開戦の狼煙と紅の防壁
8月14日 本文中に追加の記述をしました。ストーリー全体としては、変更はありません。
斥候によって、ビランツァに進行中の魔物の大群が確認されてから二日。
バラディスは周辺の町への連絡と、依頼に出ている冒険者の強制招集に明け暮れた。その甲斐もあって、ビランツァの町には五百人程の冒険者達が居た。
当然、ビランツァのギルドの前にはその冒険者達でひしめき合っている。
バラディスがギルド前に設置された壇をの上に乗ると、今まで騒がしかったのが一気に静まる。
それを確認してから、バラディスは声を張り上げた。
「命知らずで戦好きの馬鹿野郎共、よく集まってくれた!物見からの連絡では、そろそろ魔物達がここに来るらしい!各自、装備の点検等を忘れねぇように!」
バラディスの言葉に、冒険者達から雄叫びが上がる。
「今回は数が多いので、先に大規模魔法を1発打ち込む!不必要に突撃をしないように!巻き込まれても、知らねぇぞ!」
そう言って、バラディスは壇を降りる。
冒険者達はそれぞれで固まって、装備の最終点検を行っている。
それを見て、北の方へ顔を向ける。
「・・・頼んだぞ、シンゴ。お前が成功するかどうかで、この戦いの行方が決まる」
こそっと呟いた声は風にのって、だれにも聞こえないまま消えていった。
そのころ、慎吾は平原の西側にある丘の上にいた。
目の前には歩みを進める魔物達と、防壁の中から出て隊列を組んでいる冒険者達が見えた。
「シンゴ、そろそろ時間だよ?」
「ああ、分かってる」
シルヴィの声に、慎吾は気を引き締める。
慎吾の隣に、シルヴィが飛んできた。
ヴルには別の役割を頼んでおり、ここには居ない。
今頃、慎吾に愚痴りながらビランツァの町を走り回っているだろう。
「・・・っし、始めるか」
一言漏らして、魔力を解放する。
両手を前に出し、その先に浮かぶシルヴィに魔力を送る。
これから使う魔法は1発の消費魔力は少ないが、魔物を全部範囲に収めるのに複数を展開しなければならない。
結果として、今シルヴィに送った魔力はリーンヘイムで魔王と戦った時の《焔の大嵐》と遜色ない程になっている。
魔力を全てシルヴィに渡し終わると、シルヴィが手を前に出した。
その先に、緑に輝く魔方陣が現れる。
それと同時に、魔物の大群の近くの地面に魔方陣が描かれた。
ただし、一つではなく大群を囲むように合計四つが展開される。
「「風よ。天を貫く一筋の渦となりて、その刃であまねく敵を切り刻め」」
シルヴィと慎吾が、同時に言葉を紡ぐ。
「「〈裂風の輪刃四重展開〉!」」
慎吾達の詠唱が終わると同時に、魔物達の周りの魔方陣から風が吹く。
やがてそれは速度を増しながら渦を巻き、やがて四つの竜巻が魔物達を取り囲んだ。
もちろん、ただの竜巻ではない。
竜巻の中には、〈エアロスラスト〉のような風の刃が舞っている。
竜巻は周りの物を巻き込みながら大きくなり、ついに竜巻と大群の外側に居る魔物とが接触する。
「ん?」
それを見て、慎吾が眉をひそめる。
「・・・慎吾、気付いた?」
「ああ。あいつら、対魔術式を施されてるな」
同じような顔をするシルヴィに、慎吾は頷き返した。
僅かだが、竜巻に魔物が耐ていた。
魔法に抵抗できる術式を、体に施されているのだろう。
「どうする?このまま、進める?」
「いや、このままだとオーガ達に突破されるかもしれない」
そう言って、慎吾は再びシルヴィに魔力を送る。
ついでに、竜巻のコントロールのイメージもシルヴィへ送った。
再び竜巻を産み出した魔方陣が輝き、竜巻の規模が大きくなる。
しかし、シルヴィの操作によってその形を変化していった。
