表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

千八百年後に生まれ変わったけど、結局何も起こらなかったお話

作者: にしはじめ

主人公が千八百年後の世界に生まれ変わったお話です。



 宇宙歴元年、西暦で表すとちょうど三千年。

 宇宙大開拓の時代だ。


 地球人類は西暦二千三百年に、ようやく火星への本格的な調査や資源発掘が可能となった。

 その時、まさに青天の霹靂、とも言える物質を発見する。

 一定の周波数を当てると、数メートル瞬間移動する鉱石である。

 人類は狂喜した。

 その後百数十年をかけ改良に改良を重ね、ようやく宇宙船に搭載できた。

 当初は僅か数メートルという短い距離であり、しかも莫大なエネルギーを必要としたが、そこからの進歩は凄まじかった。

 発見してから二百年で、とうとう数光年を一瞬で移動できるレベルまで技術向上させた。

 それがワープ航法だ。

 ただし欠点もあり、必要なエネルギーもチャージする時間も莫大になった。

 そもそも宇宙船に乗せられるエネルギーには限りがあり、せいぜい数回ワープすればエネルギー不足に陥る。


 そして宇宙は限りなく広い。

 例えば我々が住む天の川銀河、この大きさはおおよそ十万光年とされている。光ですら、天の川銀河の端から端まで移動するのに十万年もかかるのだ。

 そしてお隣のアンドロメダ銀河まで二百五十万光年である。

 ちょっと近くの人が住めそうな惑星を調査しにいこう、となっても数十光年~数百光年の距離がある。

 たかが数光年では全く足りないのだ。


 更に人類は考えた。

 このワープ航法できる装置を大きくすれば、もっと移動距離伸ばせるんじゃね? と。


 そして生まれたのがゲートシステム。それをくぐれば何百何千光年先まで一瞬で移動できるものだ。

 大きい分必要なエネルギーも大きくなるが、それは近くの恒星のそばに、いわゆるどでかいソーラーパネルを置いてそこから供給できるようにした。

 逆に言えばゲートシステムは恒星の近くにしか設置できないという欠点はあるが、それでも飛躍的に距離を伸ばした。


 こうして徐々に人類は版図を広げていき、西暦三千年には地球国家を一つにまとめた地球連合国家が誕生した。宇宙歴の始まりである。

 地球という一つの小さな星に拘る必要がなくなったのが大きい。

 宇宙を見上げれば、それこそ無数に資源の取れる星がある。人同士で少ない資源を争う必要性がなくなったのだ。

 各国家ばらばらで探索を広げるより、共同したほうが有益という理由も大きい。




 こうして宇宙大開拓の時代を迎え、そして数百年が経過した。




=============================================================



「へいシリウス! 今何時?」

「なんですかその化石時代のような呼び方は? 今は銀河標準時間で宇宙歴八百三十九年四月十日の六時五十一分です」

「いや、この星の時間」

「ならば二十九時十五分です」


 宇宙は広い。

 人類は住める惑星を無数に開拓したが、当然惑星の公転周期も自転周期も地球とは異なる。

 一年が百日という惑星もあれば、六百日の惑星もある。

 もちろん自転速度も異なるので一日の長さも異なる。

 そもそも一時間というのは、地球が一周回るのにかかる長さを二十四で割ったにすぎないのだ。

 でもそれだと惑星ごとに時間が違うよね、困らない? ということで銀河標準時間が設けられた。

 つまり地球のグリニッジ標準時を全宇宙の標準時間として扱い、各惑星はこれに基づき暦を数える事になった。

 このため標準時間では四月十日朝の六時五十一分だが、この惑星では真冬でしかも夜である。

 あ、この惑星に四季があるのは地軸が傾いているためだ。当然傾いてないまっすぐな星は季節がない。



「何時まで地球に縛られるのかなぁ」 

「人類は地球の時間、つまり標準時間で二十四時間周期で活動するように進化してきました。三十時間や十時間で活動すると、体の不調が起こります」

「それは分かってるよー。いつ私はこの惑星の時間周期に慣れるのかなと」

「人類が本格的に宇宙へ進出して八百数十年ですが、たった千年も経ってない程度で生物が進化するはずがないでしょう。数万年、数十万年かけて進化するものです」

「気の遠くなる話だわ」


 私の問いに答えているのは家庭サポート用アンドロイドのシリウスだ。

 AIの進歩が著しく発展し、そしてほぼ人と変わらない、いや性能を見れば遥かに上回るアンドロイドを人類は作った。

 そして人類はアンドロイドに仕事を押し付けた。

 人がやるより遥かに効率的だからだ。

 ただし今ある技術を発展させ組み合わせて活用することはできるが、オリジナルの絵を描く、作詞作曲をする、など全く新しいものを作り出すようなクリエイターの仕事は出来ないという欠点はあるが。

