学ぶ、放置される。
名を知って、暫くして。あれから秋山さんはかあさまと一対一で霊力について教わっていたらしい。あやかしと人とでは随分と違うようで、あの時聞いたことはほとんど役に立たなかったといっていた。
積もる話もあったが、かあさまから召集がかかっていたので、秋山さんとあにさまたちとで体育館もどきの中にあるミニジャングルに集まった。
……はずだった。
「なあ、闇ちゃんよ。」
『……なんでしょう、秋山さん。』
「おかしくねぇ!?なんでこの前と違って広さ変わってんだよっ!変わってねぇの入ってきた扉だけじゃねぇか!!」
『ええ、ええおかしいと思いますよ。そもそもなんで外見と中身が一致していないのでしょうか前回もなんで室内にジャングルあんだよおかしいだろうがとか思いましたがまあかあさまのことだし基本あのひと何でもありだからとかで無理やり納得していたのにいくらなんでもこの有り様はひどいと思うのです。』
すごいぞわたし。ノンブレスで言い切った。ああ、酸欠で頭がくらくらしそうだ。いや、酸欠だけが理由ではないかもしれない。
前回集まった時、この場所は広くても体育館程であり、きちんと壁があるのが確認できたのだ。しかし今回、ああお久し振りですね、そうだな体は平気かなんて呑気なやり取りを秋山さんと交わしながら扉をくぐったら、そこはまさにジャングルそのものであった。
空は快晴。鳥の鳴き声があちらこちらで聞こえ、さわさわと風が頬のひげを撫でる。花が咲き、蝶が舞い、何故かカメレオンらしき生き物が蝿を飲み込む。……ミスマッチを狙ったのか、カメレオンよそうなのか!
ああいけない、まだ混乱しているらしい。
少し落ち着いて周りを見てみよう。
見た限り、ジャングルらしき景色に果ては見えない。どこまでも緑が広がっている。空は綺麗な青空で、何故か太陽の姿は見えない。後ろには入ってきた扉がポツンと残されており、入ってきた時のままで少し開いていて、向こう側の景色がわかるのが唯一の救いだろうか。
あにさまや崑はわたしの隣で呆然としている。あねさまは無意識なのか、あにさまを尾でびしびし叩いている。あれは地味に痛いとおもうのだが、あにさまは平気なのだろうか。そしてさすがの崑もこの光景には驚きを隠せなかったらしい。
そのまま固まっていても仕方ないので、前回かあさまがいた切り株のあるところまで行くことにした。と言ってもはっきりとは覚えていない。丁度いい事に、目の前に獣道がうっすらとあったのでそれを辿ることにしたのだ。
まだ混乱が続いているのだろう、秋山さんは何故かわたしとあねさまを抱いて歩いていた。最初は抵抗したのだけれど、
「頼む、俺の精神安定のために抱かれててくれ。」
と、いやに真剣な顔で言われてしまった。崑が反対するのかと思ったのだけれど、秋山さんのあまりの真剣さに言葉を飲み込んだようであった。珍しいこともあるものだ。
てくてく抱かれながら移動してしばらく。
ようやっとかあさまがいた切り株のある所を見つけた。けれどそこにはかあさまの姿はなく、変わりに燈がゆったりと横ばいになっていた。
燈は片目だけを開けて此方を見た。
『おや、やっと来たか。随分と迷ったようだが、大丈夫だったか?』
……ちょっといらっとした。
『まあいい。無事ならばそれで十分だ。』
それでは、と燈が言いかけたところで、あねさまが遮った。
『あの、かあさまはどこにいらっしゃるの?』
あねさまがおずおずと燈に訪ねる。
余程心配であるらしい。いつもと違いおどおどしている。不安なのだろうか。いや、そんな風に見せているだけかもしれない。あねさまのことだ、あり得るだろう。
『ああ、宮のことならば心配はいらない。九、いや君達の父親の所へ行っただけだからね。偵察といったところかな。大丈夫、今日からやることはちゃんと聞いてある。』
微笑んだ、のか?顔が顔なのでいまいちわからないが、あねさまを安心させるような声音で優しく言ってくれた。
……これであねさまが演技していただけならば、とても申し訳なくなる。
『さて、今日から君達にはこの中で一週間一人で生き延びてもらう。』
は?
何言ってんだこのひと。いやいやいや。いくらなんでも無理があるだろう。
『霊力の使用は可。この森は作られたものだから、肉食の獣はいてもあやかしはいないから安心していい。と言っても、毒のある植物とか果物とか、昆虫とかいるからそこの辺りには気を付けて。』
『一週間たったらこの場所に集まるように。合図はきちんと送るから安心していいはずだ。何か質問はあるかい?』
質問はあるかい?なんて言われても。むしろ質問しか思い浮かばないが、驚きすぎて言葉が出ない。
あにさまは燈の言っている意味がわからないようで首をかしげているし、あねさまは顔が微妙にひきつっている。さっきまでの悲しげな様子はどこにいったのだろう。秋山さんは燃え尽きた灰のように真っ白になっている。見てて痛々しい。唯一冷静なのは崑だけで、質問をきちんとしたのも崑であった。
『では、ぼくらに命の危険性はあるのですか?』
随分とそのものズバリな聞き方であったが。やはり崑も混乱していたらしい。
て言うかなぜいきなりサバイバルなのか。そもそもの部分がわからないのだけれど。
『あらかじめギリギリのところで助かるよう、術はかけておく。だから危険がないと言えばないが、逆に言えばよほどのことが無い限り、こちらからは何もしない。』
うわあ。結構ガチめのサバイバルのようだ。ああ、なぜそうなったのかを聞かないと。
『あの、なんでいきなりこうなったのですか?わたしたち、霊力の扱いもまだ詳しく教えてもらっていないのですが……』
『ん?言ってなかったか?』
は。
え、そこからなの。いやいやいや。いやいやいやいや。やはりかあさまの友人なだけはあるかもしれない。時々訳の分からないところでぶっとんでいる。
『ふむ、宮の方針でね。彼女いわく、[習うより慣れよ]との事だ。霊力の扱いとしては、あまり教えられる事がないのが事実でね。自分で手探りでやっていくしか無いのだよ。まあ、創造すると言うことが大切とだけ言っておこうか。』
「いやいやいや。ちょっと待ってくれ。こいつらは、まあ見た目は猫だからどうにでもなるかもしれないが、俺は一般人だぞ。いくらなんでもいきなりサバイバルは無理があるだろ!!」
ごもっとも。
いや、わたしたちでも無理があると思うのだけれど。そこまで突っ込んだら秋山さんが可哀想だ。
『ふむ。さばいばるとやらが何なのかは知らんが、まあそこを何とかするのが今回の目的だ。死にはせん。安心してやってこい。』
……うわ。なんて言い方。さりげなく燈がどや顔をしているのが余計に腹が立つ。
秋山さんがガビーンでなっている。当然だろう。しかも背中にどんよりとした黒雲を背負っているように見える。
『まあ質問はこのくらいでいいだろう。今から、お前たちを別々の場所に飛ばす。一週間したら自動的にこの場所に集まるようにしよう。安心して生き延びてくるがいい。』
……燈が言い切った瞬間、目の前が真っ白になった。
直前、秋山さんの声でちくしょぉぉぉぉ――――!!、と聞こえたのは間違いではないだろう。
くそ、帰ったら絶対一発くらわせてやる。
さあ始まりましたサバイバル編。
恐らく一番苦労するのは秋山さんです。
登場人物の名前が読みにくいなどありましたら、ご報告ください。当て字でやっていますので、読みやすいものに変えようかと思っています。




