プロローグ
8月12日 本文中に追加の記述をしました。ストーリー全体としては、変更はありません。
自分の身長の3倍以上はあるのではないかというような巨大な扉を前に、鶴城慎吾は思わず唾を飲む。
「流石は魔王・・・。ってか、こんな扉どうやって作ったんだよ・・・」
「シンゴ、なんか論点が違うような気がするよ?」
その肩の辺りから、少々舌ったらずな声がする。
目線を向けると、そこには掌サイズの少女が座っていた。
風の最上位精霊であり、慎吾の契約精霊のシルヴェストルである。
「人の独り言にいちいち反応しなくても良いよ、シルヴィ・・・」
「そうだぜ、シルヴィ。コイツの言うことにいちいち反応してたら、こっちの身が持たねぇや」
シルヴィの言葉に困っていると、今度は頭の上から声がする。
シルヴィのものと違い、活発そうな少年の声だ。
髪に隠れて見えにくいが、シルヴィと同じくらいのサイズの少年が頭に座っている。
同じく慎吾の契約精霊で、火の最上位精霊のヴルカンだ。
「ヴル、頼むから人の頭に乗るな・・・」
それにしても、と慎吾は目の前の扉を見上げながら呟く。
「シルヴィもヴルも、魔王の間の前だってのに緊張感無ぇよな」
「・・・お前にだけは、言われたくないと思うぞ」
独り言のように漏らした慎吾の言葉に、返答があった。
呆れかえったかのようなその声に、後ろを振り返る。
慎吾の立っている場所に向かう階段を上がって来たのは、赤い髪の少女であった。
エレイナ・フォン・ティアルという名で、この世界で勇者と呼ばれている。
身長は慎吾より少し低いくらいで、歳は慎吾と同じ19だ。
「よう、エリー。早かったな」
「私よりも先に来て、何をいうか・・・。あとーー」
と、エレイナは慎吾の前まで詰め寄ってくる。
本人は特に気にしていないのだろうが、十人いれば九人は美しいと言うであろう容姿のエレイナである。
最初の頃は、そのようにして迫られる度にドキドキしたものだ。
「その渾名は止めてくれと、何度も言ってるだろ」
「じゃあ、なんて呼べば良いんだよ?」
「他の皆と同じく、エレイナで良いだろう?」
「長いから嫌だ」
未だに名前で呼ぶのは恥ずかしいからというのは、さすがに言えない。
「じゃあ、ティアってのはどうだ?」
「下の名前を省略して呼ぶな!!」
「まあまあ、痴話喧嘩はそこまでにしようよ」
もう何度目になるかという言い合いをしていると、人を馬鹿にしたような声が響く。
慎吾とエレイナは周りを見渡すが、2人以外に人影はない。
「・・・姿を消して近づいて来るな、レフィール。殴るぞ」
「見えてないのに、どうやって殴るのさ?」
半目になる慎吾が言うと、今にも笑いそうに声が応じる。
「・・・シルヴィ、俺とエレイナが立ってる所以外の場所に『風塊の鎚』ぶっぱなせ」
「がってん!」
「ちょ、ちょっと待って!」
少しイラついたように慎吾がシルヴィに指示を出すと、慌てたような声と同時に右前の少し離れた場所に12、3くらいの見た目の少年の姿が現れる。
一緒に冒険している悪戯好きな弓使い、レフィール・アルセスだ。
エルフと人間とのハーフで、こんな見た目でも22歳だという。
「チェッ、ここの門番のゴーレムと同じ目に遭わせてやろうと思ったのに・・・」
「確か、一発で粉々に砕け散ってたよね!?」
「大丈夫だ、あの時よりも範囲重視でいくから。精々、全身を骨折するくらいで済むよ」
「それでも十分、致命傷だよね!?決戦の前に、怪我させないでよね!?」
「本当ですよ、シンゴ。その致命傷を直すのは、私なんですからね?」
これまた何度も繰り返してきたやりとりをしていると、階段の方から落ち着いた声が届いた。
やがて、白のローブに身を包んだ女性が上がってくる。
一緒に冒険をしている最後の1人、魔術師のリーシャ・シャーレグ。
身長はエレイナより少し低いくらいで、透けるような肌の女性だ。
レフィールと同じくらいの歳かと思っているが、本人には怖くて聞けない。
「冗談って分かって言ってるよな、リーシャ姐さん?」
「さぁ、どうでしょう?」
半目になって問い質す慎吾の言葉を軽く流し、リーシャは少し笑った。
ここに来るまでも何度もやった、気軽な会話。
他の誰が見ても、敵の本拠地でやるものではないだろう。
「とにかく、これで全員揃ったな。」
ふざけるのはこれで終わりとでも言うようなエレイナの声に、慎吾達は気を改める。
「では、世界平和のために魔王を倒すとするか」
「そうだな」
「りょーかい」
「参りましょう」
敵の総大将を倒しに行くというのに些か気の抜けたやり取りをしながら、慎吾達は目の前の扉を開けた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ーーそれから数十分後
牽制用に放っておいた魔法の起動を確認し、慎吾はそれまで止めていた息を吐き出した。
そこで汗をかいていた事に気付き、服の袖で拭う。
それから、周りを見渡す。
リーシャは少し後ろで、青い顔をしながら魔力回復のポーションを飲んでいる。
魔力が全快になるまで、動くことは難しいだろう。
レフィールは姿が見えないが、恐らく回避された矢を回収していることだろう。
無限に矢が補充される矢筒は魔王の攻撃によって破壊されてしまい、事前にかけていた必中の付与も切れてしまったようである。
そちらも、しばらくは動けないだろう。
エレイナはと魔王の方へ目線を向けて、慎吾はそこに光を纏う戦乙女を見た。
「ハァァッッ!」
白銀の金属鎧〈不落の神鎧〉を身に纏い光を纏う直剣〈天光の宝剣〉を持ったエレイナは、幾らも戦意を減することなく魔王へと走り込んでいく。
『カァ!』
魔王の口から幾つもの火球が産み出されエレイナへと飛来するが、1つとしてその身を焼くものは無い。
「セィヤァァッッッ!」
上段からの一閃
『ガ、グ、ギャァァァァァ!』
光輝く剣に切り刻まれ、魔王はその口から叫びを漏らす。
破邪の性質を持つエレイナの攻撃は、魔王に対しても十分に効いているようだ。
これなら、大技の準備をする時間も十分あるだろう。
慎吾は両手を前に突き出し、二人の相棒に呼び掛ける。
「シルヴィ、ヴル、いくぜ!」
「待ってたよ、シンゴ!」
「デカイのぶっぱなすぞ!!」
その掌の前にシルヴィとヴルが現れるのを確認して、慎吾は魔力を全開にした。
ズンッ!