徐々に竜巻の幅が狭くなり、細い竜巻に変化する。
威力の増強と回転半径の縮小によって竜巻の回転速度が増し、付近に放電現象が発生した。
「もう少し威力を増したいが、町の人達に被害が出そうだな」
「うん。これ以上はやめといた方が良いよ」
慎吾の言葉に、シルヴィも頷く。
できる限り周りへの影響を小さくしてはいるが、規模が規模だけに完全に被害無しとはいかないのだ。
事実、今も竜巻の余剰なの風で冒険者達は吹き飛ばさせそうになっている者も居る。
シルヴィの声に頷き、慎吾はシルヴィに伸ばしていた右腕を上に曲げる。
状態で手首をクイッとひねると、シルヴィも同じような動作をする。
その動作によって、竜巻がぐるぐると魔物達の周りを周回する。
続いて、その手を握りこむ。
四つの竜巻が螺旋を描きながら中央に合流し、一つの巨大な竜巻に変化した。
「こんなもんか?」
「三百くらいかな?予定よりかなり少ないね」
慎吾の言葉に、シルヴィは不服そうに返した。
当初の予定では五百前後は倒す予定だったのだが、それよりも少なくて機嫌が悪いのだろう。
一連の動作を終えて力を抜くと魔法の効果が切れ、竜巻が徐々に消える。
竜巻の勢いが弱まるにつれて上空に飛ばされていた魔物だったものや岩が落下する。
先程の魔法でゴブリン等の弱い魔物は粗方倒したが、オーガやウェアウルフ等の耐久力のある魔物は耐えきったようだ。
追加分も含めておよそ六発分程度は魔力を込めたのだが、対魔法術式が予想以上に強固だったらしい。
「ま、取り敢えずは終わったな。町に帰って、次はヴルの方だ」
そういって、シルヴィを肩に乗せる。
慎吾の体を風が包み、浮かび上がらせた。
そのまま上空へ飛び、ビランツァへと向かう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ビランツァの町を取り囲む塀の上に立っていたバラディスは、目の前で起こった光景に言葉を詰まらせていた。
町の北側の平原から少し東に行った丘で急に魔力が爆発したかと思えば、魔物達の大群を囲むように竜巻が発生。
魔物を吹き飛ばしながら形を変化し、最後には巨大な一つの竜巻となる。
いくら異界の魔法とは言え、無茶が過ぎると言うものだ。
魔法を使用した本人が『確実に百匹は倒すが、細かい制御は出来ない』と言ったのも、仕方がないだろう。
むしろ、あれだけの事をやっておいて街や冒険者達に直接被害がないことにバラディスは驚く。
そんな事を考えていると、視界の端に空を飛ぶ慎吾を見つける。
やがてバラディスの近くに降りて、体に纏った風を解いた。
「あれだけの魔法を使っといて、まだ空を飛ぶだけの余力があるのか・・・」
「見た目は派手だったが、実際はあまり魔力を使う魔法じゃないからな」
呆れ半分のバラディスに、慎吾が肩をすくめた。
慎吾は何ともないようにしているが、実際のところ先ほどのウィンドサイクロン1発でこの世界の一流魔法使いおよそ10人分の魔力を使っている。
後からそのことを聞いたバラディスは、慎吾のもつ魔力の多さに呆れ返ることになる。
「そんな事より、少し厄介な事が分かった」
「このタイミングで、か?」
慎吾の言葉に、バラディスの顔が険しくなる。
「魔法を使ったときに、少し抵抗された感触があった。多分、対魔法術式が施されてる」
「・・・お前、よくそんな奴をあれだけの数倒したな」
何気ないように慎吾は言ったが、その事実にバラディスは顔をひきつらせる。
通常、対魔法術式の施された魔物を魔法で倒すのには、物理攻撃で術式を直接破壊する必要がある。
