第二話
王都アウレリアの王城の一室。妹のエリスは、豪華な椅子に座り、身を乗り出すようにして私に語りかけていた。
「ねぇ、お姉様!聞いてる?聞いてますか?本当にすごかったのです!」
エリスの瞳は、まるで宝石のように輝いている。彼女はワイバーンに襲われた恐怖をすっかり忘れ、ひたすらルーク様の活躍を自慢したくてたまらない様子だった。
「ええ、もう何回聞いたかしら?」
私はにこやかに答えながらも、少し大げさな身振り手振りで話す妹を微笑ましく見つめていた。私にとって、妹が無事に戻ってきたことが何よりの喜びだった。
「だって、本当に信じられないくらいすごかったんだもん!あのね、ワイバーンに捕まっちゃったの」
「ええ、知ってるわ。ワイバーンを倒したのが、たった7歳の賢者様だって話も、もう何度も聞いたわよ」
私はクスクスと笑いながら、エリスの髪を優しく撫でた。
「そう!その賢者様が、ルークって名乗ってたの、本当にカッコよかったんだから!」
エリスは興奮気味に、その時の様子を再現するように両手を広げてみせた。
「ワイバーンが火を噴いたんだけど、ルークはぜんぜん怖がってなくて、杖を構えたら、バーンって!氷の魔法がワイバーンに当たったの!ワイバーンが怒って襲いかかってきたけど、ルークはスイスイって避けて、全然当たってなかったんだから!」
「ふふ、まるでおとぎ話のの英雄様ね」
「そうなの!まさにルーク様は、私の王子様!英雄様。そしてね、ワイバーンがまた火を噴いたんだけど、今度はなんだか変な氷の魔法で、ワイバーンが動けなくなっちゃったの!ルーク様は全然汗もかいてなくて、本当にクールだったんだから!」
「あら、クールなのはルーク様が『氷の賢者』だからかしら?」
私のからかいに、エリスは頬を少し赤らめた。
「もう!お姉様ったら!それでね、ルーク様が私の鎖を氷の魔法で壊してくれて、その時に『大丈夫だよ』って言ってくれたの!とっても優しい声で、私の心臓がドキドキしちゃった!」
「なるほど、それは素敵ね。それで、王子様はエリスにどんな言葉を?」
「えっとね、『もう大丈夫だよ』って言ってくれたの!」
エリスは両手を胸の前で合わせ、夢見るような表情で語った。私は妹のあまりの乙女ぶりに、笑いをこらえるのに必死だった。
「そう。でもね、エリス。ルーク様は、私たちと同じように身分を隠していたのよ?」
「え?そうなの?」
「そうよ。私たちのために尽力してくれたのだから、きちんと感謝を伝えなくちゃね。もしかしたら、ルーク様は、エリスのことが心配で、ずっと守ってくれていたのかもしれないわ」
「そうかな!そうだといいなぁ!」
エリスは満面の笑みで答えた。彼女にとって、ルークはもうただの恩人ではない。憧れの存在であり、心を奪われた相手なのだ。
それにしても、いつ誰が、どんな目的でエリスを攫ったのかしら、しかも、誰にも知られずに
その時、部屋の扉がノックされ、侍女が顔をのぞかせた。
「アメリア様、エリス様。国王陛下がお二人をお呼びでございます」
エリスは目を輝かせた。
「もしかして、ルークのことかな!?お父様とお母様にも、ルーク様のすごさを話さなくちゃ!」
私は妹の純粋な姿に、再び微笑んだ。そして、少しだけ真剣な表情を浮かべた。
「ええ、そうね。でも、ルーク様がどんな人なのか、ちゃんと見極めなくちゃね」
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