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6話 下された罰


 

「で、どうしたんだよ。あれ」

「わかりません。ボクたちが宝箱を守っているところに姿を現したかと思えば、いきなりあれをぶっ放して来たんです」

「す、すごく怖かったでしゅ⋯⋯です!」


 突如として目の前に現れた、僕らの救世主(メシア)であるガルグ先生は、呆れながらもミラフィを指差す。

 確かにミラフィが何故、あんな暴力的になってしまったのかは気になる。さっきまでは逃げるのに必死で、そこまで気にしていられなかったし。


 しかし今来たばかりだというのに、ガルグ先生にはミラフィが暴力的になってしまったことに、心当たりはあるけど納得はしていないのか、怪訝な顔をした。


「⋯⋯ありゃあ、魔力過多症だな」

「マリョクカタショウ?」

「あぁ。名前通りの症状で、通常の人よりも何倍も多い魔力を持って生まれる人に多いんだよ。1回だけ誰かが辛そうにしてるのを見たことあるが、あそこまでひどくはなかったな」


 魔力過多症⋯⋯そのせいで暴走するってこと?でも、普段のミラフィを見る限りは、全然そんな気配なかった。

 だって、魔力が多いのは四六時中同じことなんだから、急に暴走するなんてことはないと僕は思うんだけどなぁ。


「⋯⋯というか、魔力過多症は普通よりも魔力が多いから、体が適応出来なくて、たまに頭痛や目眩、吐き気を催すだけなんだよ」

「暴走はしないんですか?」

「その頭痛や吐き気に耐えられないやつが発狂するくらいで、暴走するなんてこと聞いたことねぇ」

「え?じゃあ、あれ何なんですか?」

「いや、それがわかんねぇから今、お前らにも聞いてんだろ」


 僕の考えは正しかったようで、魔力過多症とミラフィの暴走は、特に関係がないらしい。じゃあ、ほかに暴走する原因となりそうなのは⋯⋯?



『ねぇ、この()の実験体になってくんない?』



 一人の毒薬を持ったクラスメイトが頭に浮かんだが、首を横に振ってすぐに消す。さすがのマレアも、同じ盗賊側のミラフィを実験に使って仲間割れをするようなことはしないだろう⋯⋯と信じたい。

 

「とりあえず、原因究明は後回しだ。そうじゃないと死にそうだしな。お前ら、死にたくなかったら俺のそばを離れんなよ」

「わかりました」


 そう言ってガルグ先生が再びミラフィと相対すると、ミラフィは先ほどまで浮かべていた不気味な笑顔をけして、無表情になった。

 そんな彼女の様子をガルグ先生は不審に思いながらも、こちらから攻撃するようなことはしない。




 



 

 

 互いに硬直した状態が続き、数十秒が経つ。そして、先に動いたのはミラフィの方だった。


 さっきと同じ不快感が体を襲い、もう立っていられないと座り込んでしまうと、ミラフィは今までに出したやつよりもさらに小さい、あの魔力の集合体を形成した。


『レレリカ=レレリア レヴェネリア!レレリカ・レレリア レイルヴェル!』

独自(オリジナル)魔法:【魔力砲(マジック・キャノン)】!!」


 うわぁ、あんなに小さい魔力の集合体とか⋯⋯一体、何処まで吹っ飛ぶ威力が込められてるんだよ。怖くて仕方ないわ。

 

 迫りくる魔力の集合体を前に僕が現実逃避をしていると、ガルグ先生はあの魔力の集合体を見て、少し嫌な顔をした後、右腕を前に出して冷静に唱えた。


「[防御結界:炎の精霊王(フレアリム)]」


 瞬く間にミラフィと僕達の間には、炎をまとった巨大な結界がガルグ先生によって張られていた。


 

 しかし、これだけ大きな結界ならば安心かと思えば、ガルグ先生は急にしゃがんで何かを拾った後、僕とソエの居るこちらに早足で歩み寄って来た。

 何事かと2人で首を傾げれば、その後ろに手を回されて、首根っこをつかまれる。


「「──?!」」

「シエラ、メルロを抱えたままついてこい。走るぞ」

「はい!」

 

 ガルグ先生が僕たちの首根っこをつかんだまま全速力で走り始め、相変わらず宝箱を離そうとしないメルロを小脇に抱えたシエラも同時に走り出した。

 首根っこをつかまれたままだと非常に呼吸がしづらくて苦しいが、今ここで気を抜くと二度と起きられないような気がするので気合で耐える。




 

 そしてミラフィが放った魔力の集合体が、ガルグ先生が張った炎の結界に当たり、綺麗に霧散したのが視界の端で見えた。



 