しかし、慎吾は術式の許容力を越えた魔法を使うことで魔物を倒したのだと言う。
はっきり言って、まともな人間のやることではない。
「とにかく、遠距離からの魔法攻撃は意味が無いな」
「俺みたいに力押しの魔法を連発できるなら、話は別だが?」
頭を掻きながら話すバラディスに、慎吾は肩を竦めながら返した。
「そんな奴がゾロゾロ居たら、わざわざ異世界から勇者を召喚したりしねぇよ」
「まあ、そうだろうな」
慎吾と軽いやり取りをしてから、近くの職員に冒険者達への指示を伝える。
相手の情報が少なすぎるため、いつでも作戦の変更が通達できるように待機させているのだ。
近づかれる前に魔法で数を減らそうと前に出ていた魔法使いの冒険者達が、剣を装備した冒険者達の後ろに下がる。
代わりに、弓を持った冒険者達が前に出ていた。
それを見ていると、慎吾の近くに掌サイズの少年が近づいてきた。
事前の顔合わせで聞いた、慎吾の仲間の精霊だ。
「お疲れ、ヴル」
「まったく。俺が防護陣の構成が苦手なの、知ってるだろ?」
慎吾の労いに、ヴルと呼ばれた精霊が愚痴を漏らす。
どうやら、慎吾とは別行動をしていたようだ。
「まだ、何かやるつもりか?」
「まぁ、少しな」
バラディスの質問に、慎吾が口許を吊り上げた。
次の瞬間、慎吾の纏う魔力が増大する。
「・・・っ」
「あ、悪い。ちょっと、我慢しといてくれ」
急な魔力の変化に付いていけずに思わず声を詰めるバラディスに、慎吾は頭を掻きながら謝罪する。
そのまま、慎吾は両手を精霊に向けて伸ばした。
慎吾の纏う魔力が、精霊に移動する。
ある程度移動すると、精霊の下の地面に魔方陣が出現した。
それと同時に、ビランツァの町が光に包まれた。
よく見ると、赤く輝く線が縦横無尽に町をはしっている。
線の集まりの外縁は町の塀の外側で、冒険者達も内側に居た。
「でかいな・・・。魔方陣か?」
「そう、正解。町全体を囲うように展開してる」
バラディスの言葉に答えて、慎吾は精霊と共に言葉を紡いだ。
「「炎よ。全てを包む慈悲の城塞となりて、あまねく敵より内なる者を守護せよ」」
力強い慎吾と精霊の言葉に、魔方陣が一層強く光を放つ。
「「〈炎壁の庇護〉!」」
最後に高らかと二人が叫ぶと、魔方陣の外縁から一斉に炎が吹き出した。
薄い壁のような炎はドームのように町を囲い、頂上で合流する。
「よし、これで大丈夫だ。おっさん、冒険者達にこの陣の外にでないように伝えてくれ」
「あ、ああ。分かった」
目の前で展開された美しくも力強い光景に放心状態だったバラディスは、慎吾の言葉に我に帰る。
慌てて指示を出すバラディスを尻目に、慎吾は魔物達を見ながら口許を歪ませた。
「準備は整った。さあ、徹底的に守り抜くぞ」
そうして、『ビランツァ防衛戦』と呼ばれる戦いの幕が上がった。
海香「そう言えば、慎吾の魔法の展開数ってどうやって決めてんの?」
慎吾「魔力を送るときに魔法のイメージも送って、それによって数が決まるな」
シルヴィ「あとは、詠唱の時に何重展開って宣言したら、発動するよ」
ヴル「ちなみに、慎吾は『七重展開』まで使えるな」
海「へえ、そうなんだ」
エレイナ「私も、初めて知ったな」
慎「あまり人に言いふらす物でも無いしな」
ティル「もしかして、私達が言いふらしたら呪われたりとか…」
慎「あ、それは大丈夫」
海「じゃあ、言いふらそうかな~」
慎「シルヴィ、海香にだけ付けといてくれ」
海「じ、冗談だって!」
それほど、戦闘って感じじゃなかったですかね。
地味に無双はしてましたが。
さて、次話はエレイナさんと勇者達の話になると思います。
では、また次話。




