絡まれた慎吾達と変装魔法
ミーリャとの連携訓練が始まってから、1週間後。
慎吾とエレイナ、そしてミーリャの3人は、久しぶりにビランツァの町へとやって来ていた。
それなりに連携がとれてきたと思われたため、手頃な依頼で確認をしようと考えたのだ。
「この町も、良い感じに復興してるみたいだな」
「ああ。街道の補修は、まだ先の話らしいが」
大通りを歩く人達を見て漏らす慎吾に、エレイナも頷きながら返す。
先日勝間達の冒険者ギルドへの登録のために町へ来たティルの話によると、町の機能のほとんどがこれまでの状態に復旧されているらしい。
慎吾の魔法で地竜以外の魔物からの被害が無かった事と、バラディスが先頭で復興の指揮をとったお陰だろう。
とは言えやはり人手不足は深刻なようで、北の森経由で旧リックハーンへと向かう街道の補修は当分見送られるとの話だが。
『色々と危ないので、仕方がないですよ』と、ティルキアが悲しげに笑っていた。
「私達で街道の補修をやってやりたいが、流石にな・・・」
「やったらやったで、バラディスのおっさんや町の連中から何か言われそうだし」
苦笑いするエレイナに、慎吾が肩をすくめながら返した。
エレイナや慎吾からすれば、街道の補修など半日もあれば事足りる内容だったりする。
道自体は魔法を使えばすぐに平らになるし、石畳に関してはシルヴィやヴルに頼めばあっという間だ。
しかし、それをやると町の経済やギルドの運営などに大きく影響してしまう。
最悪、この街から出られなくなるだろう。
慎吾達としてもそれは勘弁してほしいと言った感じなので、動こうにも動けないのが現状だ。
そんな、世間話と言うには色々と規模の大きな話をしているとーー
「おうおう。こんな時のこんな場所に女連れて出歩くなんざ、危機感無さすぎだろ」
「そうだなぁ。それも、綺麗所を2人もだ。いつ襲われても、仕方ねぇってもんだよな」
ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべながら、前方から男達がやって来た。
人数は2人ーーいや、後ろから来た者達も含めると7人と言ったところか。
全員がバラバラな装備であるところを見るに、冒険者ギルドの一員なのだろう。
防衛戦の際の慎吾達の事を知らないことから、その後にこの町にやって来た連中だと思われた。
でなければ、地竜を1人で討伐したような人間相手に喧嘩を売りはしない。
「はぁ・・・。街の復興に尽力するのも良いけど、多少は足下の事も気にしろよな・・・」
「バラディスも、全てに目を向けるというのは無理な話なのだろう。まぁ、私達が囮にされたという可能性もあるが」
ため息をつきながら溢す慎吾に、エレイナも苦笑しながら返す。
防衛戦の結果の報告の為に中央に向かった町長に変わってこの街の復興を取り仕切っているバラディスのもとには、日々膨大な量の書類が届いているらしい。
1度屋敷のメイドが様子を見に行った際には、崩れた書類の山の下敷きになって大慌てしたという話だ。
「後で、バラディスに抗議しに行く?多分、色々とうやむやにされるのがオチだと思うけど」
「うーん・・・。こっちも色々と迷惑かけてる気もするし、面倒だから抗議は無しで良いかな」
少々物騒なミーリャの提案に、慎吾が少し考えて首を横に振った。
囮にされていることに何か思わないというわけではないが、この状況での抗議は両方にとって疲れるだけだ。
それに慎吾達も色々と便宜を図ってもらっているため、あまり強く抗議できないのだった。
「てめぇら、状況分かってんのか?」
「この人数を目の前にしてまだ余裕な態度とは、余程の馬鹿だな」
そんなことを考えていると、絡んできた冒険者達がいらつくようにそう言ってきた。
「ビランツァ防衛戦ってのを乗り越えて、どうも調子に乗ってるみてぇだな。せいぜい、数百匹のゴブリンが来たくれぇだろうによ」
「地竜が来たって噂を聞いたが、てめぇらみたいなひょろっちいのが生き残ってる時点で嘘だって言ってるようなもんだ」
最初に絡んできた2人の言葉に、後ろの者達も同調して笑い出す。
それに反応したのは、慎吾達に絡んできた者達を見ていた冒険者達だ。
防衛戦に死ぬ気で参加した身であるため、そのように言われるのは不本意なのだろう。
「ーーじゃあ、試してみるか?」
「あ?」
不意に小さく漏らした慎吾に、笑っていた者の1人が声を漏らす。
「本当に俺達が、ひょろっちいかどうかーー」
先程までとは打って変わった慎吾の雰囲気に、絡んできた者達が僅かに怯む。
「じ、上等じゃねえか!」
「こっちは7で、そっちは3だ。勝ち目なんざ、あると思うなよ!」
絡んできた者達は怯んだ事を隠すように、わめき散らす。
しかしーー
「ーー勘違いするなよ」
さっきより近くで慎吾の声が聞こえたかと思うと、1人が宙に飛んだ。
「てめぇらの相手なんざ、俺一人でお釣りが来る」
慎吾のその言葉を合図に始まったのは、一方的な蹂躙だった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
