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8話 ヤニカス酒臭鬼教師



今回は魔法についての説明が多くなってしまいました。

まあ、こんな感じなんだなと思っていただけたらありがたいです。



 班グループ学習のキシトウが何とか終わり、数日が経って、クラスメイトの仲もだいぶ深まった頃。僕達は魔法の授業を受けていた。


「魔法には3つの種類がある。ミラフィ、答えろ」

「えーっと⋯⋯⋯基礎魔法と精霊魔法と独自(オリジナル)魔法の3つだと思います!」

「正解だ。じゃあ、基礎魔法から説明していくぞー」


 そう言って前世の記憶にもあった黒板に、基礎魔法についての説明をチョークで書いていく。

 学園に入る前に全員が、どこかしらで学んでいる常識だが、入学してまだ間もないから簡単な復習から入るのだろう。


 まぁ、僕は誰かから教えてもらったわけでもなく、本でひたすら勉強して入ったから、どうしても知識の偏りはあるだろうし、こういうのはありがたいかも。


 あのクソ上司は学園に通えって言うくせに、勉強は教えてくんないし、参考書も自腹で買えって言うし、勉強に関しては何もしてくれなかった。あれはあまりにひどかったと今更ながら思う。


「そもそも魔法というのは、自分の体内にある魔力を外に出して、精霊に変形してもらうことだな?」


 先生は黒板に説明を書く手を止めてこちらを振り返るが、誰も反応しない。他の人が反応しないで、自分だけが反応を返しても気まずいので、全員が無言になり、時間だけが過ぎていく。


 そして少し、しょぼくれた顔をした先生は再び黒板に向き直り、説明を書き出していく。 

 

「基礎魔法というのは、まだ名も無い空中に漂う準精霊が魔力を変形させて放つ魔法のことだ。例えば、キシトウだと⋯⋯⋯シャルファやディセル、ルツが使っていたな」


 急に名前を出されて驚いたが、ガルグ先生があのキシトウの最中に誰が基礎魔法を使っていたのか見て、今日まで覚えていたことのほうが驚いた。

 やっぱりガルグ先生は、酒飲んで、タバコ吸っててもちゃんとした教師なんだなぁ。


「次に精霊魔法についてだが、基礎魔法と違うところは主に2つだ。1つ目は魔力を変形してくれる精霊が準精霊よりも位が上の、下位精霊、中位精霊、上位精霊、精霊王であることだ」


 そう言って先生はチョークを置き、開いていた教科書を念の為、閉じて右手で何かを掴むような形を作り、詠唱を始めた。


『ファイアル=ヴォルディ』

「[精霊魔法:炎の中位精霊(ヴォルガン)の槍]」


 ガルグ先生が詠唱を終えて、魔法名を唱えると同時に、先生の右手にはいつの間にか、炎でできた槍が握られていた。熱くないのかな?とも思ったが、先生の表情を見るに、その心配は要らないらしい。良かった、火傷してなくて。


「精霊の位が上がれば上がるほど、魔力の消耗は激しくなる。後、準精霊は至る所にいるが、下位精霊以上は精霊界という別の場所にいるため、精霊魔法と唱えなければ来てもらえない」

「⋯⋯精霊魔法と唱えたら、絶対にその魔法の属性と位を持つ精霊は来てくれるんですか?」


「いや、絶対じゃない。基本的に拒否されることはほとんど無いが、魔力が足りていなかったり、すっごい精霊に嫌われていると、普通に拒否される」


 疑問に思ったリサラが挙手して、反応をもらえたガルグ先生は嬉しそうに答えるが、段々と声のトーンが低くなっていく。

 ⋯⋯多分、先生も精霊に拒否されたことがあるんだろうなぁ。さっきまで嬉しそうだったのに、真顔になってるし。


「⋯⋯続けるぞー。基礎魔法と違うところの2つ目は属性の違いだ。ラティス、基礎魔法の属性には何がある?」

「火、水、風、土、光、闇です」

「そう、基礎魔法はこの6属性の魔法があるが、精霊魔法には光と闇以外の4属性の魔法しかない。シエラ、それは何故だと思う?」

「⋯⋯⋯光と闇属性には精霊がいないからだと思います」


 あまり自信がない様子でシエラはそう答える。その答えに対し、ガルグ先生は頷くが、先生も眉間にしわを寄せて悩んでいる顔をした。


「光と闇属性には精霊がいない、これは半分正しい。しかし、光と闇属性の基礎魔法は誰でも使えるので準精霊はいることになる」


 先生は今の説明の横に、何やらぐにゃぐにゃと曲がった線で繋がれた形をした大きさの違うものを5つ描いた。

 そして、それらを全て矢印で繋いで、小さいものから順に準精霊、下位精霊、中位精霊、上位精霊、精霊王と文字を付け足していく。


 ⋯⋯まさかとは思うけど、あれ精霊のつもりなの?


