9話 第一印象は不思議
4月も後半に入り、僕は闇ギルドのクソ上司からの圧力に胃を痛めることもなく、平和な日常を送っていた。
「───友だちカード?」
「うん、今流行ってるんだって。F組内で、だけど」
もうすっかり仲良くなったシャルファの席に近づくと、何やら小さめの紙に友だちカードと書いてあった。
しかも、左側には少し大きめの四角と、右側には好きなものや第一印象は?などといった文が書かれていた。
「これ、なんで名前がシャルファじゃなくてリュアなの?」
「⋯⋯ここに友だちカードって書いてあるよね?自分のことじゃなくて、友だちのこと書くんだよ」
「へー、じゃあここには何書くの?」
僕が左側の少し大きめの四角を指差して聞くと、シャルファは少し苦い顔をしてから答えた。
「その人の似顔絵を描くんだよ。俺ならリュアを描かなきゃいけないんだけど⋯⋯」
「⋯⋯描けないんだね」
「いや、描けなくはないよ?たださ、リュアのあの耳とか尻尾をどうやって描こうかと思って」
そんなの本人をみて描けばいいのでは?と思ったがシャルファが言うには、このカードは書き終わるまで本人には見せちゃ駄目らしい。
「友だちカードってその本人に渡したらどうするの?」
「え⋯⋯渡した人は自分のことこう思ってんだなぁ〜で終わりだけど」
「それだけ?」
「うん、それだけ」
え、思ってたよりしょぼい⋯⋯。シャルファがリュアのを書いてるってことは、リュアも誰かのを書いてたりするのかな。
「リュアも誰かのを書いてるの?」
「俺がリュアの書いて、リュアは俺の書いてんの。で、それを交換するのが楽しいんだって。ルツもやる?紙2枚あげるよ」
「⋯⋯ありがとう?」
シャルファから2枚の紙を受け取ったものの、僕にはこれを交換するような相手がいない。でもせっかくだし、やりたいなぁ。ただ、まずは交換してくれる相手を探すとこから始めないと。
⋯⋯誰かいないかな。こうやって友だちと流行りに乗るのも楽しいし、やりたいんだけど。
「⋯⋯誰かいないかな」
「ルツ?何持ってるのー?」
いた。僕と交換してくれるような相手。紙を持って自分の席に戻っていると、紙に興味を持ったミラフィが近づいてきた。ミラフィなら僕と交換してくれるかな。
「友だちカードだって。友だちについて色々考えて書いて、本人に渡すんだよ」
「へー!面白そうっ!私もやっていーい?」
「じゃあ、書いたら僕と交換しよ。この四角のとこには、その人の似顔絵を描くんだって」
乗り気になってくれたミラフィに紙を1枚渡すと、すぐに自分の席に戻って書き始めてくれた。
僕もミラフィについて書こうとするが、意外と難しい。名前とかフルネームわかんないし、ミラフィだけでいいのかな。
〔その人の名前は?〕
・ミラフィ
〔その人の年齢は?〕
・16歳
〔その人の誕生日は?〕
・4/15
ミラフィは誕生日が4月15日で、この間迎えたばかりなのでもう16歳だ。このあたりは簡単なのだが、問題は次の質問。何書けばいいんだろ、これ。
〔その人の第一印象は?〕
〔その人の好き(そう)なもの、ことは?〕
〔その人の長所は?〕
まっっっっったくわからない。第一印象は⋯⋯まあ、元気って書けばいいでしょ。でも好き(そう)なものやこと、ミラフィの長所かぁ。
貴族に喧嘩売る無鉄砲さや魔力過多症は長所じゃないだろうし、好きそうなことでもないだろうな。
貴族に喧嘩売ることが好きだったら、ちょっと引く。あのミラフィでも、流石に好きでやってるとは思えないし。
⋯⋯あ、でも人とよく話してるかも。一人でいるとこ、あんま見たことないしなぁ。もしかしたら、誰かと話すことが好きなのかもしれない。
長所は⋯⋯まぁ、間違いなく前向きなところだろうな。貴族に喧嘩売ったり、キシトウで暴走したのにそこまで落ち込んでいるように見えないし。すっごい前向きだと思う。
〔その人の第一印象は?〕
・元気
〔その人の好き(そう)なもの、ことは?〕
・誰かと話すこと
〔その人の長所は?〕
・前向きなところ
後は⋯⋯似顔絵か。僕もシャルファと同じで絵は上手な方じゃないし、なるべく本人を見て特徴を捉えて描けるようにしよう。
シャルファはあぁ言ってたけど、要は本人に見せなきゃいい話よ。似顔絵って普通は、その人を見ながら描くものだろうし。
