第三話
王都アウレリアの冒険者ギルドは、いつも以上の賑わいを見せていた。掲示板の最も目立つ場所に貼られた依頼書に、冒険者たちが群がっている。
「おい、見たか?これ」
「ああ。まさか『氷の賢者』が指名手配されるとはな」
「しかも、懸賞金がすげえ額だぞ…一体何をやらかしたんだ?」
ワイバーンを単独で討伐したことで、晴れて冒険者として登録されたルークは、この街ではちょっとした有名人になっていた。その彼が、なぜか王室から指名手配されているというのだ。
「ルーク君……。一体何したの?……」
受付のリナは心配そうに眉を下げていた。隣のセレーナが冷静に言う。
「王室からの依頼ですから、きっと何か理由があるのでしょう。とはいえ、ルーク君が何か悪いことをしたとは思えません」
その頃、ギルドで僕のことが話題になっている頃、僕は、王都から少し離れた街道を歩いていた。
今回の依頼は、街で需要が高まっている薬草を採取すること。難易度は低いが、堅実に稼げるため、駆け出しの冒険者にはちょうどいい依頼だ。
「ふぅ……」
木陰で一息つくと、アイテムバッグから取り出した水の入った水筒を口にした。
「なんだか、街中が騒がしかったけど、何かあったのかな?」
ワイバーン討伐で注目されたことは嬉しかったが、騒がしいのは性に合わない。こうして静かな場所で依頼をこなす方が、僕にとっては性にあってる。
「なんか、ほっとするな〜」
「きゃー!」
と、その時だった。遠くから、何かを蹴散らすような音と、子供の叫び声が聞こえてきた。
「なんだ!?」
僕は音のする方へと駆け出した。そこには、馬車がウルフの群れに襲われていた。一人の商人さんが慣れない剣を振り回している。
少女が、恐怖で泣き叫んでいた。
「ええい、リーリア後ろにかくれとき、おとんがまもったるさかいな……!」
僕は商人の前に飛び出た。僕が飛び出た。
「大丈夫、任せて!」
僕は迷わず杖を構え、ウルフの群れに向かって氷魔法を放つ。
「氷の槍よ!」
鋭い氷の槍がウルフの急所を的確に貫き、瞬く間に数匹を仕留めた。残ったウルフは、その光景に怯え、一目散に森の中へと逃げ去っていく。
「よかった」
商人さんは突然現れた僕に目を丸くしている。
そりゃ、そうだよね。
「怪我はありませんか?」
「え、ええ……おかげさんで、助かりましたわ…えっと、あんさんは?」
「ぼく、ルークって言います。冒険者やってます」
「そうでっか、お若いのにええ腕してらっしゃいますな」
女の子は、まだ恐怖で震えているらしいけど、僕を見ている?
胸に光る雪の結晶を模った賢者も紋章を見ているらしい。
僕がワイバーンを討伐したという噂の『氷の賢者』であることを知っているのかな?
「ひょっとして氷の賢者様ですか?」
なんか、師匠以外に言われると、照れるね。
少し照れくさそうに頭を掻いた。
「えっと……そうだけど。君たちは、何でこんなところに?」
商人さんが深々と頭を下げた。
「あては、マルティーニ商会のバルトロメオ言います。こっちは娘のリーリアです。王都行く途中で魔獣に襲われてしもて……ホンマに命の恩人ですわ!おおきに、おおきに!!」
「いいえ、困っている人を助けるのは冒険者の務めですから、気にしないでください。」
僕はそう言いながら、あたりに散らばった薬草をアイテムバッグに詰め始めた。
これは、僕がもらっていいんだよね。
「それにしても、護衛は雇っていないんですか?」
あ、声に出ちゃった。
バルトロメオさんは、俯き加減で
「魔獣が出た途端逃げてもうてな・・・」
「逃げた〜?あんなよわっちぃウルフ如きに〜?」
「ほんまやで。護衛料をけちったばかりに・・・って、ウルフでっせ?弱くないですよな」
「そうですか、それは災難でしたね。。」
いいながらひょいひょいっと、落ちた薬草を、アイテムバックに入れていった。
「あの、そちらの薬草は、よかったら、わてらが買い取らせもうろうても……」
「えっと、これはギルドの依頼なので……」
「ほうでっか、でもギルドへの報酬とは別に、ちゃんと買い取り額をお支払いしまっせ!それにな我がマルティーニ商会なら、ギルドよりも高く買い取ることができますよってな!」
バルトロメオさんの目には、明らかな商売人の光が宿っていた。
「あなた、ルークっていうの?うちリーリア、あなたと同じ7歳よ!で、なんでそんなん強いん?」
ルークは、初めて会った同年代の女の子からの質問に、どう答えていいか分からず、言葉に詰まってしまった。
「えっと……それは……」
「ルークはん、よろしければ王都まで送らせていただきません?もちろん、そのお礼として、ご馳走しまっせ」
ナイスです。バルトロメオさん。
僕は、少し迷ったけど、差し出された善意を無碍にすることもできず、頷いた。
「お礼はいいですよ、でも、同行は承知しますよ」
まだ、ウルフが出るかもだしね
≪やった、おとん、ナイスや≫
こうして、僕は王都へ戻ることになった。なぜか、僕にピタッと寄り添ってきたリーリアちゃん。うん気丈に見えても女の子、怖かったんだろうな。
街では、僕の知らないところでとんでもない騒動が巻き起こっていること後でしることになった。
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