 爆発しなくて良かったと僕は胸を撫で下ろすが、シエラとガルグ先生の顔は険しいままで、もう攻撃は消えたというのに走ることをやめない。

 何故走り続けるのかと疑問にも思ったが、その理由はすぐに分かった。




 ガルグ先生が張った炎をまとった結界が小さくなり始めたのだ。そして、それを覆うように現れた、先程霧散して消えたはずの魔力の集合体。

 それが結界を侵食し、結界の炎の勢いは弱まり、魔力の集合体は段々と大きさを増していく。





「これ以上は無理です!」

「大丈夫だ。お前ら、そこの木の後ろに隠れろ!!」


 僕らの首根っこを離したガルグ先生は、疲れ果てて転びそうになっていたシエラを運んで大木の後ろに身を潜めた。僕とソエも先生に近づき、木の後ろに隠れていると、気持ちの悪い感覚がどんどん近寄ってくるのが分かった。


 しかし、そんな事を気にも留めず、ガルグ先生は自身の右腕を掲げて、さっきと同じように冷静に唱えた。そして、隣で縮こまっているメルロに目配せする。


「[防御結界:炎の下位精霊(エンバー)]」

「ぼっ、[防御結界:地の上位精霊(グランテス)]!」


 ガルグ先生が手をかざした先に、小さい炎をまとった結界と、メルロが張った大きめの土で固められた結界が張られた。



 



 その直後、ゴォォオンという爆発音とともに、爆風と衝撃が地面を伝って、僕らに襲いかかってきた。





 




 

 数十秒ほど経って、次の攻撃がないことを確認すると、先生とメルロは結界を解除して立ち上がる。辺りを見渡せば、木々はなぎ倒され、地面にも大きい穴が空いていた。



「────危ねぇ。ほんとにギリギリだったな」

「メルロ、結界張ってくれてありがとう。正直、ボクはもう魔力が底を突いてたし、助かったよ」

「シエラも運んでくれてありがとう!⋯⋯ル、ルツさんとソエさんも、け、怪我はないでひゅかっ?!」

「ないよ。ガルグ先生にメルロ、ありがとうございました」

「気にすんな」


 二人が張ってくれた結界のお陰で、さっき爆風で飛ばされた分も含めると、無傷というわけにもいかないが、怪我はほとんど無いと言ってもいい。

 マジで感謝。世界とメルロとガルグ先生に感謝。


「あれに魔力を喰わせたら、圧縮されたのも少しは軽減されると思ったが⋯⋯想像してたよりも威力は弱まらなかったな」

「ははは⋯⋯精霊王と上位精霊級の結界使ってあの威力ですからね」


 そう言って遠い目をしたシエラは、いきなり地面にドサッと倒れ込む。メルロを運んだり、ミラフィの魔法のせいで、かなり疲れていたようでもうここから一歩も動きたくないというような顔だった。



 シエラを見たら、僕も休みたくなって来たな。さっきから走りっぱなしだったし、いい加減休みたい。

 そう思って、その場で地面に座り込もうとすると、視界の端で何かが動いているのが見えた。


「────あ、痛い⋯⋯というか魔力量がすごい減ってる?」

「ミラフィ!」

「え?⋯⋯あ!ルツたち!シエラとメルロもいるー!あれ、先生も?何かあったのー?」

「「「「⋯⋯⋯⋯はぁ」」」」

「お前、少しは周りを見てみろよ」

「周り?」


 先生の言うことに素直に従ったミラフィは、自分の周囲を見渡すと、急に顔色を悪くした。そして、かなり憔悴したような様子で口を開いた。


「⋯⋯もしかして、これ全部私が?」

「そうだ。お前がぶっ放してきた魔法のせいで、こいつらは死にかけたぞ」


 先生が遠慮など皆無の言葉をミラフィにかける。そのせいでミラフィもただでさえ顔色が悪いのに、さらにひどい顔色になってしまった。

 

「ミッ、ミラフィ!俺たちは全然気にしてないし!」

「そっ、そうでひゅ!ミラフィしゃんの攻撃はやばかったでしゅけど、私たち死んでないです!」

「あの感じ見るに、何か正気じゃなかったっぽいし。ボクらは気にしてないよ。ね?ルツ」








 そう言って、シエラが僕の方を見る。だけど、僕はなんて言えばいいのかわからなかった。


 だって、闇ギルド構成員のときは、やらかしたやつが悪いから誰だって慰めようとかしなかったし。むしろ、そういう傷口に漬け込んで利用するぐらいのことしかしてなかったし。


