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拝啓 妹よ。

 昔から猫は好きだった。あの自由そうなところ、たまんないとか思ってた。艶々とした毛皮、かわいらしい鳴き声、すらりとした四肢。

 生まれ変わったら猫になりたいなあー、なんて思った事もある。いやだって人間より何倍も楽そうじゃん?





 いやでもこれはないだろ


 目が覚めたら猫になりましたとか、とうとうゲーム脳になったのか自分。







 あーあ、今年から受験生かよ、大学受験かよ、やってらんねーよ、とは思ってた。通ってる高校がそれなりな偏差値を持っているところだったので、家族や教師からの期待も重く、余計にストレスが貯まっていたのは事実で。最近はここで死んだらどーなんのかなーとか、電車ひっくり返ったら流石に死ぬかなー、あ、でもそうなったら周りの人にも迷惑かかるか、慰謝料とか半端じゃないらしいしとか頻繁に考えてて。あ、私病んでんじゃね、とも思った。実際、後から思えば鬱になりかけていたのかもしれない。

 私はもともと一人でいるのが好きで、ベタベタするのも嫌いだったので真剣に相談できるような友人もおらず、考え続けて鬱になりかけたまま夏まで過ぎて。あーあ、このまま流されて生きていくのか、まあいっか。でも鬱だ。と考えながら学校行こうとしたら。



 刺されました。包丁で。通学路で。まじかよ。



 刺されたのは右の脇腹だった。とうやら肋骨もすり抜けてしまったらしい。なんというミラクル。

 この辺りは病院もなく、あっても接骨院という田舎っぷりなので、あ、これ詰んだと確信してしまい。

 だってまわり田んぼなんだもん。完璧に無理だろこれ。しかも今日に限って一人で登校していたわけじゃないし。部活の後輩と一緒だし。




大人しく諦めた。


が、タダでは死んでやんない。





 ありがたいことに、私を刺した人は人肉の感触にビビっちゃったのか包丁を持ったまま動かない。なら刺すなよ、と思ったがきっと言っちゃいけないことなのだろう。お口にチャック。しかし痛い。

 どこまでが正当防衛なのか、すなわち家族に迷惑がかからないかを計算しつつ、スクールバッグをおもいっきし振りかぶり。



犯人の横っ面を、車道めがけて殴った。あわよくば車に轢かれてしまえ。


 スクールバックの中身は、教科書ノート弁当財布その他諸々である。その中でも最重量を誇るのが英和辞書、通称G4である。

 G4なめんなよ!重いんだからなこれ!受験生必須なんだからなこれ!今日に限ってよく持ち歩いていた偉いぞ自分!!




 そのままその人をぶん殴り、その勢いで包丁が抜けて多量出血し。

 それがとどめだったようで、身体から力が抜け、そのままどさりと倒れてしまった。横目で後輩が真っ青な顔をして何かを叫んでいるのを見た。


 あやつは倒れた、でも生きてるなこいつ、周りの後輩ごめんなさいトラウマ作らせて。とくに一緒に歩いてた彼女、ごめん。そんなになかないで、ね。ああ、スマホのえつらんりれき消さないと。これみられたらはずかしいどころじゃないや。

 とまで考えて、私は死んだ。


あ、貯金どうしーーーー










 ……暖かい。いい匂い、なんだか安心する。母さんに抱かれているみたいな、安心感。おかしいな、もうそんな年じゃないはずなんだけど。

 ゆっくりと目をあけてみた。なんだか眩しい。外にいるのか?

 ゆっくり立ち上がり、辺りを見回した。



 はずなんだけど。

 おかしい。おかしいよこれ。なんで毛深いの、え、なんでなんでなんで、え?

 手をみる。ふむ、黒い毛で覆われている。頭をひねって足を見る。こちらも黒い毛。しかも尻尾まで見えた。ふむ、綺麗な尻尾。


 いやいや、そうじゃない。そうじゃないんだけど。






拝啓 親愛なる妹よ。

お姉ちゃんは受験戦争から離脱した後、黒猫になった模様です。

いいのか悪いのか、まだ混乱しています。






 あれから周りをきちんと確認してみた。状況把握マジ大事。

 私が今いるのは(恐らく)母親猫のふところ。乳のすぐそばです。なんか安心する。

 周りには私含め4匹の毛玉、じゃなくて子猫がいる。性別も、弟か妹か兄か姉かもわからない。ただしみんな黒。統一されてて、なんか快感。

 そしているのは外ではなくて、大きい窓のある部屋だった。私達がいるのはふかふかのクッションの上で、多分生まれたてではないんだろう。猫に詳しいわけではないからなんとも言えないが。

 屋内にいると言うことは、私達は飼い猫なんだろう。飢え死にの心配はないということだ。よし。


『ちびすけ』


よかった、のんびりまったり飼い猫ライフだ。


『ちびすけ』


あれ、でもなんでこんなことになったんだっけ。


『ちびすけ、おねむりちびすけ』


ああ、刺されたのか、死んだのか。


『良い夢を、ちびすけ』


 涙、でてきた。

 ごめんなさい、母さん、父さん、妹。そして狭く深く付き合ってきた友人たち。泣いてくれるかな、あんたたち。あんまり泣かれても困るや。


『元気に、大きくおなり。』




敬具

妹よ、お姉ちゃんは元気にやってます。黒猫だけど。

あんたは、受験生でも死ぬんじゃないよ。




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