不思議な夢
「何なんですか!」
「まあまあ、そう怒るな少年よ。」
少女は涼介の憤慨をひらりとかわす。
「・・・・・・少年って・・・・・・」
涼介は少女にはあまりにも似つかわしくない口調にうろたえる。
「ところで少年。さっきのいかつい男に話したことを私にも話してほしいのだが」
何がところで、だ! だいたい俺には麻彫涼介という立派な名前がある。
「俺は、少年じゃなくて麻彫涼介です。 あなたは誰なんですか?」
見た目では涼介よりも年下に見えるが、言葉使いがあまりにも大人びていて、堂々としているため思わず涼介の口調は敬語になってしまう。・・・・・・しかし、敬意などこれっぽっちも示していない。
「君のことは知っている、少年よ。私は、大阪府警特殊犯罪係の涙音寺 菜穂だ。・・・・・・ちなみに、歳は23歳だ」
麻彫涼介なんですけど・・・・・・。いや、それより、このどう見ても10代半ばくらいの少女が刑事!? ありえない! すべての常識が覆るぞ!
涼介はあまりのショックに、少年と言われたことをもう気にしていないようだ。
しかし、少女の言っていることが本当だとして、特殊犯罪係など聴いたことがないぞ。
涼介は以前に高校の宿題で、地域に関することを調べて来い。という小学校の宿題で出されそうなものを調べた時に、大阪府警のことについてかなりくわしく調べたのだったが、どうやら心あたりが無いようだった。
「特殊犯罪係っていうのはいったいどんな仕事をしているのですか?」
一応年齢が菜穂と名乗った少女のほうが上なので敬語で話す。
「だいたいは暇を持て余しているのだが、その名の通り特殊な、例えば常識では考えられない事件が起こった時にそのことを捜査する役職だな。・・・・・・まあいわば、一課が解決出来なかった事件を私が解決してあげるってことだ」
「・・・・・・それで、俺に何のようですか?」
「少年に今あの不良刑事に話したことをもう1度話してほしいのだよ」
「・・・・・・なぜですか? あの刑事さんに聞いてくださいよ」
「・・・・・・非常言いにくいことなのだがな、私はあの刑事が嫌いなのだよ。いかつくて、暑苦しくて、怪力で・・・・・・」
言いにくい、と言っていたわりにすらすらと悪口が出てくる。
「おい! 涙音寺とかいう刑事! 明日でいいだろう。涼介と家族で話さないといけないこともあるからな!」
苛立ちながら香織は口を挟む。
おそらく話とはいじめのことだろう。涼介は誰にも相談せずに1人でその問題を抱え込んでいたから。
「そうだな、じゃあ明日にするよ」
事件のことがあり、しばらくの間学校が休校となったため、菜穂は明日の昼に涼介の家に来ることとなった。
「そうか・・・・・・そんなことがあったのか」
家に帰り、香織が父親の希佑に事件のことを話し終えた時に希佑が呟く。
「それで・・・・・・いじめられていることをなぜお父さんたちに言わなかった?」
香織は少し怒っているようだったが、それでも口調はやさしさを含んでいた。
「すみませんでした。心配かけたくなかったから・・・・・・」
「・・・・・・そうか。でもな、こんなこと言うのもどうかと思うが、親に心配をかけてくれ。何も心配事のない子供を持つほうが不安だ。子供は親に迷惑をかけるのもだからな」
どうやら希佑は子供の結構やんちゃをしていたらしい。口調からそれが滲み出している。
「うん。・・・・・・ありがとう」
「まあ、今日はいろいろあったのだろう? もう寝ろ」
涼介をいたわっているような穏やかな声。
「・・・・・・うん・・・・・・おやすみ」
何だったのだろう? 1日で人生の何日分も生きた気がする。
涼介は風呂に入り、その後睡眠に入る。
何か悪い予感がする。何かたいへんなことが起こるような・・・・・・。
夢を見た。今の俺の不安定な心情にとってはとても不思議な夢。
あの少女のような刑事さんと桜色に輝く道を歩いている夢。
俺が刑事さんと手を繋いでいて、刑事さんは俺に支えられながら誘導されているような感じだ。
他には誰の姿も見えない。見えるのは、やっぱり桜色に光を放っている道だけ。
誤字脱字が多いので、もし見つけたら教えてください。お願いします。