「火、水、風、土の4属性は各々自分が持つ、一つの属性の魔法しか使えない。そして、それらの属性を持つ準精霊はこのように、成長して位を上げていく」


 ガルグ先生の説明を聞くに、あのぐにゃぐにゃしたものは本当に精霊だったらしい。先生って絵、下手なタイプの人間なんだ⋯⋯。まぁ、僕も絵描くのはあまり得意じゃないから、人のこと言えないけど。


「今言った説明をもとに考えれば、光と闇属性も準精霊がいるなら成長して下位精霊以上になり、精霊魔法も使えるのでは?と思うかもしれないが、お前らもよく知っている通り、精霊魔法に光と闇属性はない」


 ⋯⋯この辺のことは専門家でもわからないらしいから仕方ないけど、もし闇属性の精霊魔法があるなら使ってみたいなぁ。

 正直、自分の属性である風属性よりも、闇属性のほうが扱いやすいし。

 

「この辺がよく混乱するとこだが、そういうもんだと思って諦めて覚えろ。最後は、独自(オリジナル)魔法についてだな」


 先生が独自(オリジナル)魔法について話し始めると、少し離れた席に座っているミラフィの肩が強張った。

 ⋯⋯まぁ、キシトウで暴れながら独自(オリジナル)魔法ぶっ放しちゃったしね。


独自(オリジナル)魔法は、一人一人の魔力の性質に合った魔法のことで、基本的に魔力の性質が同じに近い身内以外は使いこなせないパターンが多い。キシトウでも何人か使っていたやつがいたな」


 このガルグ先生の一言で、今度はメルロが肩を強張らせた。彼女もキシトウで偽物の宝箱を生み出したのはメルロの魔法だって、リュアにバラされちゃったしな⋯⋯⋯。

 基本的に自分やその身内以外は使いこなせないとは言え、独自(オリジナル)魔法は切り札として隠しておくのが自然だ。

 だから、彼女もあまり大っぴらには言われたくなかっただろう。そのことに気づいて、リュアもすぐにメルロに平謝りしてたし。

 

 独自(オリジナル)魔法をどうせ真似されないし、と大っぴらに使う者も少なくはないが、そういう奴の殆どは天才型だ。

 だから、僕みたいな大半の凡人は自分が開発した魔法を、魔力の性質上出来ないはずなのに、不可能を可能にしてしまいそうな天才たちに真似されないよう、ギリギリまで隠す必要があるのだ。才能ってホントに残酷だと思う。


「⋯⋯さっきの精霊魔法と同じで、下位精霊以上の精霊に魔力の変形をお願いする場合には、精霊界から力を貸してもらうために、精霊語で詠唱しなければいけない。だが、一つ例外がある。ディセル、答えろ」

「え?えーっと⋯⋯基礎魔法ですか?」

「基礎魔法ともう一つあるんだよ。わかるか?」

「んー、じゃあわかんないです」

「防御結界だ。これは下位精霊以上を精霊界から呼び出しているのではなく、精霊魔法と同等の魔力量を()()()に変形してもらって、結界を作っている」 


 へぇ、このあたりについては参考書に詳しく書いてなかったから、知らなかったなぁ。

 精霊魔法にもそれぞれ精霊の位があったから、防御結界の時もそれらの魔法の位と同じだけの魔力量を込めるために、炎の精霊王とか地の上位精霊って言ってたのか。


 普段、僕が魔力量少なくて防御結界を滅多に張らないから全くわかんなかったな。


「防御結界は今度見せるとして、誰か独自(オリジナル)魔法を実演してくれる奴はいないか?俺のは見せても面白くねぇしな」


 ガルグ先生がクラスを見渡すと、その中からそろ〜っと控えめに手が挙げられた。誰かと思ってそちらを見やると、限界まで縮こまったメルロだった。


「わっ、私の魔法ならもうバレてりゅのでっ!」

「そうか、それは助かる。じゃあ頼むな」


 ガルグ先生がそう言うと、メルロは何故か大きめのスケッチブックを取り出して、絵を描き始めた。

 何を描いているのかまでは見えなかったが、数十秒で完成したのか、満足そうな顔をしてその絵に手をかざす。

 

