~6時間目~
僕は、宮村 梓。ここ私立 原海高校の1年B組のクラス委員をしている。冥土喫茶事件からはや数ヶ月。12月になり、とうとう今年最後の授業……終業式がやってきた。
無事に通知表をもらって、冬休みへと突入する。が、その前に何人かのクラスメイトで打ち上げに行くことになった。
今回、打ち上げに参加するのは、絶世の美少年向井くん、筋肉ゴリラな茶道の家元の平良くん、実家が金持ちな佐藤くん、学校一のロリコン前田くん、そして僕の5人だった。
打ち上げは学校の近くにあるファミレスで粛々と行われた。
5人でテーブルに着き、2学期の成績やら冬休みをどう過ごすのかを語り合う。全寮制といえども、冬休みになれば生徒は皆、実家に帰ることを許されるのだ。中にはそのまま戻らずに退学なんて奴もいるらしい。
「来年こそ、男女共学にならないかな、そしたら、そしたらさ……ふひひ」
突然奇怪な声を上げて前田くんが笑い出した。前田くんはとんでもないロリコン野郎でドヘンタイだ。好物もホワイトロリータというお菓子で徹底している。
「それなら、ぜひメイドを雇って欲しいものだよ。この学校には華がない。まったくけしからん限りだ、そう思わないか委員長?」
佐藤くんが僕に同意を求めてきた。佐藤くんはたいへんなメイド好きだ。前回の冥土喫茶事件の時も一番張り切っていた。
というのも、彼が実家にメイドを雇ってくれと中学生の時親に土下座をして、全裸で庭を50周して逆さ吊りのままカツ丼を3杯食べたにも関わらず却下されたらしい。
なんというドSな親なんだろう。けれど、佐藤くんの努力が実ったのか、翌日一人の女性が佐藤くんの家にやってきた。
佐藤くんは喜んだ。しかし、やってきたのはメイドではなく、50代のおばちゃん……家政婦だった。メイドを家政婦と勘違いされたらしい。
しかも、ドアの隙間から部屋の中を覗かれたそうだ。……その、お楽しみの所を。
「メイドもいいよね。うん、いいんじゃない? 鬼塚先生も好きそうだし、来年会ったら一応要望として先生の耳に入れておくよ」
「本当かい!?」
「うん。ムダだとは思うけどね」
僕らは各々のメニューを注文した。その間にヒマなので、席に備え付けられた液晶パネルに視線がいった。
前世占いが無料でできるサービスがあったので、みんなでそれにトライする。無料なので、学生には心強い味方だ。
しかし、一番に平良くんがやったのがまずかった。タッチパネル式の液晶は彼の指の力に耐え切れず、平良くんの人差し指は液晶画面を付きぬけ、壁に穴を空けた。
たぶん、平良くんの前世はゴリラかなんかだろう。ゴリラは握力が300kgくらいあるらしい。いや、それではゴリラに失礼か。
「なるほど。この液晶を押した力で前世がわかるのか。ほう……このリストによると、平良くんの前世はかぐや姫らしいぞ」
佐藤くんがテーブルの端にあった紙のリストを指差している。なんという画期的な占いシステムだろうか。
というよりも、僕の中でかぐや姫のイメージが音を立てて壊れたのだが、それすらを上回る驚愕のシステムだ。
「さーて、注文が来るまで作業でもするかな」
そう言うと、前田くんはカバンからノートパソコンを取り出して突然カタカタやり始めた。何をやっているんだろう?
「前田くん? 何やってるの?」
「ペンタゴンにハッキング」
僕は水を思い切り噴出した。
それが向かいに座っていた上半身全裸の平良くんの乳首に直撃して、平良くんは恍惚の笑みを浮かべてテーブルに突っ伏した。平良くんはヨダレを垂らして、気を失っている。
ペンタゴンとは、アメリカ国防総省のことだ。いきなり何を言い出すんだ、前田くん。
「俺さー。自分で満足できるエロゲーを探してたんだけど、どこにもないんだよね。だから自分で作っちゃおうって話になったわけ」
「いや、それはわかったけど、なんでそれがハッキングにつながるの?」
「自分でエロ画像書いてさ、自分で声をあてて、最強のエロゲーができたんだけど、せっかくだから誰かにプレイしてもらいたいじゃない? ネットにあげるのもいいんだけど、どうせなら有名で目に付きやすいところにアップしようと思って。それで1からハッキングを覚えたの。ほら、もうすぐセキュリティー突破できそう。ほらほら……きたあああ!」
その情熱と努力があれば、前田くんはもっと高みを目指せるのではなかろうか……。




