レプニーチェと魔迷宮
8月15日 本文中に追加の記述をしました。ストーリー全体としては、変更はありません。
ラマサンダを出発してから半月、一行の前に見上げるような城壁が聳えていた。
その高さは、ゆうに二十メートルを越えている。
実に、ラマサンダで出会ったメガプラントの倍以上の高さだ。
「でかいな・・・」
「この先が、中央交易都市レプニーチェです。ここリベスティアの首都で、大陸中の品が行き来する所ですよ」
慎吾の呟きに、商人頭が答えた。
貿易国家リベスティアには、レプニーチェを含めて合計五つの都市がある。
それぞれの国家は常にリベスティアを介して、品を売り買いしているのだ。
「まさに、貿易国家って訳か。それにしても、よく他の国に攻め込まれなかったな」
「ハハハ!この国を敵に回したら、他の三国がどう動くか分かりませんからね」
慎吾の疑問に、商人頭は笑いながら答えた。
それも、そうだろう。
リベスティアは、この大陸の物流を管理していると言っても過言ではない。
そんな国を攻めようものなら、大陸中の他の三国も敵に回すことになりかねないのだ。
いくらなんでも、そこまでの愚考をする者が国の頂点にいるはずもない。
「そんなわけで、レプニーチェは数百年前から一度も他国の襲撃はありませんね」
「ふぅん・・・」
商人頭の話に、慎吾は少し考えるように返した。
そうこうしているうちに、城壁の一部に作られた門の前にやって来た。
門の前は広場のように開けた場所になっており、そこに馬車を停めて商隊の一人が門の方へ走っていく。
「なんか、閑散としてるね」
慎吾の隣に居たミーリャが、周りを見渡しながら言った。
ミーリャの言う通り、門の前は馬車はおろか旅人の姿さえ見えない。
貿易国家を名乗っている以上、それなりに他国との交易を行う者達がいるはずなのだが。
「そりゃ、そうだろうな。リックハーンが滅んで、ビランツァも襲撃を受けたんだ。こんな時期に北と行き来する物好きなんて、そうそう居ねぇよ」
肩をすくませながらミーリャの話に答えたのは、馬車に乗っていた冒険者の男だ。
「あんたら、レプニーチェは初めてみたいだな。なら、同業者のよしみで忠告しておいてやる」
続いて、その男と一緒に居た冒険者が話しかけてきた。
「この町を管理してるのは、商人の連中だ。それも、この商隊の頭みたいにお人好しじゃねぇ。それこそ、人の命より金稼ぎっていうような、性根の腐りきった連中だ」
それを聞いて、慎吾は納得する。
リックハーンが滅びたと言うのに、そこに隣接しているビランツァの警備が妙に手薄だったのを気にしていたのだ。
要するに、他の都市より自分の膝元を守りたいのだろう。
「中に入ったら、言動には気を付けるんだな。最悪、生きて外に出れねぇぞ」
ちょうど冒険者の話が終わった時、門の方へ行った者が商隊の方へ戻って来た。
商人頭に何やら耳打ちをすると、商人頭は慎吾達の方へとやって来る。
「すいません。どうやら、馬車と人間とは別々に検査することになったようなのです」
「なるほど、分かりました」
申し訳なさそうに言ってきた商人頭に、慎吾達は素直に頷いて馬車を降りる。
慎吾達はそのまま門の方へ行き、馬車は城壁に沿って門から離れていく。
どうも、別の門の所で検査を受けるようだ。
慎吾達が門の前まで行くと、そこには二人の兵士が立っていた。
男と女の兵士が、一人ずつだ。
「長旅、ご苦労様です。こちらで、身分証明書と所持品の確認をいたします」
「男の方はここで、女の方は私に付いてきてください」
兵士の言葉にエレイナとミーリャ、それから他の女冒険者達が兵士について門の横の小屋に入って行った。
「では、身分証明書の方をお見せください」
兵士の言葉に、慎吾達はギルドカードを見せる。
兵士は順番に、カードに何やら四角い機器を当てている。
恐らく、カードが本人の物か確認をしているのだろう。
「・・・確認しました。では、続いて所持品の検査を行います」
全員の確認を終えた兵士が、そう言って門の前の机の所に案内する。
「一名ずつ、所持品をこの机の上に出してください。所持品の確認が終わった方から、門の中に入ってください」
兵士の説明に、慎吾が手を挙げる。
「どうしました?」
「女の仲間が来るまで、ここで待っていても大丈夫か?」
「はい、大丈夫ですよ。女性の方の検査も、もうすぐ終わるはずですし」
兵士の答えに頷き、慎吾はそこでエレイナ達を待つことにした。
十分後。
出てきたエレイナ達と共に、慎吾は門を抜ける。
所持品の検査には、ダミーとして持っていた大きな鞄の中身を見せた。
その際に鞄を持っていたエレイナに兵士が見とれていたため慎吾がやや不機嫌になったのだが、それは別の話。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
レプニーチェの門を抜けてから、数十分後。
「だ、だから、悪かったっていってるだろ、エリー」
「知るか!」
「ふ、二人とも。周りに人も居るし、少し落ち着こうよ・・・」
