英雄達の旅立ちと闇のその後
8月15日 本文中に追加の記述をしました。ストーリー全体としては、変更はありません。
「もうそろそろ、出ようかと思ってる」
「そう、ですか・・・」
ミーリャと勝間達の戦闘訓練が始まってから1ヶ月、ティルキアの執務室で慎吾はそう切り出した。
内容は、近いうちに旅に出発するというものだ。
「できれば、もう少し待っていて欲しかったですけどね」
「さすがに、これ以上は待てそうにないからな」
ギルドに入ってから1週間、そしてミーリャの訓練のために1ヶ月。
当初の目的であったギルドの信頼を得るというのは達成しているため、ミーリャが十分な実力を着けたら出発するつもりであった。
『慎吾がリーンヘイムへ帰る方法を見つける』という旅の目的上、早く旅に出るに越したことはない。
もっとも、ティルキアが言っている事も分からないでもない。
慎吾達が出ていっては、ビランツァの戦力は激減してしまうからだ。
現在バラディスの要請によって周辺の町から腕に自信のある冒険者がビランツァに向かっているが、一番近い者ですらビランツァに着くのは半月近くも後になると言う。
慎吾達が出発してからその者が到着するまで、魔物の襲撃が無いとも限らないのだ。
ちなみに、バラディスがこの国の首都に出した騎士団の増援要請は、突き返されたらしい。
『魔物に狙われてる辺境の町より自分の足元が大事』と、バラディスが慎吾に愚痴っていた。
「具体的には、いつに出発ですか?」
「四日後に出発する商隊の護衛の依頼を受けてるから、それと一緒にここを出る」
ティルキアの質問に、慎吾が答える。
慎吾個人としては今すぐにでも出発したいのだが、慎吾達はこの世界の都市についてほとんど知らない。
そのため、情報収集と先の路銀の確保のためにこの依頼を受けたのだ。
ちなみに、この1ヶ月でビランツァの町から北の森までの道の整備は終わっている。
森の調査も終わっているので、先週から一般人の自由な立ち入りも許されているらしい。
「依頼をこなしながら、南の方へ行こうと思ってる」
「なるほど、『バータル皇国』の『知恵の塔』へ行くのですね?」
慎吾の行き先に思い至ったティルキアの言葉に、慎吾が頷く。
冒険者になってから、慎吾達は依頼の合間を縫ってこの世界について調べていた。
調べていたのは主に、この世界の地理や歴史についてだ。
それによると、この世界には『スムーラ』と『テスール』と呼ばれる2つの大陸があるらしい。
そして、スムーラ大陸には慎吾達のいる『貿易国家リベスティア』を始めとする5つの国がある。
もっとも、ティルキアの故郷である北のリックハーンは魔物の襲撃によって無くなっているが。
その中でも『賢者の国』と呼ばれているのが、南にあるバータル皇国だ。
慎吾達は、バータルの南端にある『世界中の知識の集まる場所』と言われる知恵の塔へと向かう予定だ。
「世界中の知識の集まる場所っていうのが嘘だとしても、手掛かりくらいは見つかるだろ」
「まあ、そうですね。世界中を探し回るよりは、マトモかも知れませんね」
肩をすくめる慎吾に、ティルキアがため息をつく。
膨大な知識の中から有るかどうかも分からないモノの手掛かりを探すのと、世界中をヒントも無しに探し回ることのどちらがよりマトモな考えかは不明だが。
「まあ、最悪は皇国の皇王にでも恩を売って、大賢者とやらに直接聞くさ」
そう言いながら部屋を出ていく慎吾に、本気でやりかねないとティルキアは頭を抱えそうになる。
ーー4日後
「じゃあ、行ってくる」
「またな」
「じゃあね」
準備を終えた慎吾達は、ティルキアの屋敷の前で勝間達の見送りを受けていた。
「必要な物は、全部持ったのか?」
「ま、とりあえずポーション類と魔道具は『こっち』のを買ってる」
勝間の言葉に、慎吾は腰に下げた鞄を叩きながら答える。
この鞄は、物を無限かつ永久に保存できる『永久保存鞄』だ。
ほとんどの道具は英雄召喚の影響で使えなくなっていたが、この鞄が無事なのは幸いであった。
事前の準備で使えない物は全て処分し、代わりにこの世界の道具を買っている。
もっとも、ほとんどの道具がリーンヘイムに比べて数段劣っているが。
「シンゴさん、これを」
そう言って、ティルキアが一つの紙筒を取り出す。