 それでも、ミラフィの酷い顔色の中に何処か期待するような眼差しを見てしまえば、責める気にはなれなかった。


 

「⋯⋯うん、気にしてないよ。結局誰も死んでないんだし」

「ほんと?」

「本当だよ」


 嘘だ。結果的には死んでないから、なんて言い分は闇ギルドや貧民街(スラム)みたいな裏社会では通じない。自分がミスしてしまった時点で、終わりなのだ。そんな生活に慣れていたからこそ、この返答に違和感を覚える自分がいた。

 

 でも、ここは闇ギルドじゃない。皆だってクソみたいなあの場所の住人じゃない。だから、この気持ちをソエたちに強制するつもりもない。ただ、自分が違和感を覚えてしまっただけ。本当にそれだけだった。


「皆、迷惑かけてごめんなさい⋯⋯」

「ほら、もういいから。これで謝んの最後ね」

「え、あの⋯⋯⋯あ、ありがとう!」

「そう!それが聞きたかった!じゃあ、解決ってことでいいですか?先生」

「⋯⋯いや、悪いがそういうわけにもいかない」


 シエラに満足そうな顔で聞かれても、渋い顔でそう答えたガルグ先生は、ミラフィの方へ向き直り、真剣な顔をして言った。


「生徒であろうが、人を殺しかけたことは問題だ。最悪、退学もあり得る」

「で、でも!ミラフィは正気じゃなかったんですよ?」

「だから何だ?大人になって、人を殺してしまった時に、正気じゃなかったので人を殺しても無罪にしてください、とでも言うつもりか?」

「そ、それは⋯⋯」


 途中まで先生に言い返していたシエラも、ガルグ先生の正論に黙ってしまった。しかし、その様子にガルグ先生も居心地が悪くなったのか、続けて言った。


「ということで、ミラフィには罰が下る」

「⋯⋯はい」



 神妙な顔をして頷くミラフィは、静かに先生の言葉を待っていた。それは当事者では無い僕たちも同じで、ここにいる誰もが、先生の口が開かれる瞬間を待っていた。



 



 



 


 


 

「内容は、魔法制御の練習を人より多く行うことと、俺がいない場所で魔法は使わない、の2つだ」

 

「⋯⋯⋯へ?そ、それだけですか?」


「何だ?もっと増やしてほしいのか?」

「いっ、いや!その2つをこれからきちんと守ります!」


 ガルグ先生の言葉にものすごい勢いで首を縦に振り、頷くミラフィ。その横で、ホッと胸を撫で下ろして安心するソエたち。


 





 ⋯⋯そして、顔では皆と同じように安心しているけれど、本当はあまり納得がいっていない僕。


 確かにミラフィはここに入学して初めてできた友達だし、貴族に喧嘩を売った時も退学はしてほしくないと思っていた。それは今も変わらないのはずなのに、何故かそんな甘いことで許されていいのかと思う僕もいる。


 矛盾していることなんて僕だってわかっているが、それでも闇ギルドにいる自分と、失敗したら終わりなんだという同じ苦しみを味わってほしいと思っている僕がいることが、一番嫌だった。


「よかったね、ミラフィ!」

「うん!⋯⋯ルツもありがとう!」

「⋯⋯どういたしまして。僕はなんもしてないけどね」


 それでも、ミラフィの屈託のない笑顔を見たら同じ苦しみを味わえとは言えなかった。良かった、僕もそこまでは性格が悪くなかったようで。








 

 そう思って僕が完全に安心していると、ガルグ先生が呆れた顔をして僕の腕を掴む。








 ⋯⋯え?掴む?


「お前ら、そろそろキシトウ再開するぞ。ほら、ルツ。お前の時計拾っといてやったから、おとなしく牢屋行けよー」

「えっ、ちょっ?!」

「何してんのミラフィ!シエラとメルロは敵なんだから早く逃げるよ!」

「シエラ!早くつかまえなちゃっ!⋯⋯うぅ、噛んだぁ」

「えー、もう疲れました。さっきのでもうボクの魔力空っぽなんですけど⋯⋯」


 ミラフィを連れて逃げるソエを追いかけようと、宝箱を抱えたまま走るメルロと、先程の戦闘で疲れて2人を追う気にもなれず、諦めているシエラ。


 それを横目に僕は、一応騎士側であるガルグ先生に牢屋まで連行されるのだった。


 



今回は新キャラがいないのでキャラクター紹介はありません。ですが、F組の生徒は25名もいるので途中で、あれ?このキャラ誰だっけ?ってなることもあると思います。

その時はぜひ、過去の話に遡って【キャラクター紹介】を見返してみてください(*^_^*)

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