5話 本当の敵
僕の目の前で、短剣を首に当てられたシャルファは抵抗しようともがく。
だが、それよりも先に背後に立っていた人物がシャルファの首を短剣で切り裂いた。
ガルグ先生が張った結界のおかげでシャルファに傷はなかったが、怖いので念の為、脈や呼吸などを確認してから、僕のことを助けてくれた先ほどの声の主に駆け寄る。
「────ソエ!」
「ん、ルツ大丈夫?俺にはルツがアウトになりそうに見えたけど」
「ありがとう、マジで助かった。でも何でここに?」
シャルファを倒した声の主⋯⋯もといソエは短剣をしまって、こちらへと歩み寄ってきた。
それにしても、いつからシャルファの背後にいたんだろ?戦闘に夢中だったからか、全く気づかなかった。
「さっき、あっちの方でミラフィとすれ違ったんだよ。そしたらルツがこっち方面で戦ってるから、できるなら加勢してほしいって」
「⋯⋯ミラフィとすれ違った後、リュアともすれ違わなかった?」
もしかしたら、リュアがミラフィのことを追っているかもしれないし、それなら今度はそっちに加勢に行きたいな。
騎士たちに妨害されて、宝箱探し進んでないかもしれないし。
「いや、すれ違わなかったよ。それにリュアとすれ違ってたら匂いで気づかれて、今頃ここに俺いないでしょ」
「た、確かに⋯⋯?」
「魔法使ってたのに、嗅覚なしで気づくミラフィが異常なんだよなぁ。何で気づいたんだよ、あいつ」
魔法使ってたってことは、ソエも隠蔽魔法が使えるのか?⋯⋯それなら、シャルファの背後に気づかれないで立っていたのにも納得かも。
そうだとしても他人の隠蔽魔法に気づくとか、ミラフィどんだけ凄いんだよ。普通、見抜けないだろ。
「隠蔽魔法使ってたの?」
「え、あぁ⋯⋯⋯まぁ、そんな感じのやつ」
「?」
僕の質問に対して、ソエが曖昧な答え方をする。もしかしたら、隠蔽魔法じゃなかったのかもしれない。他人に言いにくい魔法⋯⋯⋯例えば、代々家に伝わってきた秘伝の魔法とか?それなら確かに、友達だろうと気軽に言えなさそう。
⋯⋯まぁ、僕の勝手な憶測なんだけど。
「そんなことよりも、早くここから退散しよ。騎士たちもダメージアウトしたらその場で気絶するけど、5分経ったらまた動き始めるから」
「あ!そういえば、そうだった!」
ソエの話を聞いて時計を見れば、今話しただけで一分も経過してしまっている。早くここから逃げて、ついでに宝箱も探さなきゃ。
「こっち側には騎士がそんなにいなかったから、こっちに行こ」
「了解です」
ソエが指差す方は木がたくさんあって、通りにくそうな道だった。確かに、こんなに歩くのでさえ難しい道なら騎士たちも居なさそうだ。
「さっきのシャルファとの戦闘で、ダメージどれぐらい溜まった?」
「⋯⋯メーターの5分の4くらいかな」
「え、後何発か喰らったら捕まっちゃうじゃん」
「そうなんだよね。シャルファ、思ってたより強くてさぁ」
さすが、リュアの前でカッコつけただけのことはある。性能がいい杖を使っていたこともあって、普通に強かった。
というか、現役闇ギルド構成員として、ただの学生にはまだ負けられないよね。僕にもプライドがあるもの。
本当に勝ててよかったと心の底から思う⋯⋯まぁ、やってくれたのソエだけど。
先導してくれるソエの姿を見失わないよう、気をつけながら木々の間を抜けていく。すると、ソエが歩きながらも首を軽くこちらへ向け、口を開いた。
「そういえば戦ってる最中で、シャルファの油断を誘えるタイミングを見てたんだけどさ」
「うん」
「ルツ、最初の影の矢だけで、それ以外全然魔法使ってなかったよね?何で?⋯⋯あ、言いにくいことなら今のやっぱ無し」
「大丈夫だよ」
こちらを気遣いながら質問をするソエに対して、僕は笑顔で答える。まぁ、僕からしたら特に答えにくいことでもないしね。
「僕はさ、魔力量が本当に少ないんだよ。普通の人の半分くらいしかない」
「え、そうなの?」
「うん、何で学園入学できた?ってレベル」
闇ギルドの構成員になる前から、僕の魔力量は簡単な魔法を3発撃てる程度の量しかなかった。そのため、無駄遣いはできないとクソ上司は魔法で戦う方法ではなく、刃物を使って一撃で標的を消す戦い方を教えてくれた。死ぬほど辛かったけど。
「それなら、確かに魔法をたくさん使うわけにはいかないね」
「そうなんだよ。でも次、敵と会ったらダメージアウトで間違いなく捕まるし⋯⋯ソエが逃げる時の囮にでもなろうかな」