門から続く大通りで、慎吾がエレイナを必死に宥めていた。
ミーリャは、二人を落ち着かせようと必死である。
エレイナの怒っている原因は、先程昼食を食べた食堂での出来事である。
『町に来て最初の食事は、見たことのない珍しい料理にしよう』と言った慎吾に連れられて入った食堂で、『ミルームの姿焼き』なる物を頼んだのだがーー
「私が虫が嫌いって事を知ってて、わざと頼んだのだろ!」
「『ミルーム』って奴を見たことないのに、そんなことできるわけないだろ!」
大声で叫ぶエレイナに、慎吾が突っ込みを返す。
『高級食材を使用』との謳い文句に牛や魚のようなものを想像していた慎吾達の前に運ばれてきたのは、丸々と太った巨大な白い芋虫の丸焼きだったのである。
所謂、『ゲテモノ食材』という代物だったのだ。
あとから聞いた話によれば、ミルームは芋虫型の魔物『ミルキーワーム』の食用種で、濃厚な味わいでとても美味しいらしい。
ただし、『味は好きだが見た目は嫌い』という人が多いらしいが。
出てきた料理を見て発狂直前で暴れたエレイナによって料理がぐちゃぐちゃにされてしまったため、慎吾はそれを食べる事ができなかっのだが。
その料理が意外と高かったため、色々と泣きそうになる慎吾であった。
「な、なぁ、エリー?許してくれよ。晩飯は、お前が好きな物を奢るからさ」
「・・・ホントだな?」
懇願する慎吾に、エレイナは疑わしげな目を向ける。
「ホントだって」
「・・・よし。ならば、許そう」
機嫌の直ったエレイナに、慎吾は安堵のため息をついた。
晩飯に何を食べるのか不安だが、エレイナの機嫌が直るならば安いものだ。
この際多少の出費は仕方がないと、慎吾は思うのだった。
「・・・シンゴ、エレイナを物で釣った?」
「ミーリャ、そんなこと言っちゃいけません」
ミーリャが余計な事を言ったようだが、エレイナには聞こえていない。
どうやら、今から晩飯の事を気にしているようだ。
なんとも、食い意地の張っていることである。
「ところでシンゴ、今からどこに行くんだ?」
「やっと、その話に移せたよ・・・。今から行くのは、この町の中央に入り口のある魔迷宮〈ニリバルト〉だ」
エレイナの質問に、ため息をつきながら慎吾が答える。
「町に迷宮があるのは、ここぐらいだよね」
「正確には、迷宮の近くに町が作られたらしいがな」
得意気に言うミーリャの言葉を、慎吾は訂正した。
レプニーチェの放射線状に広がる大通りの中心には、見上げるような塔が立っている。
それは地下にも広がっており、合計約五百層の異形の迷宮を作り出している。
「商人頭の人が報酬は少し遅くなるっていってたし、バータル皇国に行く依頼があるかどうか分からないからな」
「バータル皇国は、昔からあまり他の所と交易がなかったらしいからね」
慎吾の言葉に、今度はミーリャが補足する。
『危険な知識の拡散を防ぐため』という名目で、バータルは代々他の国との貿易をほとんど行ってこなかった。
日本で言うところの、鎖国のような状態だ。
『必要な知識ならば全世界に広めるべきである』との方針を今の皇王が打ち立ててからは割りと自由な貿易が行われているようだが、まだ活発な行き来が無いのが現状である。
これまで全くといっても良いほど人や物の行き来が無かったため、それも仕方のない事だろう。
道ながら商人頭からその事を聞いた慎吾は、早々にレプニーチェである程度滞在することを決めていた。
滞在するならじっとしているより、迷宮に行こうということである。
もっとも、迷宮の近くにギルドがあるので、どちらにしろこのルートは通る事になっていたのだが。
と言うよりは、迷宮を中心に各主要施設が軒を連ねていると言った方が正しい。
ちなみに商人頭の報酬が遅れるのは、ラマサンダで足止めを喰らった事と盗賊の仲間の冒険者の事があるからだ。
特に、盗賊の仲間の事に関しては町や国の護衛団が関係してくるので、ややこしい事になるかもしれないらしい。
他愛もない話をしながら、人の行き交う大通りを迷宮の方面に向かっていく慎吾達であった。
海香「エレイナって、虫嫌いなんだね」
エレイナ「ああ。あのウネウネっとしてグニャグニャってなるのが、心底嫌でな」
慎吾「リーンヘイムで虫の魔物に会ったときは、目隠しして討伐してたよな」
勝間「そんな状態で戦える事に、驚きだよ・・・」
海「じゃあ今度会ったときに、ミルームの姿焼きをご馳走してあげる」
慎「エレイナに見せるのは、町の外でやってくれ。町が崩壊しかねない」
勝「本当にありそうだから、怖いよね・・・」
本来なら7月31日に更新する予定だったのですが、完全に忘れ去っていましたm(__)m
慎吾達も、三つ目の都市に着きましたね。しかも、迷宮付きです。
ミーリャが慎吾達の知識役的な立場になっているのは、慎吾達の役に立とうと頑張った結果だと思ってください。(本来ならもう一人出しても良かったんですが、ゴタゴタしそうだったのでやめました)
さて、次話からは迷宮のエピソードが続きます。
前話で言っていた閑話は、もう少し後になりそうです。
では、また次話。




