11話 おばちゃん口調
「うーざーい!」
「はァ?てめぇの心が狭いんだろーが」
「そんなことないし!」
あれからず〜っとオルガは僕に近づいて来る。本当に何なの?僕がオルガの魔法を他人に漏らすとでも思ってんの?
そんなに心配になるくらいなら、最初っから僕なんかに言うんじゃねぇー!任務や仕事ならまだしも、それ以外なら僕は結構口が軽いんだぞー!自分で言うのもどうかと思うけどー!
「何なの?引っ付き虫じゃん!」
「んだよ、ソレ」
「ずっとくっついてくるような奴のことだよ!」
「じゃあ、ちげーよ。ずっとじゃねェもん」
「⋯⋯似たようなもんじゃん」
別に友達が増えることは嫌なことじゃない。どちらかと言えば嬉しいことだし、闇ギルドとは違う人たちが多く集まっているから話しててとても楽しい。
だが、こいつは駄目だ。オルガは時折、僕のことを観察するような目で見てくることがある。普通、友達に向かってそんな目は向けないだろ。
しかも、本人はバレてないと思ってるようだが、全然バレてるので僕からしたら気が気じゃない。友達ヅラして近づいて来るやつが、すっごい怖い視線を送ってくるのだから。
僕が闇ギルドの構成員ってバレたのかなぁ?でも、そういう感じではないような気がするんだよなぁ。
「そうだよ、オルガ!私が先にルツと話してたの!」
「あァ?別に関係ないだろ」
「関係ある。うるさいからどっか行って⋯⋯」
「ほら!ルツだってこう言ってるじゃん!」
「僕は2人に言ってるんですけど?」
僕の席の周りで口論しないでほしい。うるさくて仕方ないし、周りの視線が痛い。
⋯⋯シャルファとかリサラ辺りの、会話に入れてくれそうな人のところに行こうかな?そう思ってそちらを見ると、綺麗に視線を逸らされた。
もっと簡単に言うなら、僕はあの2人に見捨てられてしまった。ひどい、助けてくれたって良いじゃないか。僕はこんなに困ってるというのに。
「⋯⋯⋯⋯」
「ねぇ、ルツ。どっちのほうがうるさい?」
「オレのほうが静かだよなァ?」
「⋯⋯⋯両方うるさい!静かにしてて!!さっきから言ってるよね?聞こえてないの?耳あるよね?早く理解してくれる?」
「「⋯⋯⋯⋯⋯」」
あ、何かうるさいし、イライラしすぎて、さすがに酷いこと言っちゃった気がする。
学園に来てから賑やかで楽しいこともあったけれど、慣れない環境だったし、うるさいところに急に飛び込んだんだ。ストレスもかなり溜まっていたんだろう。
それが今、爆発しそうな気がする。でも人や物に当たるのは良くないなぁ。早く2人に謝んなきゃ。
「⋯⋯え、あ、ごめん。さすがに酷いこと言い過ぎた」
ハッと我に返ってすぐに2人に謝罪するが、2人は何故か真顔でこちらを見ていた。え、何?そんなに怒ってたの?ごめんってば、素直に謝ったじゃん。
「ルツが不機嫌なの初めて見た!」
「いや不機嫌とはいえ、さすがに言い過ぎたと思ってるよ?でもあまりに2人がうるさいから⋯⋯⋯」
「ほら、パンやるから機嫌直せって。なァ?」
僕の不機嫌に何故か目を輝かせるミラフィと、パンを差し出してくるオルガ。ミラフィはともかく、オルガの中にご機嫌取りをするという行動があったことに驚いた。
まぁ、こんなパン1個じゃ僕の機嫌は取れないけど。でも、勿体ないから一応もらっておこう。別に欲しかったわけじゃないけど。勿体ないしね!