どうせ捕まっても、助けに来てくれれば出られるし。そう思ってちらっとソエの方を見ると、渋い顔をして眉間にしわを寄せていた。
え、どうしたんだろ。嫌なことでも言っちゃったかな?シャルファの地雷のこともあって、発言には気をつけてたつもりなんだけどな。
「⋯⋯囮なら俺がなるからルツが逃げて」
「え、何でよ。ダメージ量的にソエが逃げた方が良くない?」
「やだ。さっきのだって不意をついただけだし、俺はルツと違ってそんなに戦えないんだよ」
そう言ってソエは視線を逸らして、また黙々と木々の間を進んでいく。
別に戦えなくても、僕たち盗賊側は宝箱も探さなきゃいけないので、ソエが生き延びたほうがいいとは思うが、視線をそらす前の、どこか悲しげな表情を見ると、僕は何も言えなかった。
そして、互いに気まずい空気が流れて無言のまま、森を進んで数分経った頃。
「⋯⋯⋯もうすぐ、ミラフィとすれ違ったところに着くよ」
「時間的にシャルファも起きる頃かな」
「そうだね。そういえば、ルツ。マレアは見た?騎士たちに追いかけられてるオリヴィエは見たんだけど、一番不安なあいつをまだ見かけてなくて⋯⋯」
自分で言っておきながら、顔色を悪くして体を震わすソエは、どうやらまだマレアを見てないらしい。
確かに、僕らの班の一番の問題児と言ってもいいあいつをまだ見ていない。もしかしたら捕まっているのかもしれないが、マレアに限ってそんなことはないだろう。何なら盗賊側なのに、彼女お手製の毒を使って、気絶させた騎士を実験体にしていそうまである。
「ううん、僕も見てない」
「そっか。いや、姿がまだ見えないとか本当に怖───」
「きゃあああっ!!!」
ソエがこちらを振り向いて、そう苦笑した途端、僕らの進行方向である森の奥から甲高い悲鳴が耳に入る。
そして、それに続くかのように爆発音が数回鳴り、遠くに煙が立ち上るのが見えた。
「何っ?!」
「⋯⋯あっちはミラフィが歩いていった方向だよ。しかも、今の悲鳴は声の感じからして女子だよね?」
「うわ、最悪なパターンじゃん!」
ソエがかなりのスピードで走りながらも、器用に木々を避けて森の中を進んでいく。ここから煙が立ち上った場所までは、相当距離があり、全力で走ったとしても僕たちの体力が底を突きるほうが先かもしれない。
それでも、ソエを木々で見失わないようにしつつ、スピードを上げて置いていかれないように走る。
「爆発ってまさか、マレアが用意してたものだったり⋯⋯?」
「やめてよ、そんなこと考えたくもない!」
「さすがにマレアだって、ここまではやらないよね?」
マレアなら絶対にやらないという確証はできないが、ここまでやるような人間ではなかったはずだ。それにさっきの音からして、爆発の規模はかなり大きい。そんな危ない物の使用を、ガルグ先生が認めるはない!
あの大きな爆発音とともに、僕らが走っている地面も揺れてバランスを崩しそうになった。それくらい大きな爆発で、女子の悲鳴が聞こえてきたことが心配でならない。誰も怪我してないといいんだけど。
しかし、そんな僕の心配とは反対に、今度は僕たちの近くで爆発音が鳴り響き、木々が倒れてくる。
それらをうまく避けて、さらに進むとさっきの爆発が起きたであろう場所に近づいた。
そして、とうとう煙が間近に迫ったというとき、奥から微かに、爆発音にかき消されそうな、人の話し声が耳に入る。
「──────から逃げなきゃ!」
「──────守ってる場合じゃないよ!早くそれ手放して!」
人の話し声に耳を澄ませ、聞こえてきた方へと足を運べば、そこには腕にそれぞれ赤色の布を巻いた女子が二人、砂煙の中で立っていた。
「シエラ!メルロ!2人ともどうしたの?宝箱持って走って⋯⋯⋯」
「───あ、ルツ!ソエ!」
こちらへと小走りで近寄ってきた、赤い布を巻いた騎士側の女子2人、シエラとメルロの運動着は所々汚れていて、メルロはなぜか宝箱を抱えており、それを見たシエラは呆れた顔をしていた。
「ボクは邪魔だから置いてけって言ったんだよ?でも、メルロが何でかずっと離さなくてさぁ⋯⋯」
「えっと、メルロは騎士だから宝箱を守ってるんだよね?」
「そっ、そうなんでひゅっ!⋯⋯うぅ〜、噛んじゃいました。痛いですぅ」
そう言って地面に座り、泥がついたメガネをかけ直すメルロには、シエラに視線で離せと言われても全く離そうとする気配がない。
