地竜の進撃と精霊拳帝シンゴ
8月14日 本文中に追加の記述をしました。ストーリー全体としては、変更はありません。
「よう、どんな感じだ?」
紅に染まる壁の内側で他の冒険者達と同じように戦闘に参加していたエレイナと勝間、海香の元に、先程驚愕の魔法によって魔物の半数近くを葬り去った本人がやって来た。
ちなみに周辺に他の冒険者が居る戦場で暗殺を実行する馬鹿も居ないだろうと、結局勝間達もこの場に出ているのだ。
いざとなれば周りの冒険者全員で拘束すると、バラディスが説得した。
彼としても、慎吾やエレイナといった戦力を出さない訳にはいかなかったのだろう。
今回の参戦は、そのバラディスの熱意に二人が折れた形だ。
「どうもこうも、見ての通りだ」
まるで風呂の湯加減を聞くかのような軽さの慎吾の質問に、エレイナは苦笑しながら前を見る。
エレイナ達は現在、防衛陣の後方で遠距離による援護を行っていた。
エレイナ達の近くには、同じように魔法や弓矢による援護を行う者達が集まっている。
対魔法術式による抵抗のせいで魔法があまりに効果を成さないため、ほとんどの冒険者が弓矢を使っている。
対魔法術式を破ることのできる魔法を使えるものが、少ないからだ。
エレイナから見れば、戦況は冒険者達が押しているように見える。
その大きな要因は、先程慎吾が使った二つの魔法だろう。
最初の魔法によってほとんどの魔物が少なくないダメージを負い、炎の障壁を越える頃にはかなり消耗しているのだ。
障壁を越えられない魔物も多く、冒険者は一匹相手に複数人で対処することができている。
結果として、戦闘が始まって十数分経った今でも死者はおろか重傷者も一人として出ていない。
もっとも、まぐれ当たり等で細かい傷を負っている者は多いのだが。
「そうか。そりゃ、良かった」
「そんなことよりシンゴ、いつもより守りを徹底しているな?」
エレイナは慎吾の作り出した障壁を見上げながら、いつもと違う彼の行いに首を傾げた。
最初の大規模殲滅魔法はともかく目の前に張られている障壁は侵入防止用の物で、どちらかと言えば守りの魔法である。
防御魔法の苦手な慎吾にしては珍しい魔法を使うものだと、エレイナは不思議に思ったのだ。
「ああ。バラディスのおっさんに、守りを重視するように言われたからな。それに・・・」
そこまで言って勝間と海香の方へ視線を向ける慎吾に、エレイナは合点がいったように頷く。
「・・・ああ。同郷の者に、気を使ったか」
「そんなんじゃねぇよ。ただ、初の魔物との戦闘で誰かが死ぬのを見るのはキツい
からな。俺達が元の世界で住んでた所は戦争が無かったから、尚更だ」
そう言った慎吾の瞳に、一瞬暗い影がよぎる。
エレイナはそれが気になったが、すぐに慎吾が魔物の方を向いたため聞く機会を逃してしまった。
「さてと。それじゃ、俺も頑張りますかね!」
無理矢理といった感じで話題を変えた慎吾は、両手の指を鳴らした。
乾いた音が鳴ると同時に、慎吾の目の前に巨大な魔方陣が出現。
急に出現した魔方陣に周りの冒険者達が驚くのを気にもせず、慎吾が小さく呟く。
「〈ストーム・アロー〉〈ホーミング・エンチャウント〉、発動」
次の瞬間、魔方陣から無数の細長い風の矢が飛び出す。
斜め上方に打ち出されたそれらは、不可解な曲線を描きながら一つ残らず障壁を突破したばかりの魔物達に突き刺さった。
しかしさすがは耐久力に自信のある魔物で、弱っているとは言っても細い風の矢程度では倒れない。
それ見たことかというような目で見てくる周りに、慎吾は強気に笑って見せた。
「リリース」
慎吾が続けて呟くと、魔物達に突き刺さっている矢に押し込められた力が一斉に開放される。
魔物を中心に小さな竜巻が発生したかと思うと、それが消えた時には魔物の姿は跡形も無かった。
そこに魔物が居たことを証明できるのは、わずかに地面に飛んだ血とぼろきれだけだ。
「なに・・・あれ・・・」
頬をひきつらせながら、海香が言う。
他の冒険者達に至っては、目の前の現象が理解できずに呆然としていた。
それも、そうだろう。
