頭のおかしい、中年無差別放火殺人鬼
「そりゃ、火も燃え盛りたくなるってもんだ」
俺は火を愛している。火は、燃え盛る美しさと降りかかる危険の両方を兼ね備えているすばらしい物だ。だが、どうして人間という生物は火を粗末に扱いやがる。
人間は火を甘く見ている。平気な顔をして、道にゴミを捨てていきやがる。ほんと、この国は平和だよ。これだけ火を粗末に扱っているというのに、だれも天罰を与えようとしない。そんな平和な国だから、自分たちの愚かさを理解できねえ。
「そんなら俺が火の怖さを教えてやるよ。俺の命を懸けてでもな」
少し歩いただけで、簡単に燃やせそうな家がたくさんある。どうしてだろうな。道にゴミを投棄すれば、火に燃やされても仕方がないだろう。なのに、だれもやめようとしない。ほんと、理解に苦しむぜ。
「さて、存分に燃え盛ってくれ。そして、教えてやってほしい。お前はもっと大切に扱われるべき存在だってことをな」
俺は別に手の凝ったことはしない。ただ、家のそばに投棄されているゴミに、瓶に入れているガソリンを少量かける。そして、そこにライターを投げ込めば、それだけで家は燃えてしまう。
「ゴミは燃える。だれでも分かることなのにな……」
こんな中年のおっさんでもできちまう殺人行為だ。なのに、なんの改善もされることはない。ただ、放火した犯人を責めるだけだ。
「火は優しいな。こんなゴミだらけの世界に対しても、美しく燃え盛ってくれる」
何件も放火を続けていると、警察が俺を捕まえようと動き出す。当たり前だ。人が何人も死んじまってるんだからな。
俺はきっとすぐに捕まる。そして、激しく責め立てられるだろう。
「これも結局、『頭のおかしい、中年無差別放火殺人鬼』とでも言われてすまされるのだろうな。悲しいねえ。俺という命を懸けても、火は粗末に扱われるままだ」
捕まっても反省するつもりはない。むしろ、聞いてやりたいくらいだよ。「火に殺人させてるあんたらに、人を裁く権利はあるのか?」ってな。