第十話
王都アウレリア近くの街道が、なんだか騒がしい。
「聞いたか?街道にドラゴンが出たらしいぞ!」
「マジかよ!こないだ討伐に出たパーティーが、何人か怪我して帰ってきたって話だぜ」
「ドラゴンか〜、一度見てみたいな。あ、リナさんこれお願いします」
「ルーク君、今日は薬草採取?最近、ドラゴンの噂もあるから、気をつけてね」
ドラゴンってどんなんかな。一応用心しているけど、なんかわくわくしてきちゃうよね。
「ここら辺の街道に出るって、聞いたけど・・・いないな〜」
「ドラゴン……目撃された、ドラゴンは、この世界の物と違う気がする」
そういえば、アイテムバッグに入っている、「世界のドラゴン図鑑」を取り出した。図鑑に載っているどのドラゴンにも、今回の目撃情報とは合致しないみたい。
目撃によれば、白い鱗に覆われた、体は蛇のようにながく、先が見えない。顔は獅子のような威厳あるたてがみと、鹿のような角、そして長い髭があるらしい。
「・・・まんま、神龍じゃん。」
(もし本当にドラゴンなら、もっと大きな被害が出ているはずだ。怪我人が軽傷なのは、もしかして……)
そう考えていると、街道の真ん中に、巨大な影が立ちはだかっているのが見えた。
あれ?いつ、こいつはここにきた?
少なくとも気配はなかったのに、いまは、存在感がはんぱない。
「うわあぁぁぁぁぁ!ドラゴンだぁぁぁ!」
通りかかった商人が悲鳴をあげ、馬車を乗り捨てて逃げ出していった。
そんなに慌てなくても。いいと思うんだよね
僕は、その巨大な影をじっと見つめた。それは、確かにドラゴンの姿をしているけど。
「君、ドラゴンじゃないよね?」
そう話しかけると、ドラゴンは驚いたようにピクリと耳を動かした。図星かな?
「グルルルル……」
ドラゴンは威嚇するように唸り声をあげたが、その声にはあまり迫力がないね。
「そんなんじゃ、誰も怖がってくれないよ」
ぼくは少しずつ、ドラゴンに近づいた。「ねぇ、どうしてこんなことをしているの?」
「……」
ドラゴンは、何も答えない。しかし、その瞳には、ほんの少しの悲しみと、怒りのような感情が見て取れる。
「氷壁」
パキパキとドラゴンの周りに、地面に氷の壁ができていく。これで、外からは見えなくなる。
「僕が君を助けてあげる。だから、僕に話してくれないか?」
ドラゴンは涙を流した。そして、氷の壁に、自分の爪で何かを書き始めた。それは、この世界の文字ではなかった。
「これは、日本語?君は転生者なのか?」
日本語。それは、この世界には存在しない、僕の前世での故郷の文字だった。
「君は……キツネなんだね?」
そう尋ねると、ドラゴンは頷いた。
そして、その巨大な体は、みるみるうちに小さくなり、一匹の小さな雪キツネへと姿を変えた。そのキツネの瞳は、悲しみと怒りにやどっている。
「どうして、そんな姿に?」
僕は出来るだけ優しく問いかけると、雪キツネは地面になにか書き始めた。
「人間に……いじめられた……かばってくれた、おじいさんが殺された、ぼくは・・・復讐した。気がついたら、ここにいた。ご飯が欲しくて、人を脅かした・・・みな、食べ物置いて逃げっちゃうから」
「キツネの姿だと、人間に石を投げられたり、悪口を言われたり・・・」
巡り合わせなのかな?
「だから……ちょっとだけ、懲らしめてやろうと思ったの……ごはんも食べて一石二鳥」
「わかった。君の気持ちは、僕もわかるよ。でも、こんなことをしても、君の心は晴れない」
「……じゃあ、どうすればいいの?」
「僕と一緒に、街に行こう。僕が、君のことをみんなに話してあげる」
キツネは、僕の言葉に驚いた表情を浮かべた。
「でも……また、いじめられるかもしれない」
「大丈夫。僕が君を守る。それに、君のことを理解してくれる人も、きっといるはずだ」
キツネは頷いた。
「そうだ、名前をつけないとだね、ゴンってのどうかな?」




