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12話 化けて出てやる



 先生のおばちゃん口調事件から3日が経った。結局、先生も何やかんや楽しかったのかその日の授業は全部おばちゃん口調で行っていた。

 しかし、そこまで来ると僕たちはもう笑えなくなっており、とてつもなく先生のことが心配になったので、その日は先生にめちゃくちゃ気を使った。F組全員で。


 最終的には先生に不思議な顔をされて終わったのだが、F組の担任になってしまったばかりに、ガルグ先生は職員室でいい顔をされず、給料を減らされ、疲れてしまったのだ。さすがに同情する。

 しかし、気を使った僕らに対してガルグ先生は慈悲もなく宿題の量を増やしてきた。あの血も涙もない鬼め、人の心がない。


 そしてその宿題の一つである、回復薬(ポーション)などに使える薬草はどの辺りに生えているのか、班の皆と探している今。

 

「────あ、何か落ちてる」


 何故か真っ黒の魔石を見つけた。


「⋯⋯黒い魔石見たことある?」

「いや、ないな。色的に近いのは闇属性の魔石だろうが⋯⋯」


 オリヴィエに聞いてみれば、やはり彼女も黒い魔石は見たことがないらしい。僕だけが知らないわけではないようでホッとした。


「魔石って魔物や魔獣を倒すと出てくるやつでしょ?闇属性の魔石は紫じゃなかった?」

「そうだねぇ。黒い魔石なんて見たことがない!是非、あたしの実験の材料に─────」

「「「絶対にやめろ!!」」」

「ちぇー、駄目かぁ」


 黒い魔石に目を輝かせるマレアを3人で必死に止める。でも、マレアの気持ちがわからないこともない。黒い魔石なんて聞いたことがないし、気になるのもわかる。

 しかしそれ以上に、触れてなにかあったときのことを考えるとマレアのことは止めざるを得ない。


 そもそもここはF組の校舎の裏だから、F組のことが嫌いな何処かの誰かが、危ないものを近くにおいていたって何ら不思議でもないのだ。


「とにかく、先生を呼んできたほうがいいかな?」

「まぁ、触らないほうが良いっていうのには賛成」

「⋯⋯でも、放課後だから先生は職員室にいるんじゃない?あたしたちが行っても、いい顔されないと思うんだけど」

「もしかしたら職員室の先生の中に、この魔石を置いた人がいるかもしれないしな」


 確かに僕たちが職員室に行ってもいい顔はされないだろうし、これを置いた人が職員室の先生でもおかしくはない。

 でも僕たちが下手に触って爆発するよりはマシだよなぁ。正直、職員室にはマジで行きたくないし、この魔石も見なかったことにしたいけど、この魔石をミラフィとかが見つけた場合、絶対にあいつは触ると思う。

 やっぱり先生を呼びに職員室行ったほうがいいだろうなぁ。


「でも、次この魔石を見た人が触るかもしれないし、早く呼びに行ったほうがいいんじゃない?」

「まぁ、そうか。時限式で爆発する魔石とかだったら困るしな」

「じゃあ、早く行って早く帰ってこよ」

「そうだね」


 全員の意見が揃ったところで、薬草探しは一旦辞めてガルグ先生を呼びに職員室へと向かう。





 


 

 ここで誰か一人でも、黒い魔石を見張っている人がいれば良かったのだと今になって思う。


 

 僕たちが職員室に向かうために校舎に入ったとき、黒い魔石に近づく一つの人影があった。



 

「─────が言ってたのはこれか」




 大きな人影は黒い魔石の側でしゃがみ込むと、その魔石をじっくり観察し始めた。


「『黒き魔石に触れることができれば、お前が求める答えは手に入る』」


 

 そう呟いた男は躊躇いながらも、黒い魔石に触れた。






 そして、男が身につけていたピアスに反射した日の光は誰にも気づかれることなく、黒い魔石から溢れた闇が人影を包みこんだ。


 *   *   *


「────本当ですってば!こっちに黒い魔石が落ちてたんです!」

「はぁ?黒い魔石なんてねぇだろ。何言ってんだ?お前ら」

「いやいや、ここにいる四人全員で見てるんです!」

「⋯⋯幻覚を解くのは俺、得意じゃねぇんだけどな」

「幻覚じゃないです!!」


 ガルグ先生に黒い魔石のことを伝えて、職員室から連れ出したものの、全然信じてもらえない。

 まぁ、実物を見れば先生も認めざるを得ないだろう。確か、校舎裏の中庭に近い方に落ちてたんだよね?


「この辺です!この校舎裏のこの辺り、に───?」


 校舎裏の落ちていたところに到着し、黒い魔石を先生に見せようとするが、肝心の黒い魔石が無い。

 おかしい、ここに落ちてたと思うんだけどな。あれ?場所違ったっけ?


 そう思って3人の方を見るが、全員驚いた顔をしていたので、場所は正しかったようだ。やっぱり、ここに落ちてたよね?見間違いじゃないよね?


