を言ってきたザンスハルトに少しムッっとしながらも、慎吾は頷く。

ここで違うと言うことも可能ではあるが、それでは話を先送りにするだけだ。

そんな面倒をするよりは、正直に言った方が楽だと思ったのである。


「そうか・・・。では、貴様をここで拘束させてもらう」

「なっ・・・」


慎吾の答えを聞いたザンスハルトの口から出た言葉に色めき立ったのは、周りで話の流れを聞いていた冒険者達だ。

騒がしくなる前にそれを目線で封じて、慎吾はザンスハルトに向かい合う。


「・・・理由を聞いても?」

「塔の一部を破壊し、住民にも被害が出るところだった。これだけでは、不満かね?」


冷静な慎吾からの質問に、ザンスハルトは内心たじろぎながらも答える。

ザンスハルトの予想では、必死に弁解するか抵抗するかのどちらかだと思っていたのである。


「ちょっと待て、この街の住民以外を拘束するには各ギルドのギルド長の承認が必要なはずだが?少なくとも、私は承認した覚えは無いぞ」

「それは、そうだろう。冒険者ギルドと自警団ギルドのギルド長は、先ほどの緊急議会で解任が決定したからな」


どうするか考えだした慎吾に変わって質問したリヴィルに、今度は自信満々にザンスハルトが答える。

そのことを聞いて、リヴィルは驚く。

この街の重要な役職の人事は、十一人いる議会議員による多数決で決定する。

そして議員の中で、リヴィルの解任に反対するであろう者が6人。

どうやっても、リヴィルが解任する流れにはならないと思っていたのだ。


「塔が破壊された事と関係があるであろう冒険者ギルド長に、それと親しい自警団ギルド長。これだけの事が揃えば、証拠が無くとも承認はすぐだったよ」


確かにそれだけの事態が起これば、確かな証拠が無くとも議会は動くだろう。

長い間この町を見ているリヴィルには、そのことが十分に理解できた。

いつもはのんびりしているこの街の議会だが、こう言うときは行動が早いのだ。

反論しようにも、表面上は真実しか言っていないのが余計タチが悪い。

おそらくリヴィルの解任に反対する議員達も反論できずに、何人か賛成に回ってしまったのだろう。


「さぁ、大人しく拘束されてもらおうか。我々とて、無用な争いは避けたいのでね」


ニヤニヤとした笑みを浮かべるザンスハルトの言葉を受けるように、周りの兵士達が近づいて来る。

と、その時。

強い風とともに、頭上から声が降ってきた。


『ーー我が領区の救い人に対して、それ以上不敬な行いはやめて貰おうか』

大変お待たせしました!

こちらの勝手な都合で一時的に投稿を中断していましたが、本日より再開いたします。

投稿周期はまだはっきりとは言えないので、その点ご了承ください。

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