「皇王への親書です。もう王女ではないのでどこまで有効か分かりませんが、念のため」
「ありがとう」
慎吾はそれを受け取り、鞄の中に入れる。
そして鞄から拳ほどの大きさの球体を取り出し、ティルキアに手渡した。
「これは?」
「俺達の力が必要な時は、それに向かって俺の名前を呼んでくれ。シルヴィの力で、どこにいても声が届く。3回くらいしか使えねぇから、緊急の時以外は使うなよ?」
そう言って、同じものを勝間と海香にも渡す。
「じゃあ、そろそろ時間だから行くな」
「探してるものが見つかると良いな、慎吾」
さばさばとした雰囲気の慎吾に、勝間はできるだけ明るく言った。
「意地でも、見つけてやるさ」
「死ぬなよ?」
「そっちこそ。危険度では、俺たちより上なんだからな?」
慎吾と勝間が言葉を交わし、拳を打ち合わせる。
それを合図に、慎吾達3人は勝間達に背を向けてビランツァの町へと歩いていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ーー慎吾達が旅に出たのより少し早い、夜中頃。
リベスティアより、北へ行った場所。かつて聖国と呼ばれた場所に、その城はあった。
『聖都カルラスタ』と呼ばれた城下町は人の気配ひとつなく、『鉄壁』と謳われた防壁は見るも無惨な姿に砕かれている。
『北の盾』と呼ばれ魔物達の侵攻を幾度となく阻んできたその城は、外見だけは変わらないままに全くの別物と化していた。
魔物に蹂躙されたはずの外壁は傷ひとつなく、破られたはずの木の扉はかつての重みある姿のまま佇んでいる。
人が居なくなって久しいはずの城内には埃ひとつ見当たらず、しかしながら人はおろか生物の気配すら感じない。
カツンカツン…
そんな不気味な雰囲気を醸す城の廊下を、1つの人影が歩いていた。
背は高く全体的に細身で、闇のごとき黒のローブを纏っている。ローブを深く被っていることで、顔を見ることができない。
夜の暗闇をもろともせずにゆったりとしたペースで廊下を歩いていたそれは、やがて1つの扉の前で立ち止まった。
「申し訳ありません、少々遅れました」
扉を開き、その人影は頭を下げる。
扉の先は大きな部屋になっていて、中央には長い机が置かれていた。
机の両側には椅子が合計10脚があり、その内8脚はすでに同じように黒のローブを纏っている人影で埋まっている。
「おや?『7番目』はまた、欠席ですか?」
「ああ。あいつは研究室に籠っているらしい」
空いている席に座りながら訪ねると、先に座っていた人影の一人が答える。
「なるほど、彼らしいですね」
「ソンナ、コトヨリ、オマエハ、ナニヲ、ヤッテ、イタノダ、『5番目』?」
「そうだな。理由もなく遅れるようなタマじゃねぇだろ、テメェはよ?」
自分の質問に対する解答に軽く笑っていると、別の人影から質問が飛ぶ。
『フィヤータ』というのが、その人影の呼び名のようだ。個別の呼び名が別にあることと言い、彼らは1つの目標を目指す団体であることが伺える。
「大方、南のどこかの町を魔物に襲わせていたのだろう?」
「少し違いますね。とある場所を襲わせた魔物達が全滅したらしいので、その時の様子を『観て』来たのですよ」
先程の2人とは別の影からの言葉を、フィヤータは肩を竦めながら訂正した。
「全滅?どこを攻めやがったんだ。『西』の要塞か?」
「いえいえ。ここから少し南に行った、ビランツァという都市ですよ。なんでも、
新たな勇者が召喚されたようなので」
最初に質問してきた人影の再びの言葉を、フィヤータが訂正する。
「オマエトモ、アロウモノガ、ユダンシテ、イタノカ?」
「それも、違います。万が一も考えて、1000体ほどの魔物と地竜も使いましたので」
「うちの偵察に見つからないような騎士団がいて、そいつらが倒したとか?それだったら、流石にへこむのだけど」
「いえ、事前調査の段階で騎士団の存在は確認できていませんでした」
「万単位の冒険者が集まったのか?」
「完全な奇襲だったので、それもあり得ません。実際、集まったのは500人ほどだったと聞いています」
次々と投げ掛けられる言葉をフィヤータは否定していき、その度に部屋に訝しげな空気が流れる。
「では、なぜだ?なぜ、魔物達は全滅したのだ?」
