~2時間目~
僕は、宮村 梓。ここ、私立 原海高校の1年B組のクラス委員をしている。今はHR。
隣では、もくもくとたばこの煙があがり、後ろの席では数人の生徒が雀卓を囲み、ジャラジャラと音を立てている。
目の前では紅茶とケーキでコイバナに花を咲かせるオトメン達。彼らは軽音楽部で、『授業中ティータイム』というバンドを結成している。通称JTTだ。タンバリンと鍵盤ハーモニカとソプラノリコーダーが奏でるハーモーニーは、まさしく死の旋律。聞けば最後、鼓膜を完全に破壊される。
教壇に立つクラス担任、鬼塚 英二先生と目があった。話が一向にすすまないためか、少し涙目になっている。それもそうだろう。こんなのすでにホームルームじゃない。そこで先生は僕が以前提案した、皆の集中力がアップする、魔法の言葉を黒板に書いた。
『おっぱい』
途端に、教室の空気が静かになった。みんな黒板に視線が釘付けになる。どうやら、このクラスの識字率は高いらしい。
「うおおおおおおおおおおおおお! おっぱあああああああい!」
平良くんが叫んでカッターシャツをびりびり破いた。だから、脱ぐなと言うのに。
鬼塚先生は文字だけでは飽き足らなかったのか、画像を黒板に書き出した。いやいや、うますぎだろ、この絵。現物を見たことが無いのに、よく書けたものだ。
まるでそこに存在するかの様な立体感とチョークで書いたとは思えないような生々しい色使いはどうだ。彼が漫研出身というのは、本当らしい。どんな漫画を描いていたのかは、想像に難くない。
狩野が席を立ち、黒板に向かってもみはじめた。
「す、すげえ! まるで本物みたいだ!」
すげえよ、お前。本物のバカみたいだよ。
鬼塚先生も満足げに何度も頷き、ドヤ顔で気持ち悪い笑顔を満開に咲かせた。
いつの間にか、1年B組の教室は鬼塚英二画伯の個展部屋に様変わりしていた。
「す、すごい、まるで本物みたいだ!」
誰だよ、ボケ。と思ったらいつの間にか教室に忍び込んでいた校長だった。
「鬼塚くん、君は世界を狙える男だよ。やはり、私の目にくるいはなかった!」
がっちりと握手する担任と校長。ここは畜産農場だったのだろうか? 本当の意味でこの学校はブタ箱なのかもしれない。
しかし困った。全然HRが進まない。今日の議題は文化祭の出し物を何にするかであったのだが……。
「えーと、向井くん。文化祭で何がしたい?」
とりあえず、隣で3Dメガネをかけて黒板を眺めていた向井くんに意見を求めてみた。
「メイド喫茶かな」
メイド喫茶……と。
「有田、得意な料理は何?」
JTTのメインボーカル。有田にも意見を求めた。
「うどんですわよ、うふふ」
うどん……と。
ちょうどチャイムが鳴って、ホームルームこと鬼塚英二画伯の個展が終了した。
僕は文化祭の記入用紙に、メイド喫茶:うどんと書いて担任に手渡し、そこでやっと気が付く。
うちの学校の1年生は模擬店ではなく、舞台で演劇や、何らかのパフォーマンスを催さなければならないのだ。
だが、気が付いたときにはすでに遅く、担任の姿はそこになかった。
後に、僕らは体育館の講堂でエプロンドレスに身を包み、うどんを売ったことで原海高校の伝説となった。
通称『冥土喫茶』である。




