拝啓 お父様。 ふたたび
むすめ、吹っ切るの巻
少し区切りがついた気がします。短めですが、切りがいいので次回に持ち越します。
巫女が死んだと知らされてから、一週間ほどたった。時間感覚が曖昧なのには目をつぶって欲しい。この部屋は日が暮れないから。
巫女が死んで、とうさまはお役目から外れたはずだ。しかしわたしたちのもとに姿を表さない。よほど巫女の死に対してショックを受けたのか、かあさまが恐ろしいのか。
私としては前者であって欲しい。普段ほとんど感情の揺れを表に出さないかあさまが、巫女の最期を話すときにはあんなに悲しげにみえたのだ。どうやらかあさまとも亡くなった巫女は繋がりがあったらしい。わたしたち兄妹は面識がないからなんとも言えないが。
けれど今まで寂しげなそぶりを見せたことのないかあさまがああなのだから、へたれらしいとうさまには、更につらいものだったはずである。
巫女の死から、わたしたちの間にはどこか暗く、重い空気が蔓延している。あにさまも、空気を読んでいつになく静かにしている。逆に不気味である。
きっと、思うところがあるのだろう。
私も色々と考え込んでしまう。
かあさまのお話によると、今の時期はお役目が頻繁に代替わりするのだそう。とすると、わたしやにいさまがお役目につく可能性も高いはずだ。あねさまやあにさまはもう大人と大差ないので、もしかしたら次のお役目に選ばれるかもしれないのだ。他にどのくらい一族がいるかは知らないので、あまり断言はできないが。
わたしたちは、結局人間に振り回されるのか。
そう、思ってしまった。
瞬間、愕然とした。わたしはもともと人であったはずなのに、思考が人外であることを前提にしてしまっている。
はっきりと理解した。
私はもう、【わたし】であって、【私】ではないのだ。
なんだかとても悲しくなり、耳もしっぽの垂れてしまった。
『どうしたの、かたわれ。』
にいさまが、わたしの顔を覗きこんできた。みれば、どことなく寂しそうな雰囲気を漂わせている。心配をかけてしまったらしい。
『だいじょうぶ、何でもないよ。』
心配させないために、あえて満面の笑みを見せる。
にいさまはそう、と呟いて、わたしの傍に寄り添った。わたしと同じくらいの体で、わたしを包み込もうとしてくれる。
にいさまはとても暖かくて、なんだか泣きそうになってしまった。
ひとであったことは、忘れることはできない。父さんも、母さんも妹も、大切な私の家族であった。でも今は、あねさまやあにさま、かあさまやにいさま、そしてとうさまがわたしの家族なのだ。
少し、吹っ切れた気がした。
気は晴れたが、どこか心にぽっかりと穴が空いたような気がした。にいさまはあれからずっとわたしの傍にいて、離れようとしない。離れようとしないのはわたしも同じで、にいさまの傍にいることで、穴をふさごうとしているのだった。
汪が再び訪れたのは、そんな時であった。
拝啓 お父様。
私はわたしになりました。
何があろうと、わたしとして生きていきます。
育ててくれて、ありがとうございました。最後の最後で親不孝して、ごめんなさい。
でも、父さんの娘でいられて幸せでした。今のとうさまと仲良くなれるかはわかりませんが、どうか応援していてください。
にいさまは双子の神秘でなんとなく感じ取っています。でもなにも言わない。にいさまなりの優しさです。いいですね、こんなお兄ちゃん。
いつの間にかお気に入り登録が増えていてびっくりしました。とても嬉しいです、ありがとうございます。
はじめてのことだらけで、おかしなこともあるかもしれませんが、どうかよろしくお願いいたします。