 このため、多くの人が仕事をする機会はほぼ無くなった。

 ではどうやってお金を稼ぎ生活するのか?

 それは連合国家が年間十万米ドルを支給しているのである。あ、連合国家の通貨は米ドルです。

 十万米ドルってどれくらいかと言えば、日本円で一ドル百五十円だとしても年間一千五百万円の支給があるのだ。

 それだけあれば余裕で暮らせるし、また住むところも連合国家が用意してくれる。

 何せ人類の人口に比べ土地というか開発済みの惑星はたくさんあるのだ、余りまくっている。

 大開拓時代、調子に乗って手を出し過ぎた成果だ。

 テラフォーミングの難しい惑星ならば、衛星軌道上に巨大なコロニーを複数建設し、その中で住めるようにもなっている。

 そしてその惑星開発もコロニー建設も全てアンドロイドたちのお仕事である。我々はほぼ何もすることがなく、アンドロイドたちに食べさせてもらっている。

 おんぶにだっこ状態であり、これでは人類はアンドロイドの家畜ではないか、と叫ぶ人も一定数いる。

 しかし一度味わった怠惰から抜け出すのは非常に難しいし、これで生活も経済も成り立っている、という理由も大きい。



「朝ごはんはなに?」

「いつものメニューですよ。トーストとサラダに卵、それとホットミルクです」


 食事はオートで作られる。自動調理器があり、食材は勝手に地域毎にある各集積所から送られてくる。

 それらにかかっている費用も自動引き落としだ。

 またお金と言っても硬貨やお札といったものは既になく、全てキャッシュレスだけどね。


 人類が発明した三大技術の一つはワープ航法であり、もう一つがバイオテクノロジーだ。

 医療技術は元より、特に食料の生産技術が凄まじい。

 食材の細胞を急成長、膨張させ、わずか数日で大量の作物などを育てることができるのだ。更に野菜の細胞を肉類へと変質させる事もできる。

 植物の種一つあれば、数日でそこから五十個百個の作物が収穫できるのだ。その分土地も肥沃に改造する必要はあるし、適宜土地へ栄養素をばらまいたり、微生物などの調整も必要だけどね。