自分達の渾身の魔法で小さな傷しか付けられない程の対魔術式を施された魔物を、片手間で発動したかのような魔法で跡形も無く吹き飛ばしたのだから。
その姿を慎吾と初めて会った時の自分と重ねつつ、エレイナは援護を再開する。
エレイナの姿に自分達の役割を思い出した他の冒険者達も、魔物への攻撃を再開した。
もともと冒険者達が押していた戦いは、慎吾が参加したことにより一層こちらの有利に傾く。
慎吾の魔法によって、一度に何十というの数の魔物が倒せるからだ。
やがて、魔物の数が百匹を切ったとの報告が回ってきた。
冒険者達の顔に、町を守りきれる事への安堵の色が浮かぶ。
その時、全てをひっくり返すかのような震動が冒険者達を襲う。
突然の事態に、冒険者達の統率が乱れる。
「・・・やっと、本命が来たか」
冒険者達が浮き足たつ中で、慎吾は小さく呟きながら前を見据える。
慎吾の目線を追った先にあったのは、紅の障壁に浮かぶ影であった。
優に五メートルを越える影が徐々に濃くなっていくと、「ソレ」が障壁の向こうから姿を現した。
最初に現れたのは、黒曜石を削ったかのように黒く鋭い角。
続いて出てきた口には無数の鋭い牙が並び、隙間からチロチロと炎が吹き出している。
眼は赤く輝き、踏み出した足はさながら天からの楔のようだ。
全身は鎧のような鱗で覆われ、背中には亀のような甲羅が背負われていた。
「ち、地竜だ!」
前衛の誰かが叫ぶと、その混乱が冒険者達に伝播する。
地竜は天に向けて雄叫びを上げると、まっすぐに町へと進んできた。
万単位の軍隊で相手をするような魔物を相手に、一刻も早くその場から離れようと冒険者達が逃げ出す。
「落ち着け!」
右に左にと逃げ回る冒険者達に、後方から鋭い叱責が飛んだ。
町の城壁の上で全体指揮を執っている、バラディスである。
「全員、左右に散開!地竜と一緒に入ってきた魔物共を討て!」
バラディスの指揮によって落ち着いた冒険者達は、指示通りに地竜の開けた穴から入る魔物達を討っていく。
「さてと、俺の出番か・・・」
いつのまにやら、エレイナの横に慎吾が立っていた。
「行くのか?」
「ああ」
エレイナの確認に、慎吾が頷く。
その目は、一種の覚悟に彩られていた。
「もう、他人事じゃねぇからな」
「そうか」
そう言うと慎吾は一人、地竜の元へと人間離れした速さで走って行く。
途中、慎吾の全身が光に包まれて慎吾の着ている服が変わったのが見えた。
「ね、ねぇ。鶴城くん、大丈夫なの?」
「あ、ああ。エレイナさんも、行った方が・・・」
慎吾の突然の行動に、勝間と海香が心配そうにエレイナを見てくる。
周りの冒険者達も言葉には出さないが、慎吾の行動を無謀な突撃だと思っているようだ。
そう思うのも、無理はない。
普通なら、人間一人など一瞬で潰されて終わりなのだ。
そう、普通ならば。
「心配ない」
エレイナはその様子に軽く笑うと、顎で前を示しながら言った。
それにつられて他の者が前に目線を向けたときに映ったのはーー
「アイツは私の世界で、『精霊拳帝』などと言われていたからな。遠距離戦ならともかく、接近戦でアイツに勝てるやつなど居ないだろう」
何かに吹き飛ばされたかのように宙を舞う地竜とそれを追いかける小さな影という、普通では信じられないような光景であった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ほいさっ」
地竜の元へ駆け寄った慎吾は、右手に魔力を集中させて飛び上がるように顎を打ち抜いた。
砕けた牙の破片を撒き散らしながら、地竜の足が地面から離れる。
障壁の外へ放物線を描きながら吹き飛んで行く地竜を、慎吾は風を纏って追っていく。
その身に着ているのは、さっきまでの魔法使い然としたローブではなかった。
白地に黒のラインが縦横無尽に走ったタンクトップと、黒地に白のラインの入ったズボンである。
さらに両手には、うっすらと魔力を纏った灰色の手甲がはまっていた。
地竜と慎吾はそのまま紅の障壁を越え、その外へと出ていく。
障壁から少し離れた所で慎吾は追う速さを増して、地竜の背中へと近付いた。
「そろそろ・・・落ちろ!」
そのまま背中を殴り付けると、地竜は抵抗なく地面へと激突した。
