~7時間目~
楽しい打ち上げを終えて僕らはレストランの前で解散した。これでようやく解放され、我が家へと帰宅することできるのだ。
僕の心は否が応でも高鳴る。父さん、母さん、そして双子の妹……元気にしているだろうか? そういえば、今日は僕が実家に帰ると聞いて、姉さんが顔を出しているとか、さっき母さんからメールがあった。
『ケンちゃんも来てるわよ』とあったので、姉さんの1人息子……要するに、僕の甥っ子なわけだ。ケンちゃんは今年小学校5年生になる。
この前あったときは、まだ僕の胸の高さまでしかなかった。ケンちゃんも成長期だ。きっとビックリするくらい大きくなっているに違いない。
さらにメールには、『あまりに大きくなっていたからビックリしちゃったわ。だって、200メートルもあるんですもの』とか書いていたが、母ももう年なのだろう。センチメートルをメートルと書いてしまったあたり、老眼だ。
スカイツリーの三分の一の大きさになっているじゃないか。大きくなりすぎだ。
と思っていたら案の定、訂正のメールが着ていた。
『ケンちゃん2000メートルだったわ、お母さんうっかりしていたわ、ごめんネ☆』と書かれていたので、僕は病院に救急車を要請しておいた。母には苦労を掛けっぱなしだったから、これからは親孝行するように心がけよう。
原海高校から実家までは電車で一時間ほどの距離だ。いくつか乗換えをして電車に揺られ、懐かしの地元に帰り着く。
僕の実家がある三合市は、ベッドタウンとして栄えている。駅から少し歩けば、大手スーパー、スーパーフジタニがある。
双子の妹は、最近ここでバイトを始めたようだ。今度バイト中に少しからかってやろう。
やがて、自宅に帰り着くと僕は懐かしさのあまり思わず駆け出した。しかし自宅の門前で、平良くんのクローン人間のような、筋骨隆々とした2メートルはあろうかという大男の背中に阻まれ、僕はたたらを踏んだ。
「ちょっと、何ですか、アナタ? 僕の家に何かようですか? 警察呼びますよ?」
なんだこいつは?
すると大男が僕に振り返った。
顔はヒゲだらけで、目は前髪で隠れて見えない。大男は一瞬きょとんとしていたが、すぐに頬を緩ませ、低い声で僕にしがみついてきた。
「梓お兄ちゃん! ぼくだよ、ケンちゃんだよ!」
「げ!? ケンちゃん!?」
にわかには信じられない。去年まではまだ百数十CMしかなかった天使のように可愛らしいケンちゃんが、2メートルをゆうに超す、巨大なマッチョマンに急成長していたのだ。
リアルに恐ろしい劇的ビフォアーアフターだった。一体どんな匠がこの子を魔改造してしまったというのだ。
「お兄ちゃん、会いたかったよぅ」
ケンちゃんは僕になついていた。あと、この年で『おじさん』と呼ばれたくなかったので、『お兄ちゃん』と呼ばせていたのだが、2メートル超の大男に成長した今のケンちゃんには恐ろしく似合わない。
「お姉ちゃんがね、ぼくをお家に入れてくれないんだ。ねえ、ぼく何か悪いことした?」
「駁が……? しょうがないな、ケンちゃん。僕が駁にちゃんと言ってあげるから、泣かないでよ、お兄ちゃんに任せてね」
周りの人が僕に『早く食べられない内に逃げなさい』とか言ってるけど、それは無視して僕は自宅へと足を踏み入れる。
「ただいまー! 駁、だめじゃないか。ケンちゃんを家に入れてあげてよ」
玄関を開けてすぐ、目の前に両腕を組んで仁王立ちしている女の子がいた。僕の妹だ。
「お帰り、あず! 表のサイクロプスは結社が駁を抹殺するために送り込んできた人型機動兵器よ! 人語を介する高度なAIが搭載されているけど、騙されてはダメ! でも駁がいれば大丈夫。駁には超銀河古代文明の生き残りから授かった、ペルセウスの遺産『ソウルグランジャー』があるの! あっこれは普段は学校の裏山に収納されているんだけど、駁が空に手をかざして『くろすぐらんじゃーーー!!』って魂の叫びを上げれば5体のロボットが――」
「うん。すごいね。今度僕もその『ソウルグランジャー』とか言うのに乗せてね」
「あずはダメ! あずはソウルグランジャーの生体コアだという驚愕の真実が第683話で、コンビニの店員さんが弁当あたためている時に、隣で携帯の代金、一億万円を払っていた小学生がぼそりとつぶやくの!」
「うん。すごいね。僕もびっくりだ。で、表のサイクロプスなんだけどさ」
「だめよ! あいつの体内には銀河を終焉に導く究極の負のエネルギーが搭載されているの! うかつに近寄ったりしたら、あずの命が危険よ! ダメ! あずは駁の命なんだから! あずが死ぬなら駁も一緒に死ぬ!!」
「えっとね。駁。表のサイクロプスは、結社によって改造されたケンちゃんなんだ。入れてあげてくれないかな?」
「ケンちゃん!? うそ……許さないわ。結社め! 今こそ正義の鉄槌を下すとき! 愛と勇気と正義とその他もろもろで滅ぼして、すべてを根こそぎ奪い去ってやるわ! じゃあね、あず! 駁を止めないで、駁はいかなければならないの」
「うん。行ってらっしゃい。晩ご飯までには戻ってね」
「最後に、これだけは行っておくわ。あず……死なないで」
「うん。たぶん、死なないから大丈夫」
駁……僕の双子の妹は、嵐の如く去っていった。
それと入れ代わるようにしてケンちゃんがその巨体を玄関に押し込んできた。
冬休みも何かとタイヘンだな……。




