第一話
「冒険者ギルド、アウレリア本部、・・・ここですね」
こんにちはルークと言います。この間七歳になりました。ここはクローレンツ王国、王都アウレリアにある冒険者ギルドの建物です。僕は背伸びをして大きな木の扉を見上げた。五歳で魔法学院に入学、六歳で難関の賢者試験に合格し、氷の賢者という称号を得たんですが、この通り正直小さい子供です。中々皆に認めてもらえません。そこで一念発起して冒険者になることを決意し、遥々この王都までやってきたんだ。
意を決して扉を開けると、中は活気に満ちた冒険者たちの声と、酒場の喧騒で騒がしいです。ちょっとびびってしまいました。屈強な男たちや、女戦士たちが鎧や武器を身につけ、談笑したり、掲示板の依頼書を眺めたりしている。周りの人たちと比べると、その中で僕はひときわ小さい。同年代でも小さい方だったし。
シュンとしている場合じゃない、僕は冒険者になるんだ!
受付には、愛想の良い笑顔の女性が座っていた。胸の名札にリナって書いてある。
「あら、坊や、一人?それとも迷子かな?お父さんか、おかあさんは?」
ルークは背筋を伸ばして言った。
「僕は、冒険者登録をしに来ました!」
リナは目を丸くし、隣の受付の女の人と顔を見合わせた。眼鏡をかけた知的な人だと思った。セレーネさんっていうらしい。スタイル良くてカッコいい。
「冒険者登録?君が?」
「はい!僕、氷の賢者でルークって言いましゅ!・・です」
噛んじゃった、恥ずかしいぃぃぃ。
顔が熱い、フルフルしていたら、首から下げていた賢者の紋章が、彼の小さな胸元で揺れて微かに光る。
セレーナは冷静な眼差しでルークを見つめた。
「氷の賢者ね……確かに最近最年少で賢者になったってニュースは、来ていたけど。その紋章は本物でしょうしね。だけど、ごめんなさいね、当ギルドでは13歳にならないとの登録は出来ないことになっているのよ。」
「ええ!?だって!師匠は、僕の実力なら大丈夫だって」
大きな声が出ちゃった。セレーナさんがびっくりしてるよ、とほほだよ。
でも、師匠は言ったんだよ、ルークの可愛さと実力なら大丈夫だって。
「僕は賢者になったんですよ!ゴブリンも倒せますよ、依頼もこなせます!」
ああ、なんかみんな見てる、恥ずかしいよ〜。中には、クスクスと笑ってる人もいる。
「なに?かわいい」
「冒険者になるんだってさ」
「ならしてやれよ、かわいいしな」
「ねぇ、ボク登録できたら、私と冒険しましょ♡」
「賢者様は賢者様でも、まだお子様でしょう?」
リナさんが困った顔をしている。
「冒険は危険がいっぱいですからね」
その時ギルドの奥から、重々しい足音が聞こえてきた。現れたのは、屈強な体格に厳つい顔つきのゴリラ、いや名札にオフィサーって書いてる下には、バートランドって書いてある。ギルド長みたいです。
「騒がしいな、一体どうした?」
リナさんが事情を説明すると、バートランドさんは、腕組みをして僕を見た。
「なるほど、賢者様がか。しかし、ギルドの規約は規約だ。子供に危険な真似はさせられん」
「じゃあ、僕が本当に強いって証明したら、登録してもらえるんですか!?」
バートランドさんは顎を撫でながら、ニヤリと笑った。ゴリラって笑うとこんな顔になるのかな?
「ほう?どうやって証明するというんだ?」
「……これ、言ってきます。」
僕は依頼の掲示板から、ワイバーンの調査の依頼書を、バンっと机に出した。
ギルド全体が静まり返った。ワイバーンは、並の冒険者パーティーでも苦戦する強大な魔物だ。それを七歳の子供が単独で討伐するなど、誰もが信じられないらしい。
大丈夫!師匠に連れられて、ワイバーンの討伐は、経験済みだから、後で撮った卵も美味しかった。
あの時は、死ぬかと思った。
バートランドは豪快に笑い出した。
「ハッハッハ!良い度胸だ、小僧!もし本当にワイバーンを倒して証拠を持って来たら、ギルドへの登録を特別に考えてやろう!」
「ありがとうございます、さっそく行ってきますね」
周囲の冒険者たちも、面白がって囃し立てた。
「おいおい、本気かよ!?」
「無茶苦茶すぎるぜ!」
僕は彼らの言葉を背に、ギルドを飛び出した。
「覚えててください!必ずワイバーンを倒して、冒険者になってみせます!」
アウレリアの街を抜け、数日後。僕はワイバーンの棲むとされる険しい山岳地帯に足を踏み入れていた。前世の知識と、この世界で磨いた魔法を駆使し、氷縛の罠を仕掛け、ワイバーンの巣へと近づく。
み〜つけた。鋭い爪、強靭な鱗、そして口からは恐ろしい炎が立ち上る。その威圧感に一瞬怯んだものの、覚悟を決めて杖を構えた。
(ビビるな、僕はできる!)
