~5時間目~
1年A組の演劇、白雪姫が幕を閉じた。彼らはリアルさを追及した結果。本物の毒リンゴを用意するという結論に至ったようで、毒リンゴを食べた白雪姫役の遠藤くんが救急車で運ばれていった。
あいかわらずだ、我が校のバカさは。
『次は、1年B組のメイド喫茶です』
僕らは壇上に駆け上がり、テーブルやイスやらをセットしていく。さすがそこは我がB組で、ムダに有り余った体力でどんな重量物もほいほい持ち上げすぐにセットが整った。まったく、バカと1年B組は使いようだ。
「みんな着替えたー?」
僕はB組のみんなを一人一人見渡した。う……見るに耐えない。中でも、平良くんはなぜかエプロンドレスではなく裸にエプロンという姿で、誰得なのか教えて欲しい。
西田くんは大いに乗り気で頼んでいないのに、エプロンドレスを微妙にアレンジしている。ちなみに彼の将来のなりたい職業は『魔法少女』だそうだ。猫耳を頭部に装着して、これも誰得なのか教えて欲しい。
しかし、その中に天使が一人いた。向井くんだけは絶妙に似合っており、可憐な美少女がそこにいる。GKK3と比べれば、月とヘドロだ。
「いよいよだ……!」
幕は静かに上がっていき、ついにその時が来た。体育館に埋め尽くされた人、人、人。よくみれば、剛三ちゃんも来ており、彼の周りは黒服の男達で埋め尽くされ、剛三ちゃんは日本刀を脇に差し、膝の上には金口くんのお母さんの遺影を置いて、エプロンドレス姿の我が子の晴れ姿に感涙していた。
『良太ああああああああああ!』
剛三ちゃんが日の丸の描かれた扇子を両手に広げて踊りだした。
ほどなくして、僕らのメイド喫茶が始まるが……。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
平良君がエプロンをマッスルポーズでびりびり破きながら、低い声でそう言った。途端。
嘲笑の嵐だった。そして、それと同時に投げ捨てられるゴミやら、石やらパイプイスやら美少女フィギュアやら校長やら。
『貴様、何がおかしい』
不意に剛三ちゃんのほうを見ると、前の席の生徒の喉元に日本刀を突きつけており、取り巻きの黒服たちは血走った眼で生徒を取り囲み、一斉に拳銃を頭部に向けていた。
『い、いえ。かわいらしいな~と思って』
『なら、一番ノリでうどんを買ってくるがいい。今すぐ! 駆け足で!!』
剛三ちゃんに見つめられ、生徒は男子高校生の50M走最速記録を塗り変えるじゃないかと思えるほどの勢いで走ってきた。
『お帰りなさいませ、ご主人様』
「ははは、た、ただいま帰りました。うどん1つください」
「3,000,000円になりまーす」
「はあ、300万!? ばっかじゃねーの!」
え、300万!? 僕は驚いて値札を見てみる。するとそこには確かに血文字で『3,000,000円 ポイント還元セール実施中』と書かれているではないか!
「有田! 0が多い! 直せ!」
「あら、ほんと。0が二つも多いじゃない、キュッキュッと。これでいいわね」
0二つとっても3万なんだが……。
「なーんだ、3万円かあ。それなら、遠足のおやつ代と変わらないよね! はい、3万円」
こいつらの金銭感覚はどうなっているのだろう? 生徒が、カップに入ったうどんを受け取りずるずるとすすり出す。
それを見つめる有田。味には相当な自信があるのか、すでに勝ち誇った笑みを浮かべている。
「なんだこれ」
生徒は青い顔をして倒れた。騒然となる体育館内。そして――。
「うめええええええええええええええ! マジうめええええええ!」
ふふふん。と鼻を鳴らす有田。
会場は我先にと3万円のうどんに群がる人々。そんなにうまいのだろうか?
剛三ちゃんも顔から分泌できるすべての液体を垂れ流し、一心不乱にうどんに喰らい付いていた。
わずか5分で完売。僕らは成し遂げたのだ。メイド喫茶うどんを。
「フフ……ウフフ。やったねえ、宮村委員長」
振り返れば、クラス担任の鬼塚先生が、やけにさっぱりした顔で僕の隣に立っていた。
おかしい。鬼塚先生の顔は常に火気厳禁なほど脂まみれなのに。それになんだか湯気がもわもわと立ち上がっているではないか。
「先生、なんかさっぱりしてますね?」
「フフ……ウフフ。実はね、有田くんがお風呂を沸かしてくれたんだよ。おかげでサッパリサッパリ。5年ぶりかなお風呂はいったのわ」
僕は嫌な予感がした。有田のプリ帳からレシピの部分を強引に破り取り、それを確認する。
材料:かつお、わかめ、さざえ、鬼塚 英二……etc。
これは某国民的アニメのキャラクターリストだろうか? それともS級暗殺者の手配書なのか? いや、違う。これはやはり材料リストだ。何故そこに我がクラスの担任の名が?
「あ、有田? だしは何を使ったの?」
「うふふ。カツオとワカメと。ブタさん☆」
僕の頭から足のつま先まで、電撃が走った。もう間違いない。クラス担任を文字通りダシにしたのだ!
剛三ちゃんが本日37杯目のおかわりを平らげた。そして、それと同時に白目を剥いて倒れた。体育館内の客も次々と倒れていく。まさに地獄絵図だ。阿鼻叫喚だ。
こうして、僕らの文化祭は多数の食中毒者を出し、幕を閉じた。
これが『冥土喫茶』とよばれる伝説のすべてである。