「やっぱないじゃねぇか。本当に落ちてたのかよ?お前らも疲れてたんじゃねぇのか?」

「そんなはずはない─────」



 ────ドガァン!!バゴォォン!!!!


  

「わっ?!」

「何だ、今の音?」

「音がしたのって、運動場がある方じゃない?」

「⋯⋯先生?ミラフィってもう寮に帰ってましたよね?」

「何でミラフィ?」

「えっ、いや⋯⋯な、何かやらかしてそうじゃん?」

「まぁ、ミラフィなら魔石を拾っていてもおかしくないな」

 

 硬い何かが壊れる大きな音が遠くでしたかと思えば、ソエが怖いことを言い出す。

 マレアとオリヴィエはミラフィの独自(オリジナル)魔法について知らないからか、ミラフィが魔石を拾ったと思っているみたいだ。

 まぁ、僕とソエとガルグ先生はミラフィが先生との約束破って、またあの魔力の塊ぶっ放したのかと思ったけど。


「と、とりあえず見に行きます?」

「行きたくねー、絶対面倒くさいことになってんだろ」

「生徒の安全を守るのも先生の仕事ですからねー。ほら、早く行きましょー?」


 僕が先生の手を引いて運動場のほうへと向かおうとするが、不満げな顔をした先生は動く気配がない。

 あんた腐っても教師じゃないのか!黒い魔石のせいじゃなくて、シンプルに生徒に危害を加える不審者が現れたのかもしれないんだぞ?


「そうは言ってもな。魔石なんて俺の専門外だし、普通に不審者だとしても戦力が心許ねぇ⋯⋯⋯⋯⋯」




 先生がぶつぶつと文句を言い始めたと思ったら、急に黙り込んでしまった。まっすぐ運動場の方を見ているものの、僕たちが体を押しても動かないので、どうかしたのかと心配になってしまった。


「せ、先生⋯⋯?大丈夫ですか?」

「お、おーい?先生ー?」





 僕とソエが声をかけてもびくともしない。それでも瞬きや呼吸はしているから、立ったまま死んでいるわけではなさそうだ。




 


 動かない先生に対して痺れを切らしたマレアが運動場のほうへと歩き出そうとすると、先生はマレアがこれ以上進まないよう、腕でその行手を阻んだ。


 さっきからのガルグ先生の行動を不思議に思い、その顔を見てみれば、先生は焦った表情で一点を見つめたまま動かない。

 

「先生?本当にどうし───」

「逃げろ。ありゃあ、やべぇぞ」


 ガルグ先生は僕たちに後ろへ下がるよう腕で指示するが、先生は下がろうとしないし、ずっと一点を見つめている。

 その様子を怖く思いながらも、大人しく先生の指示に従って後ろへ下がると、聞き覚えのある声が耳に入った。



『ツァルディル・ヴァレッカ シェルグリン!ツァルディル=ヴェレイン シェルリディア!』

「早く逃げろっ!反対側へと走れっ!!」

独自(オリジナル)魔法:【付与(エンチャント)】」

「[防御結界:炎の中位精霊(ヴォルガン)]!」


 主に最近よく聞く声が詠唱したかと思えば、いきなり僕らがいる場所の土が泥になった。急いで先生が炎の結界を張るも、足元の土が泥へと変わるほうが先だった。


「うわっ!泥っ?!足がハマって抜けない!」

 

 泥になった地面から何とか足を引き抜くと、運動場がある方に少し大きめの人影が見えた。


「ねえ、あそこに突っ立ってんのってオルガじゃないの?」

「⋯⋯確かにオルガっぽいな」

「てか、あいつが右手に持ってんのって黒い魔石じゃない?あんな感じだったよね?黒い魔石!」


 ソエが指差してる方を見ると、確かにオルガらしき人が右手に黒い魔石を持っている。

 ていうか、前に見せてくれた付与はオルガから漏れ出た魔力によるものだったけど、今のは魔法だからなのか土が泥になっている範囲が広い気がする。


「チッ、俺だけじゃ無理だな。おい!お前らの中で魔力耐性が高いのは誰だ?!」

「普段から実験してるし、あたし高いですよー」

「多分、僕も高いと思います」

 

 マレアが魔力耐性が高いと言っているのにつられて、僕も正直に答える。この前オルガが僕に対して魔力耐性高いって言ってたし、多分僕も高い方なんだろう。


「私はあまり高くないです」

「俺もそこまで高くないです」

「そうか。じゃあマレアとルツはここで俺を手伝え!オリヴィエは寮に行ってミラフィを呼んでこい!ソエは保健室の先生を!」

「「「「はいっ!」」」」

 