「なぜだと思います?『1番目』?」
訳がわからないとでも言うような言葉に、フィヤータは1つの人影を見やる。
その場の全員の目線が集中するなかで、ピヤービと呼ばれた人影は組んでいた腕をほどく。
「地竜に関しては、とてつもなく強い1人に倒されたと推測するが?」
「とてつもなく強い1人に、だと?」
「やはり、私と同じ答えにたどり着きましたか…。そうです。おそらく、我々の知らない強者が居たのでしょう」
ピヤービの言葉に、フィヤータは感心するように自分の意見を言った。
しかし、他の者達はそれでも分からないようだ。
「おい。なんで1人で、1000体もの魔物を全滅させられるんだよ?」
「何も、たった1人魔物を全滅させたとは思いませんよ。あくまでも、『地竜は』です。ダメージを負わせるだけなら、大規模魔法がありますがね」
「ダガ、アレデハヨクテ、ヒャクタイホドノハンイシカ、オオイキレナイゾ?」
「広い範囲に影響するようにすれば、3発ほどで全ての魔物にダメージを負わせることができますよ」
改めて飛ばされる質問に答えるように、フィヤータは具体的な説明にはいる。
「しかし、ダメージを与えただけでは冒険者は倍の数の魔物と戦う…いや、そうか。ダメージ式の障壁を張ったのか」
「でしょうね。恐らく冒険者達の元へ抜けたのは300程度ではないでしょうか」
フィヤータの説明を聞いて、他の者も理解が追い付いてきたようだ。
実際はその半分ほどしか抜けていないのだが、慎吾の出鱈目な強さを知らない彼らにそれを知るすべはない。
むしろその力業ともいうべき方法にたどり着いた事自体、彼らが只者ではない事を物語っていた。
「しかし地竜を相手に、1人で勝てる者が居るとはな…」
「今回の勇者は、そこまでの強さなのか…」
「計画を、修正する必要があるか」
予想以上の事態に、部屋に騒然とした空気が流れる。
これまで『先代勇者が魔王を封印できたのは修練を積んだからだ』という声が多かったのだが、今回の事でそうではない可能性が出ていたのだ。
彼らが進める計画に、これほど大きく影響する物も無いだろう。
「まあ。この事についてこれ以上話し合っても、埒が空きませんね」
「そのようだな」
それを静めるかのようなフィヤータの言葉に、ピヤービが応じる。
「そう言えば、今日にその都市を出発する商隊があるようですよ?なんでも、一緒に南の方へ向かう冒険者達が居るのだとか」
「ほう?このタイミングで、わざわざ外に出るか。もしかすれば、勇者の関係者かも知れんな」
「念のため、1度襲わせてみましょうか?ハズレでも、多少は何か手に入るかも知れません」
「そうだな」
フィヤータの言葉に、ピヤービが頷く。
そのあと少しの話し合いが続き、この謎の話し合いは解散になった。
「では、フィヤータ。商隊の件は任せる」
「了解しました」
ピヤービの言葉にフィヤータが頷くと、誰からともなく席から立ち上がる。
そしてピヤービが発した言葉に、他の8人の声が重なる。
「この世に、闇の繁栄を」
「「「「「「「「この世に、闇の繁栄を」」」」」」」」
海香「慎吾達、出ていっちゃったね」
勝間「そうだな。なんか、すごい寂しくなった」
海「そうだね。夜にミーリャちゃんを抱っこして寝てないからかな?」
勝「海香。お前、そんなことしてたのか…」
海「そうだよ?ティルやエレイナさんとも代わる代わるに」
勝「そうなのか?ティル…」
ティル「う…。だって、可愛いんですもん…」
海「エレイナさんも、凄く蕩けた顔で抱いてるよ?」
勝「な、なんか、俺の中のエレイナさんのイメージが音をたてて崩れていく…」
すいません、とてつもなく遅くなりました。
そして、やっと慎吾達は旅立ちました。
勝間達と別に旅立つのは決まっていましたが、結局どういう風にするかギリギリまで迷ってました。
後半は今後のフラグとして必要だったんですが、なんだか読みにくい形になったような気がします。重ねて、すいません。
さて次話は、慎吾達は最初の村へ向かい、勝間達は鍛練の続きと初めての冒険者としての依頼へ。
今回のフラグを回収するのは、もう少し後になりますね。
こんどはもっと早く上げます。(これ、前も言ったような…)
では、また次話。