右側を書き終えた紙と、魔法学の分厚い教科書を持って、ミラフィの席へと向かう。僕の事を一生懸命考えて書いているミラフィの姿は少し面白かったけど、僕の名前の欄にルツ・シュヴァルツって書いてるのはちょっとよくわかんない。
僕、そんな名前じゃないし、誰だよそいつ。後、ちょっと語呂いいのやめてほしい。顔には出してないけど、腹筋がプルプル震えてて、今にも死にそうだ。
「ミラフィ、ちょっと顔貸して」
「か、顔?耳とかじゃなくて顔?⋯⋯が、がが顔面剥ぎ取ればいいの⋯⋯?」
「何か変なこと言ってるけど、こっち向いたままその紙書いて」
「ルツのほうが変なこと言ってない?めっちゃ、難しくない?それ」
名前はとりあえず見なかったことにして、ミラフィの席の前に立つ。持ってきた魔法学の分厚い教科書を支えにして似顔絵を描くが、まっすぐ描こうとしても線がブレてしまう。
ん〜、意外と難しいな。黒髪のポニーテールはまだ描きやすいけど、顔をどうやって簡略化して描けばいいのかわからない。もう点を3つ打つだけとかじゃだめかな?描けないんだけど。
「ミラフィの顔すごくむずい。簡単になって」
「えー?無茶なこと言ってる自覚ある?ルツ、結構すごいこと言ってるよ?」
「ミラフィの顔が難しいのが悪い。僕は悪くない」
僕が不貞腐れてそう言うと、ミラフィはくすっと笑った⋯⋯あ、今の顔描きやすいかも。
笑った目を棒にしてしまえば、開いている目を描くよりも描きやすい。できればその顔のまま止まってくれないかなぁ。
「────うん、上手く描けた気がする」
笑った時の目の細さとかすごい自信ある、ただの棒線引いただけだけど。それでも、リュアの耳と尻尾を描かなきゃいけなかったシャルファよりは、上手い自信がある。
「じゃあ、今度はルツがこっち見てー?」
「いいよ」
「じゃあ、簡単な顔になってー?」
「すっごく難しいこと言ってる自覚ある?ミラフィ」
「さっき、ルツが私に言ったことだよー!」
ミラフィがちょっとよくわかんない事を言うけど華麗にスルーする。ちょっと記憶にございませんね。何のことだろ〜?わっかんないなー。
「⋯⋯う〜、ほんとだ。人の顔を描くって難しいね!」
「でしょ?人の顔って難しいよね」
「───何やってるんだ?お前ら」
「あ、ラティス?」
「今ね、友だちカード?っていうのをやってるんだよー」
僕の後ろから人が近づいてくる気配がして振り返ると、そこには不機嫌そうな顔をしたラティスがいた。
いつものようにこちらを睨みながらも、この紙が気になるのか、僕ではなくミラフィの方を向いて尋ねる。
「ふ、ふ〜ん。で、その紙は誰が持ってるんだよ?」
「誰が持ってるの?ルツ」
「⋯⋯⋯」
最初は何しにきたんだこいつ、とも思ったが、なるほどな。ラティスも友だちカードをやりたかったんだろうなぁ。
⋯⋯⋯何か、申し訳ない気持ちになってきた。こっち睨みやがって、邪魔しにでも来たのか?とか思ってごめん。でも、僕のことを嫌いだと堂々と宣言した方にも問題はあると思うんだよ。
「僕はシャルファに2枚もらったよ。誰かに1枚渡してその相手と、カードを互いについて書いて、交換すんの」
「そ、そうか。教えて⋯⋯れて、あっ⋯⋯⋯わかった!」
「はーい」
ラティスが急に、シャルファの席のほうへと早足で向かった。もしかしたらさっき、教えてくれてありがとう、と言おうとしたのかもしれないが、結局は最後にわかった!って言っただけだったな。うむ、素直になれないものかね。
⋯⋯⋯いや、僕あいつに嫌い宣言されてるし、普通に無理か。というか、なんであいつに嫌われてるのか未だにわかんないままなんだけど。
「ラティス行っちゃったねー」
「そうだね」
「あ、ルツ。顔動かさないで、そのままそのまま」
「えー、面倒くさい」
「後ちょっとだから!」
ミラフィの言葉を信じて、顔をなるべく動かさないようにすること数分。ミラフィのちょっとは、普通の人からしたら、かなり長いことがわかった。
「────動かしてもいいよ!」
「やっと?なんかもう顔が固まっちゃった気がする」
「大丈夫だよ!いつものルツの顔だし!」
「え、何?いつもの僕の顔って表情筋動いてないの?」
嘘だぁ。流石にミラフィほどではないにしろ、自分では結構表情豊かな方だと思ってたのに⋯⋯今日で1番ショックかも。皆、真顔の僕といつも喋ってたってこと?え?マジで?