そこには地竜が障壁に侵入した時の穴があり、そこから中へ入ろうとする魔物達を地竜が押し潰す形になる。
軽くふらつきながらも地竜が立ち上がると、その目の前に慎吾が着地した。
自分より遥かに小さな存在である慎吾に良いように遊ばれた地竜は、怒りの咆哮を上げて慎吾へと迫る。
「今まではお前に敵う奴が居なくて、お前がこの群れの長かも知れない。けどーー」
地竜の突き出した黒い角を片手で受けとめ、慎吾はニヤリと笑う。
「悪いな、俺の方が強い」
そのままひょいと手を突き出すと、抗うことのできない力に地竜が吹き飛んだ。
「あの町には、俺の守りたい奴等が居るんだ」
その格好のまま、慎吾は魔力を開放した。
「だから、お前はここで倒させてもらう」
これまで感じたことのない力の奔流に、地竜は本能的な恐怖を覚えた。
明らかに自分より強い力に、思わず後ずさる。
今まで自分より強いものがいなかったので、その反応も当然だろう。
「心配ない、一気に決めてやる」
そのまま慎吾は、右手を右方向に突き出す。
手の先に魔方陣が現れると、そこから緑色に染まった風が吹き出した。
「〈フィジカルエンチャウント・エアロ〉」
自分の体にまとわりつく風を感じながら、慎吾は小さく言葉を紡いだ。
魔方陣から吹き出す風が強まり、慎吾の体を包み込む。
慎吾を覆い隠すようなそれは、さながら何かが孵る前の繭のようだ。
やがて魔方陣が消え、慎吾を包んだ風が消える。
そこに居たのは、先程までとは雰囲気の違う慎吾であった。
着ている服のラインが緑色に染まり、太陽の光を金属のように反射する。
灰色だった手甲はエメラルドを削ったかのような物になり、全身に風を纏っていた。
さっきまでとはうって変わった慎吾の姿に、地竜はヤケクソ気味に口を開く。
口の前に赤々と輝く魔方陣が現れ、紅蓮の炎が迸った。
人間に当たれば骨も残らないような炎の塊を前に、慎吾は腰を少し落として右手を腰の横へ構える。
全身を覆っていた風が右手に集中し、手甲が強く光を放つ。
「《風破衝》」
小さな呟きと共に、慎吾は炎を殴り付けるように右手を突き出す。
手甲から渦巻く風が吹き出し、炎とぶつかる。
一瞬の均衡もなく、風が炎を突き破って地竜へと襲いかかった。
風は開いたら口から地竜の体内へと入り込み、内部を蹂躙する。
血飛沫と共に、地竜の鱗を食い破って風の刃が体外へと飛び出した。
敵の最高戦力が力尽きて地に倒れるのを見て、慎吾は町の方へと踵を返した。
慎吾が地竜を倒したのが町からも見えたのか、防衛戦は冒険者の方が押し返す形になっている。
この分では、すぐに冒険者の勝利で防衛戦が収束するだろう。
やがて最後の魔物が冒険者に倒され、冒険者の勝利で防衛戦は終了した。
「ん?」
(誰かに見られてるか?)
障壁を消して皆の元へ帰る慎吾は、背中に突き刺さる違和感を感じて背後を見た。
しかしそこには澄み渡った空が広がるだけで、人はおろか動物の一匹すら見当たらない。
「まあ、良いか」
苦笑いする慎吾に、町の方から声が飛ぶ。
そちらを向くと、エレイナと勝間、海香が慎吾の方へと向かって来ていた。
町と大切な人達を守れた喜びを改めて噛み締めながら、慎吾は仲間達の元へと帰る。
(黒幕が居たとしても、殴り飛ばしてやるさ)
海香「鶴城くんって、シルヴィちゃんが居なくても魔法使えたんだね」
慎吾「弱い魔法だけならな。あまりに強いのは俺だけじゃ無理だ」
勝間「あの威力で弱いって…」
慎「そりゃ、結構数を当てたからな。一発の威力はそれほどって感じだ。その分コントロールが楽だから、二種類同時展開もできるけどな」
海「地竜を倒したあれは?」
慎「手甲にシルヴィが宿ってるから、問題ない」
勝「精霊拳帝って、何?」
慎「それは…疲れたから、シルヴィ、ヴル。あと、頼んだ」
シルヴィ・ヴル「え?シ、シンゴ!?」
なんか凄い手抜き感漂ってますが、気にしないでもらえると有り難いです。
さて、次話は戦後ののんびりめな話です。
そろそろリーンヘイムの話も少し入れたいかなとは思ってますが、いつに入れるかは決めてないです。今のところ、かなり先です。
では、また次話。