『アルディア=レゼイン ヴェレラヴァリッ! リェルフィア・シェラン ラルヴェルン!』

独自(オリジナル)魔法:【創造(クリエイション)】」


 珍しくメルロが噛まないでいい切った、とか思っていると、メルロが絵にかざしていた手にはいくつかの木の実が握られていた。

 そして、後ろからわずかに見えるメルロのスケッチブックに描かれていた絵はなくなり、白紙に戻っている。


「こっ、こりぇでどうでしょうかっ?」

「上出来っつーか、すげぇな。それ消えたりしないのか?」

「いっ、いちおっ!私の魔力が切れるまでは持ちまちゅっ!」


 ⋯⋯メルロはそうあっさり暴露するが、これって結構すごい魔法では?絵が描ければそれが創造できるってことだし、必要なものは筆記用具とスケッチブックだけ。

 あのクソ上司が知ったら欲しがるだろうなぁ。だって、前世でいうチート能力みたいなもんだし。

 何としてでも、メルロの能力が漏洩することだけは防がなくては!


 そう覚悟を決めた矢先、先生は僕が膝から崩れ落ちそうになる事を言う。

 ⋯⋯まぁ、椅子に座ってるから崩れ落ちはしないんだけどさ。


「今、3つの魔法について学んだが、年に3回ある期末テストでは勉学、運動、魔法の能力によって成績が決まる。そのため、俺は今のうちからパッパと独自(オリジナル)魔法を開示して、お前らで協力してテスト対策することを推奨する」




 ・・・・・? 




 ⋯⋯⋯ん?今、何て言った?僕の耳がおかしくないのなら、まるで皆が独自(オリジナル)魔法を持っているのが前提で、それを開示して協力しなさいって言ってるように聞こえたんだけど?


 ま、まぁ?100歩⋯⋯というか10000歩くらい譲って、クラスメイトに自分の切り札を開示して、協力するのはわかるよ?

 でもね?僕にはその切り札も、そのために使う魔力もないんだよ?なのに開示?

 無いものをどうやって開示しろっていうんだ、この(前世の記憶で言う)ヤニカス酒臭鬼教師は。


「といっても、まぁ切り札なんざ簡単には公開できないだろ?だが、テスト以外にも7月には他クラスとの戦闘訓練がある。早めに公開して損はないと思うぞー」


 だから公開するような魔法がねぇっつんってんだよ。僕の話聞いてんのか、この教師は。

 ⋯⋯いや、僕口に出してないわ。理不尽に怒ってしまって、申し訳ない。


 僕が心のなかで先生に謝っていると、ディセルが挙手して、先生に質問する。


「じゃあ、先生の独自(オリジナル)魔法は何なんですかー?」

「えっ?!せ、先生の魔法か?」

「はい!俺たちに公開しろって言うくらいだし、まずは大人である先生が、手本になるべきじゃないですか?」

「先生ー!私も見たいです!」


 ディセルの質問にガルグ先生が動揺するが、ディセルは先生を煽り、ミラフィが追い討ちをかける。

 お前らすげえな、今日だけは素直に尊敬するわ。周りの奴らは完全にこの雰囲気に便乗して、先生の魔法を聞き出そうとしている。


「それはその、俺のは見ても面白くねぇし⋯⋯」

「はい、それで魔法は何ですかー?」

「いや、俺の魔法は───だ」

「え?先生聞こえなかったんですけどー?」


 ガルグ先生が小声でゴニョゴニョ言ってると、腹立つ顔したディセルが耳に手を当てて、先生を煽り散らかしているが、なんであいつがモテないのかわかった気がする。

 ⋯⋯いつもすぐ調子になるんだろうな、こいつ。


 




 


─────今みたいに。





 

 

「うるっせぇな!!俺の魔法は上司に開示すんなって言われてんの!!お前らはさっさと公開しやがれぇ!!」

「いーやーでーすー」

「わ、わたひ、もうばれてりゅしっ!」

「あんま、言いたくないなー」

「先生が言わないなら俺も言わないですっ!」


 先生がブチギレたことで皆、萎縮するかと思ったが、思いのほかいつも通りだった。




 こうして僕達は全員で協力して、無駄なことを話しながら、授業が終わるチャイムが鳴るまで、話題をそらし続けた。





【こぼれ話】

誰とは言いませんが、実は普段から話している時に噛んでしまうあの人は、裏で早口言葉を言ったりして滑舌を何とかしようと奮闘していますが、結局噛んでしまうので口内炎が後を絶たないようです。

 

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