その様子に説得することを諦めたのか、シエラは服についた汚れをある程度叩いて落とし、隣でしゃがみ込んでいたメルロを無理矢理立たせる。
「よし!じゃあ、逃げるよ」
「⋯⋯え、逃げるってどういうこと?」
「とっ、とにかく!にっ、逃げなきゃいけないんでひゅっ!」
「⋯⋯2人は何かに追われてたの?」
僕らの質問に対し、シエラとメルロは真剣な顔で同じことを言う。逃げるって何から?さっきの爆発と関係あるのなら⋯⋯考えたくはないが、マレアが何かしたか、魔物や魔獣が森にいたとかだろうか。
疑問を解消しようとら僕が2人に質問をする直前に、急に辺りが暗くなる。
太陽の光が雲にでも隠れたかと思ったが、空を見上げれば僕たちの頭上にあるのは、雲ではない何かであり、それが僕達の居る真下に巨大な影をつくっていた。
すると僕たちのちょうど真横に、その何かがすさまじい勢いで空から降ってきて、地面と衝突した瞬間、轟音とともに爆発が起き、巻き起こった爆風に背を押され、なすすべも無く僕らは吹っ飛ばされた。
そして、いち早く体勢を立て直したシエラは小脇に、未だに宝箱を離さないメルロを抱えて、僕らに聞こえるよう、その場で大声で叫んだ。
「ミラフィから逃げるんだよっ!!」
* * *
「ミッ、ミラフィからって⋯⋯あのでかい塊がミラフィなわけ?!」
「んなわけないでしょ!あのでかいヤバいのをこっちに飛ばしてきてんのが、ミラフィなの!わかる!?」
メルロを小脇に抱えたシエラとソエが口論しつつも逃げるのを見て、僕もここから早く離れようとするが何処からか、ブーブーとブザーのような音が響き渡る。
あまりにうるさいので、音の原因を探ろうとすると、僕のちょうど真下から音が聞こえてきている事が分かった。
僕の真下にあるのは、先ほどまで着けていたはずの時計でよく見れば、ダメージのメーターがアウトのラインを越えており、そのせいでブザーが鳴っていた。
しかし、今問題なのは騎士に捕まってしまうことではない。この音のせいでミラフィがこちらへと、来てしまうかもしれないことが問題だった。
しかも、来てしまうかもしれないことではなく、来てしまったことだった。
「ま、まさか⋯⋯あそこにいる人影って───」
「ミッ、ミラフィしゃんでひゅっ!!」
「早く逃げるよ!!ルツ!ソエ!」
シエラの声を聞いて逃げようとするが、体が思うようにうまく動かない。さっきの爆風で飛ばされたせいもあるが、それ以上の原因が今この場にはあった。
ミラフィの人影は遠くに見えたはずなのに、何故か近くにいるような感覚に気持ち悪さを覚える。
そして、そんな不快感に、追い打ちをかけるかのように気持ちの悪い感覚が、彼女の声に乗せて僕たちにのしかかってくる。
『レレリカ=レレリア レヴェネリア!レレリカ・レレリア レイルヴェル!』
「独自魔法:【魔力砲】!!」
ミラフィのこちらへと伸ばされた手の先から現れたのは、さっき真横に投げられた塊よりも少し小さい、魔力の集合体だった。
あれを見れば、こんなに大きい爆発になったのにも納得がいく。魔力は空気中にも存在するが、それが何かしらの影響で圧縮されると、その場で魔力暴走を起こし、爆発するのだ。
つまり、あの大きさの魔力の集合体がこちらへと放たれると、物凄い爆発が起きる。さすがに先生が僕達に張ってくれた結界も、そこまでは持たないだろうな。というかまず校舎ですら、あとかたもなく消える、間違いなく。
──あぁ、あのクソ上司のみぞおちに蹴りでも一発、入れてやりたい人生だった。
そんな願いも虚しく、不気味な笑顔を浮かべたミラフィから放たれた魔力の集合体になすすべもない僕たちは皆、逃げることすら諦め、絶望の表情を浮かべていた。
あまりにも魔力暴走の爆発が怖くて、思わず目をつぶってしまう⋯⋯⋯⋯しかし、肝心の衝撃はいつになってもやって来ない。
そぉ〜っと目を開ければ、そこにはミラフィよりも大きい人影が僕たちの前に立ち、右手を構えていた。
そして、こちらを向いて一言。
「大丈夫か、お前ら」
酒臭いし、タバコ臭い、やる気のないヘッポコ教師が、今この瞬間だけはとてもカッコ良い救世主に見えた。
【キャラクター紹介】
No.8
〇シエラ
・女性
・肩につくぐらいの髪をひとまとめにしている
・少し口が悪いけどほんとは優しくて一人称がボクの人
No.11
〇メルロ
・女性
・度の入っていないメガネをかけている
・話そうとすると、結構な確率で噛んじゃう人