「ル、ルツー?さすがに嘘だよー?」
「ほんとに?」
「ほんとほんと。冗談言っただけなのに、焦った表情してたから、ちゃんと表情筋動いてるよー?ルツは表情豊かだよー?」
ミラフィがこちらの顔色を伺うように、机に座ったまま僕の顔を覗き込んでくる。マジで良かった、冗談で。やっぱり僕は表情な方だと思ってたんだよなー。
⋯⋯⋯昔、お前は顔に出すぎって言われて、闇ギルドのクソ上司に、何度も訓練させられたし。結局治んなかったけど。
あのときは本当に地獄だったと、最近は無いクソ上司の圧力を懐かしんでいると、ミラフィがカードを書き終えたのか、ペンから手を離す。
「じゃあ完成したし、友だちカード交換する?」
「そだね。はい、あげる」
「わーい!やったー!何か、ルツの字って感じがするー!」
「ちょっ、ミラフィ!あんまじっくり見ないで。というか、ミラフィが書いたのもちょうだい」
「えっゔぇ〜?」
「いや、その声どっから出してんの?」
僕がミラフィが書いたカードを欲しがると、何故かミラフィは何処からか変な声を出して、頑なに拒否する。
なんで?僕はカード渡したし、友だちカードってシャルファが言うには互いに交換するものなのに。
僕が疑問に思っていると、ミラフィは僕について書いた友だちカードを両腕で必死に隠しながら、俯いたままつぶやいた。
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯から、やなの」
「え?ごめん。聞こえなかった」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯かったから、やなの」
「もう少し大きい声で言ってほしい」
「うっ、上手く描けなかったから、やなの!!」
俯いたまま耳を真っ赤にして叫んだミラフィは、顔を上げようとしないが、僕がカードを隙間から引き抜こうとすると、全力で押さえつけて阻止してくる。こいつ、結構力強いな?!
「みーせーてーよー!」
「やだ!ほんっとに無理!!」
隙間から無理矢理何とか引き抜こうとすると、絶対に破れるなぁ。こんなとき、前世の知識ではどうやって解決してた?
考えろ、考えろー。
⋯⋯はっ、そうか!これだ!!
「こんにゃろっ────あ、UFO!」
「⋯⋯え?ゆーふぉーって何?」
「今だっ!!」
「あっ、ちょっと?!」
一瞬だけできたミラフィの手の隙間から、友だちカードをさっと引き抜く。よっしゃ、手に入れた!!
ミラフィの反応は、前世の知識とは少し違うものだったけど結果的に隙ができたからまぁよし!
「で、ミラフィが書いた友だちカードは?っと⋯⋯」
「ちょっ、もぉ、ほんっとにやめてほしいなー!」
ミラフィの言葉を右から左へと流して、友だちカードを見れば、左側の四角の中には、きちんと特徴をとらえて描かれた僕。右側には可愛らしい丸っこい字で色々書かれていた。
〔その人の名前〕
・ルツ・シュヴァルツ(何となく)
〔その人の年齢〕
・15歳
〔その人の誕生日〕
・わかんない(7月とか?勝手なイメージ)
〔その人の第一印象〕
・不思議(ほーこーおんち?)
〔その人の好き(そう)なもの、こと〕
・ぬいぐるみとか?可愛いもの好きそう!
〔その人の長所〕
・優しい、ちゅーいしてくれる、止めてくれる
何か、まともなところに対して、突っ込みたいところが多すぎる。名前もそうだが、誕生日が勝手なイメージで7月なのはよく分からない。10月生まれじゃボケ。
方向音痴や年齢、長所については事実だからまだ許せる。しかし、好き(そう)なもの、ことがぬいぐるみなのはマジでどういうこと?しかも、可愛いもの好きそうって言うけど、家具も武器も実用性重視なんだよ。闇ギルド構成員だし。
「ミラフィは僕のこと、こんなふうに思ってるの?」
「え、うん」
「マジで?」
「ルツだって私のことこんなふうに思ってるんだ〜。へぇー?」
「なにその含みのあるへぇー」
「べっつにー?」
「気になるじゃん」
「へへっ、内緒っ!」
友だちカードのやり方が正しかったのかはよくわからないが、ミラフィからもらったカードは失くさないように、自分の寮の部屋の棚にしまうことにした。
今回も新キャラはいません。多分、ラティスはシャルファにも素直になれなくて、結局友だちカードの紙をもらうことはできなかったと思います。