「ありがと、パンは貰います。でもね!そもそも君たちがうるさすぎなの!わかる?」
「へいへい、わァーったよ」
反省なんてしてなさそうな顔をしたオルガは、結構おいしそうな具材の挟まったパンをくれた。
でも本当にオルガはよくわからない。今のパンをくれた行動とか、全部演技なのかもしれないし、僕へと向ける視線が怖すぎる。
まぁ、今のところ害はないし放っておいてるけど、常に近くにいると警戒を解けないし、マジで疲れる。
あっちが僕に近づいてくる限りは、諦めるしかないんだろうけど。
僕がまだ午前中なのに疲れてぐったりしていると、ミラフィが心配そうな顔をしてこちらを覗き込んできた。
「⋯⋯そういえば、知ってる?最近、具合が悪い人が多いらしいよ。ルツもそうなの?」
「そうかもねー。ていうか、何でそんなことミラフィが知ってるの?F組は皆元気だし、あっちの校舎にいる他クラスの人のことでしょ?」
「この前、ここの校舎で保健室の先生と会ったときに、世間話してたら教えてくれたの!」
僕がミラフィに情報の出どころを聞くと、こっちの校舎に来ていた保健室の先生から教えてもらったらしい。
具合の悪い生徒かー。あっちの校舎じゃ風邪でも流行ってんのかな。僕も風邪引くのは嫌だし、次の休みの日にマスク買っておこうかな。
近くの商店街に売ってるマスクは前世の記憶にあるものとほとんど同じで、使いやすい。でもお店によってはかなり高い額で売ってることもあるから、あまり買いたくないんだけど、仕方ないかぁ。
「何か、意識が遠のいていくように感じる人が多いんだって」
「あァ?それただの目眩じゃねェのか?」
「⋯⋯それがね、具合悪い人はみんな意識が遠のく直前の記憶がないんだって!」
⋯⋯う〜ん、記憶が失くなるなら風邪ではなさそう。怖いから一応、マスクは買うけど。
にしても、意識が遠のくだけで、直前の記憶が消えるのは何でなんだろう。皆、頭でも打ってんのかな?
「原因とか対策はあるの?」
「それがね、全部わかってないんだって。他クラスの人は貴族が多いでしょ?だから、マスクつける人が少ないって保健室の先生が嘆いてたよー」
「貴族って何でかわかんねェけど、マスクつけねェよな」
「周りがマスクしてないから、皆しないのかもねー」
確かに、言われてみれば貴族でマスクしてる人ってあまりいないかも?
昔、闇ギルドの仕事で貴族に毒盛った事あったけど、どーせマスクしてなかったから病気にかかったんだろと思われて、暗殺の線は疑われなかったし。まぁ、僕としては助かったけどね。
⋯⋯そう言えばその働いてるときに、出会うと記憶を消してくる、前世でいう妖怪?みたいな噂もあったな。結局、他の闇ギルドの構成員が使う魔法だったみたいだけど。
もしかしたら、他クラスで出る最近の体調不良者は、その魔法に関係してるのかもしれないなぁ。
あくまで僕の勝手な憶測だけど、前世の知識じゃこういうときは大体関係あるし、気をつけるに越したことはない。
「───でさ、ルツはどう思う?」
僕が考え込んでいると、横にいるミラフィから声がかかる。やばい、何も聞いてなかった。何の話してたんだろ。
「ごめん、なんの話だっけ?」
「えっとねー、5月にある体育祭の話だよ!体育祭は全学年でやるから、F組が他のクラスと一緒にいるところを保護者に見られるじゃん?」
「まぁ、そうだね」
「だから、他のクラスの奴に舐めた態度を取られるわけにはいかねェよなっつー話をミラフィがしてたんだよ」
そういえば、体育祭まで後一ヶ月ぐらいしかないのか。まぁ、僕には見に来る保護者も居ないし、そこまで心配はしてないけど。
アルセリア学園では、全学年でやる大きな行事がいくつかあり、それらを見るために保護者もやってくる。
家族が見に来るなら、F組が他のクラスから見下されてるのを、知られたくない人もいるか。なるほど、それで他のクラスに舐められないようにする態度ねぇ。
⋯⋯でも、F組担任のガルグ先生ですら職員室でいい顔をされないのだから、F組の生徒なんて余計ひどいだろうし⋯⋯はっきり言って無理では?
「⋯⋯正直、無理じゃない?」
「やっぱりそう思う?」
「だって最近の先生の顔見た?死んだ魚の目してたよ?あれは絶対、給料減らされた事による絶望の顔だと思う」
「────おい、誰の給料が減ったって?」
「げっ、ガ、ガルグ先生⋯⋯」
「まあ給料減らされたのは事実だけどな!あんのクソじじぃ共、自分の取り分が増えるからって⋯⋯」
後ろからこちらにやって来る気配は感じていたが、まさか先生本人だとは思ってなくて、びっくりした。
普通に先生の給料について、話していたことを怒られるかと思ったが、すんなり肯定されて逆にこちらが反応しづらい。
「ゴホン。俺の給料についてはともかく、お前ら他のクラスに舐めた態度を取られないよう頑張るんだろ?」
「え、えぇまぁ。でも難しいし、無理だよねって話をしてました」
「はぁ?お前ら諦めんのかよ!あいつらの鼻を明かしてやりたいとは思わねぇのかよ!」
「⋯⋯別にィ」
「お前は欲ねぇな、オルガ」
職員室にいるであろう他クラス(主にそのクラスの担任である教師たち)に恨みがあるのか、ガルグ先生の気迫がすごい。
先生の私怨に、僕たちF組の生徒を巻き込まないでほしい。勝手に一人でやっててくれ。
「先生!私は諦めてないですよ!他のクラスの人たちの鼻を明かしてやりましょー!!」
「お!そうかそうか、その意気だぞ。ミラフィ、あの2人みたいに欲のない大人にはなるなよ?」
「はいっ!」
「⋯⋯僕たちより先生の方が大人じゃないですか?」
「⋯⋯欲というより、先生のは私怨だろうがァ」
「お黙り!!」
「「──っ?!」」
急に先生が、パンとか売ってる購買のとこにいるおばちゃんみたいな口調で、こちらを振り返りながら喋るので、思わず吹き出しそうになった。
横を見ればオルガも俯いてはいるが、肩がプルプル震えていたので、笑うのを我慢しているのだろう。
そうだよな、ガルグ先生は至って真面目に言ってるみたいだし、笑うわけにはいかないよな!
