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ー4ー

 高校3年生といえば、修学旅行なのだが、私は先生と同じクラスではないので、自由行動でさえ先生を見つけることが出来なかった。

 ただ、修学旅行の最終日に女の先生が眠れなかったのか、めずらしく目の下にクマを作っていた事が、私にはなんだかとても気にかかっていた。


 そこから、正月をすぎて冬休みが終わって学校が始まった。もうすぐ卒業が近づいてきて、先生に会えなくなってしまう事が私の悩みだった。

 家に帰ってきて、夕飯とお風呂をすませたころ、先生から私宛に初めて電話が鳴った。

『…ミコト……………俺』

 電話の向こうで先生が泣いていた。

『…俺……学校辞める……』

「は?…………はい?」 

 私の家はすごく電波がこの上なく悪くて、せっかくの先生からの電話なのに、うまく聞き取れなくてモヤモヤした。なんで、大事な時にちゃんと電話として機能してくれないんだ。

『俺、学校…辞めさせられる……』

「な、どうして?!」

 いきなりの事に私も動揺が隠しきれなかった。

『その……校長にゲイなことがバレて』

 いままで10年近くバレた事がなかったんじゃないのか?なんでこのタイミングでバレた?

 私は、修学旅行の最終日を思い出していた。もしかして……先生に振られた腹いせに女の先生が学校側に言ったのでは…??でも、いまは誰がバラしたのかを追求しても仕方がない。

「でも、なんで学校辞めなきゃいけないの?」

『まーその、学校の先生がゲイなのは、学生達の教育的によくないとか、そういうヤツで』

 うーん………そう言われてしまったら、そうかもしれない。けれど、それじゃ……まるで……。

「先生は、ゲイな事を悪い事だと思ってるの?」

『……普通の感覚ではない、とは思ってるよ』

「違う!私が聞きたいのは、世間一般な事じゃない。自分が自分を否定するような事言わないで!!」

 それを認めてしまったら、まるで自分が人と違う事が悪いと言ってしまっているかのようだ。それに、だからと言って仕事を辞めさせられる理由でもない。

『でも…校長がいますぐ辞めるなら、ゲイなことを公表しないって………言ってきて』

 いまさら、そんなことを公表したところで、分かっていた人は分かってたと思うけど。

「それで、自分が教えてきたクラスの人達はどうするの?」

 そんな事より、先生は担任を持っているのだから、明日から卒業までには、もう2ヶ月もないのに、どうするつもりなんだろうか。

『明日から、別のクラスの先生が2クラス分を卒業まで……』

「そんなの絶対にダメだよ!!クラスの皆だって納得しないよ?」

 逆に、そんな事になれば、「何故、辞めたのか」を追求する人が出てきてしまうだろう。

『でも……そんな、後ろ指さされながら学校……いけないし……』

「なに言ってるの?そんなの開き直ればいいんだよ!だって、本当の事なんだもんっ胸を張ってよ。自分の心に嘘つかないでよ……きっと、いつか後悔する。自分が3年間受け持った生徒の卒業式に立てなかったこと」

『そりゃ、俺だって…いられるなら卒業式まで居たいよ』

 その言葉を聞いて、先生が言われるままに先生という職業を諦めようとしているわけではなくて少しホッとした。

「居たい。じゃなくて、居るの!先生の生徒達だって、いきなり明日から違う人が担任とか嫌だよ!!」

『………そうかな』

 いつになく弱気な先生に喝を入れた。

「当たり前でしょ!!私だって嫌だよ!何も言わずに居なくなられたら……悲しい、よ」

 私も途中から泣き出してしまって、絞り出すように声を出した。

「私は、どんなことがあっても味方でいるから………ゲイでも、先生失格でも、先生に文句あるやつがいるなら、生徒でも先生でも黙ってるつもりはないから!」

 なんだか、夜中にもかかわらず大きな声を出してしまった。

『なんで、ミコトはそんなに強く生きられるの?』

「人の生き方に間違いなんて1つもないからだよ……そんなの大人も子供も関係ないでしょ……?」

 私と話をして少しだけ先生は落ち着きを取り戻したようだった。

『うん…。ありがとう、ミコト。おやすみ』

「うん…。おやすみ……」

 それは、30分くらいの短い会話だった。

「……私も、先生の生徒達と同じ。卒業式の日に先生がいないのは嫌なの……」

 なんで、最後に自分の気持ちを口にすることが出来なかったんだろう。私は、電話を切った後でボロボロと泣き始めてしまった。

 もしも、本当に明日、学校に行ったら先生だけがいなくなっていたらどうしよう。そう思うと…私は眠ることが出来なかった。


 なのに、次の日学校に行くと、先生が何事もなかったかのように、いつも通りの顔で「おはよう。」って言うから、私はなんだか先生をぶん殴りたくなった気持ちだけは、いまだに本人に伝えていない。



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