周りの者は、いきなり慎吾からの圧力が数倍にも増したかのように感じるだろう。
本来なら余剰分の魔力が具現化し光の帯が立ち上がるが、完全に制御しているためそれは起こらない。
慎吾は体内で念入りに練り上げた魔力を、両手を通してシルヴィとヴルへ送る。
「エリー、レフィール、避けろ!巻き添え喰らうぞ!」
十分な魔力が送られたのを確認して、慎吾はエレイナとレフィールへ注意を促す。
言わなければ避けられないような2人ではないが、言い忘れて仲間に当てては目も当てられない。
2人が魔法の範囲から離れる気配を感じて、魔術発動の起言をシルヴィとヴルと共に唱える。
「「「舞い上がれ!!万物を焼き尽くす紅の風、『焔の大嵐』!」」」
魔王の足下に深緑と真紅に輝く魔方陣が現れ、炎を纏った竜巻が立ち上る。
2人の最上位精霊と契約した慎吾だけに扱えるオリジナルの魔法で、1発で海竜を丸焼きにした強力かつ凶悪な代物だ。
『ギャァァァッッッ』
魔王の叫びを呑み込んで、紅の竜巻は更に燃え盛る。
およそ20秒間で消えた竜巻の後に、魔王の黒い影が現れる。
「ゲ、4発分の魔力を込めたのにほとんど無傷かよ・・・」
魔王は全身からプスプスと煙を発しあちこちが焼けているが、それ以外にダメージはない。
「まあ、足止めになっただけまだマシかな・・・」
そういって、前方で剣を構えて力を溜める少女を見る。
「お膳立てはしてやったんだ!エリー、ヘマすんじゃねぇぞ!」
「分かっている!」
エレイナは光輝く剣を正面に構え、魔王の頭上へと飛んだ。
「悪の輩よ、今闇へと帰れ!」
流星の様に煌めく斬撃が魔王の身体を疾る。
瞬爛流星九十九閃。
世界の邪悪を討つためにエレイナが会得した、今まで失われていた破邪顕正の秘剣だ。
叫び声を発する事もできないまま、魔王は地へ倒れた。
警戒を解かないまま様子を見るが、魔王が立ち上がる気配はない。
「やった・・・みたいだな・・・」
そう言いながら、慎吾は地面へ尻をつく。
エレイナは剣を鞘に納めて、満足げに仲間達の方へ戻って来ている。
と、その時。
カッッ!
エレイナの足元に白く輝く魔方陣が現れ、エレイナが光りに包まれる。
「え?」
「なっ!」
(くそっ!魔王の罠があったのか!?)
自分の不注意に憤りながらも慎吾は慌てて立ち上がり、エレイナへと走り寄る。
その間にもエレイナを包む光は強まり、目を開けているのも辛いほどになる。
「エレイナっ!」
嫌な予感がして、エレイナを呼びながらその手を掴んだ。
次の瞬間、慎吾とエレイナを一層強い光が包みこむ。
(そう言えば、エレイナって呼んだのこれが初めてかもな・・・)
そんな場違いな事を思いながら、その意識は光の中へと消えていく。
その光が収まったとき、2人の姿はそこには無かった。
魔王「ワシ、ほとんど何もしていないのだが・・・」
慎吾「火ぃ吹いて、叫んで終わりだものな・・・」
エレイナ「悪とは、そういう物だ。」
レフィール「じゃあ、僕も悪役ってこと!?」
慎・エ「え?違ったのか?」
レ「せめて、否定ぐらいしてよ!」
と言う訳で、始まりました。
プロローグとなる今回は、主人公が二つ目の異世界に飛ばされる前の話です。
次回から、主人公の異世界無双(?)が始まります。
では、また次回。