「氷よ、我が手に!」
得意の氷魔法を連射し、ワイバーンの動きを封じよう魔法を繰り出す。しかし、ワイバーンの炎は氷を 易々と 溶かし、その巨体からは想像もできないほどの速さで襲い掛かってきた。
冷静にワイバーンの動きを分析する。賢者たる者は常に冷静でなくっちゃね。風の流れ、熱の動き、そしてワイバーンの僅かな隙を見逃さない。
「そこ!」
渾身の力を込めて放った氷の槍は、ワイバーンの翼の付け根を捉え、巨体を大きく傾かせる。その隙を逃さず、さらに強力な氷結魔法をワイバーンの足元に叩き込んだ。
みるみるうちに、ワイバーンの巨大な氷塊に閉じ込められていく。咆哮を上げるワイバーンに、止めの一撃を放とうとした、その時だった。
ワイバーンの巣の中から、小さな啜り泣く声が聞こえた。
「人の声?」
覗き込むと、そこには汚れているが高価そうな生地のドレスを身につけ、怯えた様子の少女が拘束されていた。歳は僕と同じ、いや少し上か?
錘のついた、鎖が足首についている。
「助けて……」
少女はか細い声が聞こえてきた。
「もちろん、動かないでね」
僕は、少女を拘束している鎖に氷魔法を当て、粉々に砕いた。少女はワイバーンに生贄にされていたのだ。
自由になった少女は、縋り付いてきた。すごく、震えている。
「ありがとう……」
「僕はルーク、もう大丈夫だよ」
僕は、ぎゅっと彼女を抱きしめてあげた。そして優しく微笑みかけた。僕も師匠にこうされると安心したからだけど、なんか、彼女の顔が真っ赤になっている。そしてそれを隠すように、僕に顔を押し付けてきた。
ワイバーンが拘束を逃れた片方の翼を振り上げ、ルークに向かって薙ぎ払ってきたのだ!
「アイスバインド!」
ワイバーンを拘束すると、僕は彼女を抱えたままその場を飛び退いた。
「まだ動くか」
ワイバーンは、ギシギシと戒めを解こうとしていた。
「すごい、力だけど、これでおしまいだよ。アイスランス!」
氷の槍は狙い違わず、心臓のある部分に吸い込まれていった。
倒したと思うけど、念のために氷漬けにして、アイテムバックに入れておく。
「よし!」
見事、ワイバーンを単独で討伐した僕は意気揚々王都に帰還した。
王都の門番さんが、女の子を見ると最敬礼をして
「良くぞ、ご無事で」
いいとこの人なのかな?
でも、拘束されてたけど。
「あ、あの……私、エリスって言います。エリスって呼んでください。助けてくれてありがとうございます。ルーク様は命の恩人です!」
少女はルークを見上げ、そして、ぎゅっとしてきた。
(そういう時は、ちゃんとぎゅっとしてあげなさい)
師匠の声が聞こえた気がした。
優しくぎゅっとしてあげた。
彼女は、その瞳には、まだ恐怖の色が残っているけど顔は真っ赤になってた。
「君に事情を聞きたいのだが?」
門番さんがいた。かなり、恥ずかしいんだね、これって。
僕は、見たままの事情を話した。深く追求することされなかった。
彼女は、迎えに来たらしい、大きな馬車で帰っていった。帰る時、エリスより、年上の女性にお礼を言われたけど、後日また、挨拶に行きますって言われたよ。
「僕はいいですから、彼女を元気づけてあげてください、かなり参っているみたいですから」
「あら、ありがとうございます。では、お言葉に甘えますね、今日の所は失礼いたします」
一緒の馬車で、帰っていった。
元気になるといいけど。