 これにより人類は食料不足から開放された。 


 ちなみに最後の一つが重力制御技術である。惑星ごとに重力は当然異なるが、この技術で地球とほぼ同じ重力下で生活できるようになった。



「毎日毎日同じので飽きたー。たまにはお魚食べたい」

「では夕食は魚の献立にしましょう。何がよろしいですか?」

「お寿司……いやまて、マグロの漬け丼を豪快に頬張りたい!」

「卵も乗せますか?」

「とうぜんっ! 黄身だけね、それと刻み葱にゴマ。あ、ワサビは抜きで」

「承知しました。そのように設定しておきます。では朝の散歩に行きましょう」



 どこの家にもある仮想ルームへとやってきた。


 ここは室内全体をホログラムで地球や他の惑星の綺麗な景色を映し出すことができる。

 中央に立った人が動くとそれに連動して周囲の景色も動く。ただ床は可動式になっているので、実際にはそこから動いてはいない。

 更に人工的に風を吹かせたり、重力制御装置で鳥のように空を飛んだり、また飛んだり走ったりもできる。

 家の中にいるのに、リアルで散歩している気分になれるのだ。

 運動不足の解消ということで、毎日数キロの散歩をしているが、これを使ったコミュニケーションも可能である。


 例えばパブリックな街を設定すると、他の家からそこへアクセスしている人が風景に映し出され、更に声も届く。

 触れることも可能だ。手のひらに疑似的な重力を作り、実際に握手しているような感覚にもなれる。

 つまり雑多な街中を歩く、という事もできるし、見知らぬ他人とおしゃべりも出来る。


 更によくあるファンタジーなゲームで、剣を持って敵を切ったり、魔法的なもので攻撃したりといった事も可能だ。

 この仮想ルームが普及し、いくつものコンテンツが作られてきたが、いまだに人気一位なのがファイナルファンタズムというファンタジーRPGゲームである。

 中毒者は食事とトイレ以外、全てこのゲームにずっと接続しているらしい。寝るのもゲーム内の宿屋だそうだ、すごいね。

 リアルというか実際は床に寝てる形になり、布団さえ無い状態のはずなんだけど。空調効いているから風邪は引かないだろうし、そもそも風邪なんて一瞬で治療可能だから問題ない……のかなぁ?


 なおコンテンツに同時接続できる範囲は三十AU程度の距離までとなっている。それ以上遠いとラグが発生するからだ。

 ちなみにAUは天文単位であり、太陽から地球までの距離を一AUとしている。

 大体三十AUで太陽から海王星までの距離なので、太陽系程度の広さであればラグがなくリアルタイムで通信可能だ。

 あちこちにゲートを作り、電波を一瞬の遅れなく届けているらしいよ。


「一時間経過しました。水分補給しシャワーを浴びてから休憩を取り、そのあとお勉強の時間です」


 景色を楽しみながら散歩していると、あっという間に時間が経った。

 ちなみに私が散歩で選んでいるコンテンツは二十一世紀の日本の東京だ。

 なぜかって?

 そりゃ、私がそのころの記憶を持ったまま生まれ変わったからだ。

 もちろんこの科学の進んだ現代で、そのような与太話は受け入れられないから、誰にも話してないけど。


 そして現在は宇宙歴八百三十九年であり、私が生きていた頃より千八百年以上未来だ。二十一世紀の東京の街並みという完全なコンテンツを作れるだけの情報は無い。

 ただ当時のデジタルデータは残っているので、それを元にシミュレーションし復元されている。どこかの大手検索サイトのストリートビューとかかな?

 このため車が走れるような道路沿いは割と正確に再現されているけど、狭い路地など入れないところは笑っちゃうくらい適当になっているし、更に録画した日付にも年単位で差がある。

