第十六話
ちっちゃい賢者 第十六話
舞踏会の会場は、ルークとエリスのファーストダンスによって、一時的な静けさに包まれていたが、すぐに活気を取り戻した。エリスはルークの手を引いて、国王一家が座る席へと向かった。
「お父様、お母様。わたくしの英雄様です」
エリスは誇らしげに僕を紹介した。国王アウグストゥスは温かい眼差しでルークを見つめ、王妃ソフィアは僕の手を優しく握りしめた。
「ルーク様。そなたのおかげでエリスが無事に戻れたこと、感謝してもしきれない。本当にありがとう」
「いえ、当然のことをしたまでです」
ルークは慣れない貴族の作法で返事をした。
続いて、第一王子レオンハルトとその婚約者、そして第一王女アメリアと彼女の婚約者がルークに挨拶をした。
「ルーク殿。そなたの勇敢な行い、レオンハルトとしても、兄としても、心から感謝する。」
「恐れ多いことです」
「なに、これからは、兄と思ってくれていいのだぞ」
「え?」
「エリスと一緒になるのだからな、俺のことは本当の兄だとおもってくれていいぞ」
「え、そんな」
「お兄様、まだ、気が早いです」
「はははは、いいじゃないか。エリス」
アメリアはルークの頭をくしゃくしゃに撫で、
「エリスの英雄様が、こんなに可愛いなんて、ねぇ?エリス放しちゃだめよ」
「ルーク、エリスをよろしくね」
一連の挨拶が終わり、ルークをめぐるわだかまりは完全に解け、和やかな雰囲気に包まれた。
しかし、その和やかな空気は長くは続かなかった。
「おい、見たかよ。平民のガキが王女殿下と踊るなんて、身の程を知らないにも程がある」
「まったく、王族の方々もどうかしてるぜ」
そんな貴族たちの不平が、ルークの耳にも届いた。国王とレオンハルトがその言葉を耳にし、彼らを諌めた。
「無礼な!客人に対して、そのような発言は慎め!」
「エリス王女殿下は、ルーク殿に命を救われたのだ。その恩人に敬意を払うのは当然であろう。それにルーク殿は賢者の称号をいただいている、これは子爵に相当する称号であるぞ」
「あ〜、そうそう、ルークにはこののち王女を救った功績により、伯爵に陞爵することが、貴族院で決まっておる。みな、無礼のないようにな」
国王とレオンハルトの言葉に、貴族たちは黙り込んだ。しかし、納得のいかない様子で、顔を顰めていた。
「はははは、陛下も殿下も冗談がお上手ですな」
その中の一人、ふてぶてしい顔つきのボンレス伯爵令息が、五人ほどの取り巻きを引き連れてに現れた。
「おい、平民。王女殿下に色目を使うのはやめておけ。お前のような身分の低い者が、王女殿下に近づくなど許されることではない」
「エリス王女殿下は、貴族の婚約者となるべき存在だ。お前のような平民が、しゃしゃり出る場所ではない」
僕は冷静を保ち、返事をしなかった。
僕の心は決まっているのだ。
一緒にいてくれる、エリスの手をぎゅっと握る。
(エリスを誰にも渡すもんか)
「フン、聞く耳も持たないか。それならば、この場で決着をつけてやろうじゃないか」
ボンレス伯爵令息は、右手の手袋を投げつけてきた。これは決闘を申し込みだ。
「俺に勝てたら、王女殿下をくれてやる。だが、お前が負けたら、二度と王女殿下に近づくな」
「何を……!」
ボンレス伯爵令息の言葉に、怒りがこみ上げてきた。
「くれてやるって、なんだよ。まるで自分の物みたいに、エリスは僕の大事な人だ、お前なんかに渡さない!」
「エリスに対する侮辱するような発言、取り消してもらうからな!」
「ルーク様」
ほんとに腹がたった。ボンレス伯爵令息の決闘の申し出を承諾した。
「分かった。お前たちとの決闘、受けて立つ!」
こうして貴族令息たちの決闘が、舞踏会の場で始まることになった。