慎吾達が絡まれた時から10分後ーー
「変装魔法を教えて欲しい、だと?」
ビランツァのギルド長室に、バラディスの訝しげな声が響く。
今バラディスが相手をしているのは、慎吾達3人。
少し話があると言うことなので、時間を取って聞くことにしたのだ。
本来なら、事前連絡もなしにギルド長に会うことはできないのが当たり前だ。
慎吾達に関しては防衛戦の影の英雄と言うことで、黙認されている節もあるが。
部屋に入って来るなり開口一番に慎吾が言ったのが、変装魔法を教えて欲しいとの事だった。
「ああ、そうだ」
「別に、教えるくれぇなら問題ねぇが・・・。念のため、理由を教えてくれねえか?」
頷く慎吾に、バラディスは腕を組ながら続けて問う。
風や光などの属性にそれぞれ存在する変装魔法であるが、その実自分の上に幻影を被せるだけの簡単な魔法だ。
そのため、悪用されないようにわざと魔法の難易度を上げて初心者達には習得させないようにしている。
バラディスが慎吾達に変装魔法を教える理由を聞くのも、大方同じ理由だ。
とは言えほとんど形だけの質問で、バラディスとしては無条件で教えるのもやぶさかではないと思っているが。
「さっき、防衛戦の後にこの町に来た冒険者達に絡まれた」
「あぁ、知っている。他の者達にも被害が出ているから、できるだけ早く対処しようとは思っているがな・・・」
一見先程の質問と無関係ともいえる慎吾の話に、内心首をかしげながらバラディスは肩をすくめた。
最近の防衛戦からの復興に伴って外から来る冒険者達の質の悪さに、バラディスも頭を悩ませている最中なのだ。
防衛戦の事についての勝手な解釈はともかくとして、防衛戦参加者に対しての侮辱はギルドの不干渉の範囲を越えかねない事態である。
しかし普段ギルドに顔を出している時に問題を起こしている訳でもないので、干渉しにくいというのが正直な所だ。
人通りの少ないところへ連れ込んで暴行などの行為におよぶため、目撃者や証明できる物品が無いこともそれに拍車をかけている。
バラディスもある意味慎吾達に期待していた訳ではあるのだが、慎吾の話に馬鹿かあいつらはと内心辟易としていた。
「そいつらを片付けている最中に、ミーリャの帽子が取れちまってな」
「あぁ、獣人って事がバレたのか」
ため息をつきそうな雰囲気で続ける慎吾に、納得したようにバラディスが頷いた。
今もそうだが、この町に来る際はミーリャは獣人としての耳や尻尾が見えないような服装で来ている。
慎吾達と出会った経緯やヒューマニアズムという存在がある以上、あまり獣人ということを表に出すのは危険すぎるからだ。
もっとも、冒険者は獣人を下に見るものはほとんど居ない。
上級者になればなるほど、獣人の肉体的優位に気づくからだ。
「それで、いっそのこと変装魔法を使えばバレる危険性も減るかと思ったんだ」
「まぁ、魔法を解除しない限りはバレることはほとんどねぇだろうな」
肩をすくめながら続きを言う慎吾に、バラディスも頷いた。
少なくとも、帽子で耳を隠すよりはバレる危険は少ないだろう。
もっとも、ある程度の人間にはという注釈は付くのだが。
少なくとも獣人であることを隠して過ごしていた今までの生活よりは、幾分マシにはなるだろう。
「けどよ、なんで俺なんだ?お前らの世界の魔法を教えても、大丈夫なんじゃ」
「まぁ、そうしたいのは山々なんだが・・・。あまり、他の世界の魔法を持ち込むのもどうかと思ってな」
改めて浮かんだ疑問を口にするバラディスに、慎吾も少し考えながら答えた。
そもそも、普通なら異世界の魔法は使うことができないはずなのだ。
魔法に関する理論などが異なるため、当然と言えば当然の事ではある。
慎吾達が使うことのできる理由はバラディスには分からないが、訳のわからないものを人に教える事のマズさはよく知っている。
ましてや、仲間のミーリャに教えるのを躊躇うのは普通だろう。
「ま、そう言うことなら別に構わないぞ。とは言っても、習得までそれなりに時間がかかるが」
「時間に関しては、あまり気にしてない。教えてくれれば、大丈夫だ」
請け負いながらも少々後ろ向きな答えを返すバラディスに、慎吾は気負うことなく頷いた。
と言う訳で変装魔法を覚えることが決まったミーリャは、バラディスに付いてギルド長室の隣の部屋へ移った。
善は急げと言うことで、早速習得することになったのだ。
慎吾達がミーリャに付いていないのは、特に理由があるわけではない。
単純に、使わない者が見ても意味がないと誰もが思ったからだ。
ちなみに習得するのに一週間はかかると言われている変装魔法だが、ミーリャはその日の内に習得を完了した。
習得に必要だった時間は、およそ三時間程度。
これは、慎吾達との訓練で魔法と言うものに深く触れたからだと思われる。
もしも慎吾達と出会ってすぐに変装魔法の習得に入っても、ここまでの早期習得は不可能だっただろう。




