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~4時間目~

 僕は剛三ちゃんと別れ、とりあえず模擬店を巡ってみることにした。うちの学校は1年生は公演。2,3年生は模擬店と割り振られているので模擬店を運営しているのは僕よりも上級生、ということになる。


 ふと、おいしそうな匂いが僕の鼻腔を突き抜けた。匂いをたどれば、かやくご飯の模擬店が僕をまるで手招きするかのように、そのおいしそうな匂いを漂わせている。僕はおいしそうだったので、買ってみることにした。ふと目の前の生徒が口から煙を吐いた。何事だろうか?


「ぐほっ! 何だこのかやくご飯? 口の中で何かが弾けたぞ?」


 僕は模擬店の看板を改めて見直した。そこには『おいしい火薬ごはん』と書かれていた。


「いらっしゃーい。おいしいよー。本物の火薬をつかった火薬ごはんだよー口の中で弾けるおいしさ! たまらないよー!」


 アホだろうか?


「火薬の量も完全ランダム! 口がぶっ飛ぶくらいの量も中にはあるから気をつけてねー」


 死ぬだろ。しかし、それにおかまいなしに剛三ちゃんはおいしそうに召し上がっていた。


 僕は模擬店を離れ、野外ステージの方に足を運んだ。どうやら、今はボクシング部のドツキ漫才の時間らしい。血沸き、肉踊る。まさに白熱したバトルだった。ところであれは、漫才だったのだろうか?


 再び模擬店の散策に出た僕だったが、女の子に声を掛けられ、足を止めた。


「お兄ちゃん! やっとみつけた!」


 振り向けば、そこにいたのは……ツインテールの長い髪を揺らし、かわいらしいフリフリのスカートをはいた僕の家族だった。原海高校は全寮制の学校だ、強制収容所と呼ばれる所以はそこにある。だから、文化祭ともなれば生徒は家族を呼び、僅かな時間を共に過ごす……というのが一般的なようだが、僕は呼ばなかった。


 僕の家族構成は父、母、姉、僕、妹の5人家族だ。目の前でお兄ちゃんと言っているが、彼女は僕の妹ではない。無論、近所の年下の女の子とか、幼馴染でもない。一応かわいい幼馴染はいるが、彼女は招待していない。最近カッコイイ彼氏ができたとかで、僕の事なんかどうでもいいらしい。


「もう、お兄ちゃん。どうしたの? せっかく家族が会いに来たのに」


「姉さん、その……いい加減やめてくれない? お兄ちゃんっていうの」


 彼女は僕の14歳年上の姉。宮村 和美。30歳バツイチの子持ちである。童顔の上に背も僕より10cmほど低いので153cmくらいしかない。そのため酒を買おうにも毎回年齢確認されてめんどくさいらしい。


「ちょっと、あずちゃん! だめよ、人前では和美って呼び捨てにしてよね!」


「どこの世界に14歳も年上の姉を呼び捨てにして、お兄ちゃんと呼ばせる弟がいるんだよ!?」


「いないのならつくっちゃおー! それにさ、夢なんだよね、あたし。かっこよくて優しいお兄ちゃんって……」


 バツイチ子持ちの三十路女がよだれを垂らして別世界に旅立った。


「あずちゃんのおむつ変えたの誰だと思ってるの? お姉ちゃんの言うこと聞きなさい!」


「そんなだから、旦那に逃げられるんだよ」


 とたんに姉は瞳をうるわせ、ブワっと泣き出した。どうやらまだ、癒えぬ心の傷だったらしい。


「泣くなよ、僕がこの学校案内するからさ、それに午後から公演もあるから元気出せよな」


「ホント!? 大好きお兄ちゃん!」


 やめてくれ……。ふと、僕は周囲に殺気を感じた。周りの視線が恐ろしい。それも、そうか。姉は見た目10代前半なので、僕を羨ましがっている連中がいるのだろう。


「屋外ステージに行こう、ねえさ――和美」


「いこー! いこー!」


 僕は溢れる殺気を背中に感じ、再び屋外ステージに戻ってきた。


 ステージ上では、GKK3というアイドルユニットがライブを行っていた。G=げん、K=かい、K=こうこう。そしてそのメンバーは、保険の先生、通称ブルドッグ。化学の先生、通称でめきん。掃除のおばちゃん、通称イグアナの3人の女性ユニットだ。


 今歌っているのは、彼女達のデビュー曲、『ツインテールとシュークリーム』だ。


 ブルドッグがボリューム満点のおしりを揺らし、ずっこける。でめきんが、白熱しすぎて歌の途中で5メートルほど唾を水鉄砲の様に飛ばす。イグアナがパフォーマンスの為持ち込んだモップを振り回して華麗に踊り、その拍子にモップの金具が外れ、ノリノリで踊っていた剛三ちゃんの頭部にそれが突き刺さった。


「おにーちゃん! つまらないよお!」


 姉、和美三十路バツイチ子持ちが両手足をジタバタドタバタして鬱陶しい。ふと時計を見れば、12時を過ぎている。


「姉さん、ごめん。僕そろそろ行かなきゃ!」


「え、行くってどこに?」


 僕は、少し嫌だったけど、正直に言った。


「メイド喫茶」

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