しかし、至って真面目なのはガルグ先生だけで、後ろにいたミラフィや、会話を盗み聞きしていたクラスメイトも全員、今にも吹き出しそうな顔をしていた。
「「⋯⋯⋯⋯⋯」」
「何とか言ったらどうなんだ!お前らも他のクラスを見返したいだろ?!」
『何とか言ったらどうなんだい!あんたたちも他のクラスを見返したいだろ?!』
さっきのガルグ先生の発言のせいで、先生の言ったことが全部、脳内で購買のおばちゃん口調に変換されてしまう。駄目だ、面白すぎる。今すぐにでも笑い声が漏れ出してしまいそうだ。
でも皆我慢してるし、僕だけ笑うわけには行かない。今笑ったら、確実に後で恨みのこもった視線を皆から向けられることになる。それだけは絶対に嫌だ。
頼むから、誰か先に笑ってくれ〜。
そんな僕の願いが何処かに届いたのか、ふふっと言う、誰かのこらえきれなかったであろう漏れ出た笑い声が聞こえてきた。
しかも、さっきミラフィとオルガが口論している時に、助けを求めた僕のことを見捨てた人たちがいる辺りから。
「────っ、あっははは!もう俺、無理!我慢出来ない!」
「わっ、私も、無理!何でそんなさっきから⋯⋯ふふっ、あははっ!」
「は?お前ら急にどうしたんだよ?」
『はぁ?あんたたち、急にどうしたってんだい?』
シャルファとリサラが我慢できなくなって笑い出したのをきっかけに、あちこちで我慢していたはずの笑い声がF組の教室内に響き渡る。
「あっはははは!先生、その口調マジでどうしたんだよ?」
「ふはっ。ボッ、ボクも、もう無理!何でそんなおばちゃんっぽいんですか⋯⋯あははっ」
「にゃにゃっ、リューも我慢の限界なのです。先生の口調が脳内で変換されてくのですっ」
「僕も、もう無理!何?お黙りって。購買のおばちゃんと口調同じじゃん!あははっ」
「どうしたんだよ、先生よっぽど疲れてんのかァ?」
「きゅ、給料減らされたことがすっごいショックで、とうとう頭も疲れてしまったんですねっ?あははっ」
「こ、こら、先生だって真面目に言っているのだから、わっ、笑ってしまったら失礼だろう?⋯⋯ふふっ」
「いや、これは無理でしょ。面白すぎるし」
「しぇっ、先生⋯⋯?疲れに効く物、魔法で出しましょうか?」
「先生ー?お勧めの枕とか教えてあげましょうかぁ?眠れば大体の疲れは吹っ飛びますよぉ?」
「大人って疲れるとこうなっちまうのか。怖すぎるだろ。ふっ、はは!⋯⋯ま、まぁ?口調が変わるのは面白いけどな!」
「ガルグ先生?疲れも吹っ飛ぶ毒⋯⋯じゃなくて、薬。あたしが作ってあげますよ?疲れてるんですよね?」
こらえきれなくなってF組の教室内にいたほぼ全員が笑い出すと、先生はその辺にある木の実くらい顔を真っ赤にして、大声で叫んだ。
「うるっせぇー!!お黙りっ!!!」
そのガルグ先生の一言で、僕たちの笑いが収まるどころか、ひどくなってしまったことは言うまでもない。
わかりづらいので、先生の口調に対してどの反応が誰なのか上から順に書きます。
シャルファ→リサラ→ディセル→シエラ→リュア→ルツ→
オルガ→ミラフィ→オリヴィエ→ソエ→メルロ→ネル→
ラティス→マレア
まだ出てきていないクラスメイトについては書けませんでしたが、皆と一緒にめちゃくちゃ爆笑してます(*^_^*)