 例えばこの道は西暦二千二十五年に録画したが、この曲がり角から先はそれより三年前ということもあるので、当時住んでいた記憶とはバラバラな配置にもなっている。

 まあ二千年近く前の街並みだ。数年くらいの差は十分誤差に含まれるだろう。

 逆にここまで再現しているのが凄いとは思う。


「ふー、汗かいてたし、さっぱりしたわー」


 東京の街並みコンテンツは七月下旬の昼くらいを選択したけど、当時の天気予報情報を元に気温なども再現しているので、歩くと結構汗が出ていた。

 そういやあの頃ってやけに猛暑が続いてたなぁ。

 シャワーを浴びて着替えると、非常にすっきりとした。


 カプセル風呂というものがあり、この中に全裸で寝て起動すれば一瞬で除菌やら洗浄を終わらせることもできるが、やはりお湯で洗うと気分的にもすっきりする。



=============================================================



 朝の運動が終わると、次は勉強である。

 場所は引き続き仮想ルームだ。何となく室内を高校の教室風に映像を変更している。こっちのほうが何となく勉強する気分になれる。

 生徒役は私で、教師役は家庭サポート用アンドロイドのシリウスである。


「このため、ここ三百年ほど人類の進歩はありません」


 今日の授業は歴史である。とはいってもそこまで正確に記憶する必要はない。

 だって腕に巻いてあるサポート端末があるので、それで調べれば済む話だからだ。

 それでも運動や勉強があるのは、単に堕落した生活を行わせないための国の措置である。

 もちろん強制ではないのでさぼる事もできるが、これをきちんとこなすことにより、年に支給されているお金が変わってくるのだ。

 ちゃんとすべてクリアすれば満額だし、さぼっていると最大半額くらいまで減る。

 ま、半額でも十分生きていけるので、ファンタジーゲームに夢中になっている人たちなどは完全スルーしているらしいけど。


「なんで?」

「何も発見されないからですね。現在の技術では、これ以上の向上は難しいでしょう」


 人類は今、まさに成熟期だ。働かなくても生きていけるし、しかも不自由なく暮らしていける。

 更に何かやりたいと希望すれば、大概望みは叶う。

 昔で言うアウトドアライクな事も可能だし、車も自転車やバイクもある。動力は石油じゃないし、運転もオートだけど。

 暇つぶしに家庭菜園がやりたいといえば、ちょっとした土地を提供してくれる。家庭菜園にそこまででかい土地はいらないし、庭の空いたスペースで十分だけどさ。

 ウィンタースポーツや海水浴なども可能だし、普通に会社で仕事したいといえば、仮想カンパニーで働くこともできる。

 会社で働くゲームなので、実際それによる生産性はないけどね。

 お仕事はほぼ全てアンドロイドが行っているし、仕事という名の遊びだ。

 ただしクリエイターな仕事は別だ。

 ヒットするかはともかく、何かしら新しいことを生み出し、それが国に認められればそれに応じたお金が支給される。


 また宇宙へ飛び出し、昔ながらのスペースオペラを体験したいという希望は、ほぼ叶えられない。

 現在人類の版図を広げる仕事を行っているのはアンドロイドたちだ。

 そこへ人間が乗ると、まず空気、食料、水が必要となってくる。

 アンドロイドにはそれらは不要だし、動力はいわゆるバッテリーがあるから長時間稼働可能で、しかも途中にある恒星でエネルギー補充も出来る。

 更に言えば百体のアンドロイドをのせ、数体だけ稼働し残りをスリープモードにしてローテーションで運用することで、バッテリーの節約もできる。

 人間が乗ればデメリットしかないからだ。


 版図となっている範囲内の旅は可能だけどね、でもそれは単なる旅行だ。

 それに実際宇宙へ飛び出したとしても、ほぼ何もないのだ。スペースオペラどころか、宇宙船内で毎日寝て起きてを繰り返すだけらしい。

 それを何年も、場合によっては何十年繰り返す。

 それなら私は家で寝てるわ。



=============================================================



 昼食を取った午後からは自由時間である、何をしててもいい。

 私は大抵仮想ルームで二十一世紀の日本の風景コンテンツで散歩している。

 東京だけでなく、京都や大阪、名古屋など。冬の北海道で雪まつりっぽいのを見学したりもしている。


 うーん、前世引きずってるなぁ。


 そういえば恋愛とか結婚とかの話。

 まず出会いは仮想ルームのパブリックコンテンツに入って、他人とコミュニケーションを取る、くらいしか無い。

 外に出ないし、出る必要もないからだ。

 アウトドア趣味で外に出ている人もいるけど、別に仮想ルームでも同じことできるからね。

 本当に出会いってのがないのだ。


 では子供、つまり人口はどうやって増やしているのか?

 それは体外受精、である。

 同意書にサインすると、夜中に精子卵子を摘出され、それで勝手に作られるのだ。私もこのケースで生まれた。

 むろん愛がない、という理由で実際に結婚して子作りする人もいるが、殆どの人はこの方法だ。

 体外受精で生まれた子は、だいたい一歳児くらいまで保護施設で過ごしながら、様々なエイジング措置や予防接種、また各種登録と住処の割り振りが行われる。

 それが終わると、家庭サポート用アンドロイドと、住居を配布されてそこで暮らしていく。

 このため実際の両親の事は全く知らない。

 情報は公開されているので、調べようと思えば簡単に調べられるが、向こうとしても実際に生んだ訳でも育てた訳でもないので、あーそうなんだ、程度だろう。

 私も別に気にならない。

 気になる人もいるけど大抵好奇心からであり、せいぜい連絡を取って仮想ルーム上で一度会う、くらいしかしてないらしい。


 親は無くとも子は育つ、っていう事かな。


SF書こうと思い設定考えてたら、なぜかこうなってしまいました。

当初色々設定考えて、なんか超性能の良いアンドロイドもいるよねー、とか思ってたら

あれ? じゃあ、人間働かなくてもよくね?

となり、変な内容となってしまいました



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
人間は群れる生き物なので、暇だと変な団体がいっぱいありそうだなぁと思いました。でも未来を生きる人が幸せで、不自由なく暮らせる、そんな未来が来たらいいなとこの話を読んで思いました。
もしそうなるとしたら”物思いにふける人”は確実に少なくなっているよね。そうならないでほしいな。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