~3時間目~
HRから数日……結局僕らは舞台でメイド喫茶をやることになってしまった。
まあ、決まったものはしょうがない。やれることを最大限やるだけだ。とにかく、頑張るぞ!
僕らB組の『メイド喫茶公演』は午後からだ。それまでは各々自由行動とした。というか、一緒につるむなんて嫌過ぎる。
突然、校門の前で黒塗りのベンツが停まった。その周りには、黒服のその筋の方々が仁王立ちで、手を後ろでに組んで周囲を警戒している。刹那。
「お疲れ様です!!!!」
その言葉と同時、車から降りてきたのは、顔を横断するかの様な傷と、黒い和服に身を包んだ初老の男。またまた刹那。
「おじき!!」
黒服の男の中の一人が、和服の男をかばうように覆いかぶさり、ベンツの窓に数発、銃弾が着弾した。ガラスには3箇所ヒビが入っただけで、貫通はしていない。どうやら、防弾ガラスらしい。
「奴ら丸山田組ですぜ! この前不戦条約を交わしたばかりだってのに、いきなり撃ってきやがった! おじき、俺はもうガマンならねえ! タマ取られた弟分のカタキをここで!」
僕は呆然と立ち尽くした。何だろう、あれは?
和服の男がまた別の組織であろう、男達を一目ちらりと見た。それだけで。たったそれだけで、男たちは一目散に我先にと逃げ出していく。
「ふん、他愛も無い。この金口 剛三のタマぁ取れるのは、地獄の閻魔かカカアぐらいのものよ! ぐはははは!」
一人豪快に笑う和服の男。と、そこに抱かれたくない男トップランカー金口くんがやってきた。
まさか?
「父上、お久しゅうございます」
深々と頭を下げる金口くん。それにつられ、他の黒服もみな金口くんに頭を下げた。
「お疲れ様です!!!! 坊ちゃん!!!!」
「おお、良太。息災であったか? 手紙には、大層仲が良い友達ができたと聞いたが?」
「ええ、宮村くんと言って、うちのクラスの委員長をしているんです。ホラ、あそこにいるでしょう? 僕の事をいつも見守ってくれているんですよ」
と、突然黒服一同の視線が僕に集まる。僕は一歩後退りし、生唾をゴクリと飲み干した。
「では、あの漢が1年B組の組長、宮村 梓か。あの漢をここえぃ!」
ちょっとまてまて! 金口くんはあの組織のボスの息子!? まさか、この前、甘いマスクに2,3発パンチした事への恨みを晴らすのだろうか!? せめて1,2発にしとけばよかったと後悔するが、体格のいい男にお姫様抱っこされて逃げ出すこともかなわない!
やがて、和服の男。剛三ちゃんの目の前で僕は降ろされる。
「あ、あの。何か御用で?」
僕はおそるおそる聞いてみた。すると、剛三ちゃんは無言のまま、僕を見つめ懐に手をいれた! きっとチャカだ。チャッカマンじゃなくてモノホンのチャカだ! 僕は東京湾でサメのエサなんだ。
「息子から話は聞いている」
キタコレ!
「数多の猛者を率いるその器。部下に対するその思いやり。まさに天晴れ!! そこでワシは1年B組組長宮村 梓! お前を真の漢と認め、五分の杯をかわしたい!」
懐からでてきたのはチャカではなく、二つの杯だった。
「これを飲め。金口組は1年B組を兄弟分と認め、いつでも力になろう!!」
恐ろしいことになった。剛三ちゃんは完全に乗り気だ。というか、関東で有数の勢力である金口組と1年B組が釣り合うわけがないと思うのだが。しかし僕は逆らう事が出来ず、剛三ちゃんと杯をかわすハメになった。……ちなみに、中身はオレンジジュースだった。一応、僕が未成年であることを考慮してくれたらしい。
「ぐはははは! 良い飲みっぷりよ、将来は龍に化けるか、虎に化けるか……楽しみよのお!」
僕の夢はしがないサラリーマンだ。龍にも虎にも化ける予定は無い。
「父上、僕のクラスは午後から体育館で公演があります。僕の晴れ姿とくとご覧ください」
エプロンドレスの晴れ姿を見たら、剛三ちゃん、火山の様に噴火しないかな?
「おう、天国の母ちゃんも、きっとこの日を楽しみにしていたであろうなあ……うっ……くっ」
あらら、剛三ちゃん泣いちゃったよ。天国のお母さんもきっと悲しむな、コレは。
「おじき! さあ、我々はもう行きましょう。ここは宮村の兄貴に坊ちゃんをお任せして……」
「うむ、そうだな、宮村 梓ぁ! お前を漢と見込んで良太の事を頼むぅ!」
そして、剛三ちゃんは誰にも気付かれない様に、僕に小声で話しかけてきた。
『良太は学校ではどんな評判なんだ?』
『抱かれたくない男トップランカー』
僕は正直にそう伝えた。