 魔力耐性が低いと話したソエとオリヴィエは、先生から指示を受けると、足を地面から引き抜いて、すぐにそれぞれの目的の場所へと向かって行った。


 うわぁ、僕も低いって言えばここから離れられたかもしれないのに、やっちまったなぁ〜。


「ふたりとも行ったな。よし!マレアは防御結界をオルガの方に張ってくれ!」

「足元じゃなくていいんですかー?」

「あぁ、足元よりもあいつが放出する魔力のほうが怖いからな」

「はーい。[防御結界:水の中位精霊(マリヴィス)]」


 先生に言われて、マレアがオルガがと僕たちの間に水を纏った結界を張った。しかし、オルガはさっき土を泥に変えただけで、それ以外のことはしてこない。


「先生ー?僕は何すればいいんですか?」

「え、あぁ。お前はオルガのとこまで行ってあの魔石を手放させてこい」

「はーい、わかりま───ってえ?」

「あ?どうしたんだよ」

「先生?結構やばいこと言ってる自覚あります?」

「いや、ねぇよ?」

「あの状態のオルガに近づくだけじゃなく、魔石手放させてこいとか、僕のことを殺す気ですか?普通に死にますよ?」


 先生の指示に従って僕も動こうとした矢先、聞き捨てならない言葉が耳に入った。

 いやいやいや、今のオルガあの時のミラフィと同じ暴走状態に陥ってるみたいだし、だから先生もミラフィを呼ぶように言ったんだよね?


「おう!頑張ってこい!」

「いやいや!根性だけでなんとかなるもんじゃないですよね?!」

「ルツ、どうしたのー?今んとこ、土を泥に変えてるだけみたいだし、そこまで怪我しなさそうだよー?」

「マレア、お前さっき硬い物が壊れるような大きい音一緒に聞いてたよね?」

「⋯⋯?それがどうしたの?」


 僕がマレアの態度に呆れて言葉も出ないでいると、先生がさっきよりは余裕がある表情で、オルガの方を見つめたまま真剣に言った。


「【付与(エンチャント)】は物質に自分の魔力を纏わせて、物質の形とか性質を変える魔法だろ?」

「硬い土を軟らかい泥に変えてましたね。じゃあ、軟らかい物も硬い物に変えることはできるのか。なるほど、わかりました」

「まぁ、そういうことだよ。どれだけやばいかわかった?」



 やっとこの魔法の怖さに気づいたみたいで、マレアも少し焦った表情を見せる。結界も張って警戒はしているが、不気味なほどオルガは全く動かない。

  

「運動場に行くのはマズイ。オルガが有利になっちまうからな。できればここで魔石を手放させるぞ」

「でも何で僕なんですか?先生でも良くないですか?」


 いくら魔力耐性が高いかもしれない僕がオルガに突っ込んだとしても、普通になすすべもなく殺されるだけな気がする。

 なら、戦闘力も魔力も高そうな先生が行ったほうがいい気がするんだけどなぁ。


 そう思って言ってみたものの、先生は何言ってんだこいつ?みたいな顔をして説明し始めた。

 

「阿呆か。その辺に落ちてる石ころも小枝も全部、【付与(エンチャント)】が使えるオルガ(あいつ)にとっては殺傷力の高い凶器になるんだぞ?」

「⋯⋯それぐらいわかってます。でも、僕が行ったって死ぬだけですよ」

「それでもお前は魔力少ないから結界張れないし、俺は魔力耐性が低いから無理なんだよ」

「えぇっ?!嘘だぁ!」

「嘘じゃねぇよ」


 僕が衝撃の事実に驚いていると、先生がまだ炎を纏った結界を足元に張っている右手とは逆の手で魔力を操り、マレアが張った水を纏った結界に人ひとりが通れるような穴を作った。



 何に使うのかと僕が疑問に思っていると、何故か後ろから服が引っ張られるような感じがした。


 

 そして、僕の体が宙に浮く。







「へ?」

「おら、グダグダしてねぇでとっとと行って、来いっ!」

「え、ちょっ?」


 

 服が引っ張られている方向からガルグ先生の声がしたかと思えば、すごい勢いで投げ出されて、そのまま結界の穴を通り抜ける。

 

 

「うわぁぁぁぁっ?!」

「頑張ってねー」

「ちょっ、馬鹿っ!」

「お前なら大丈夫だ。ちょっくら行ってこーい」

「無理だってぇぇぇえ!」


 あっという間に結界の外へと放り出され、後ろを振り返れば僕が通った穴はいつのまにか修復されてなくなっていた。

 あの酒臭ヤニカス鬼教師!僕に全部任せやがって!死んだら絶対に枕元に化けて出てやる!!




 

「⋯⋯⋯いや、それだけじゃ足りないな」

「あ、ァ?誰ダ?」

「完全に正気じゃないなぁ。やっぱその魔石のせいなの?」


 どうやって魔石を手放させるかなんて考えるまもなく放り出されたから策なんてないし、魔力だって少ないから普通の人よりも出来ることは少ない。






 それでも、自分にできる限りのことはやってやろうじゃないか。僕だって、まだ死にたくないし。




 

 



  


「死んだら枕元に化けて出て、先生の酒を飲み尽くしてやる!!」

 




何とかして投稿する曜日を決めようとも思ったんですけど、不定期になっちゃいました(;^ω^)

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