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3/5

ー3ー

 三年生になって、先生の生き方に対して私の心が落ち着いてきた頃、なにが1番しんどかったかと言えば、新任でやってきた女の先生が大好きな先生を好きでモーションをかけてきた事だろうか。

 先生が男の人しか好きにならないのは、頭ではよく分かっている。けれど、それは自分をふるための口実なのではないか?と、こじらせていたんだ。やっぱり、大人は大人としか付き合わない。私が子供だから、女として見れないということであったのなら、抜群のプロポーションと美人な新任の女の先生と付き合ってしまわないか…と気が気じゃなかったんだと思う。


 5月、敷地が小さな私の学校では、一学年が集まれるだけの体育館がないので、市の大きな体育館を借りての球技大会があった。

 あいかわらず、私は自分の担任ではない先生の事を目で追っていたが、それと同時に新任の女の先生の事もマークしていた。

 ピンクのジャージからこぼれそうな胸も、おおよそ球技大会に似つかわしくない髪型も気に入らなかったが…それとは対象的に幼児体型の自分が心底憎かった。

 自分だってそれなりに可愛いね。と、言われて生きてきているが、自分の好きな人にそう思って貰えなかったら意味のない言葉すぎて、心が苦しくなる。

 先生はバスケ部の顧問なだけあってバスケの試合の審判をしていた。その隣に点数を管理する役割に女の先生が立っていた。

「(…あからさまに、近いんだよなぁ」

 女の先生は、当たり前に男子生徒にモテていた。普通にいままでだっていろんな人にモテてきたのだろう。だったら、先生じゃなくたっていいじゃないか。…私から先生を取り上げないでほしい。

「……はぁ、べつに自分のモノでもないのに、なに対抗心もやしちゃってるんだろう」


 球技大会は、丸1日かけて行われる。お昼になって自分のお弁当を食べ終わると、私はおそらく喫煙コーナーにいるであろう先生を探した。喫煙コーナーなら、他の男の先生もいるだろうし先生が安心かなと思っていたのに、何故か喫煙コーナーにきても、先生と女の先生の二人が一緒にいるところに出くわしてしまった。

 私は、何食わぬ顔で近づくと二人の隣の自販機で抹茶オレを買った。

「あ、ミコト。さっきの試合のスリーポイント上手く決まってたね!」

 女の先生との話を終わらせて先生が私に近づいてきた。間違いなく、女の先生との話に困っていたのだろう。

「見てたんですか?男バスの審判だったのに」

「そりゃ隣のコートだしね」

 素直に嬉しいのだけれど、先生をどうにかこの場から救出しなければならない。

「そういえば、先生のクラスの生徒が先生を探してましたよ?」

「え?マジ??なんだろ、行ってくる!」

 先生は残り少ない昼休憩の間に生徒の話を聞くべくクラスの席へと戻っていく。

 私は、手に持ったままの抹茶オレを開けて飲み始めた。

「大和さんって、先生と仲良しなのね」

「そうですね。元バスケ部員なので」

 自販機の前に残された女二人は静かな火花を散らしていた。

「学生時代って大人の男の人に憧れとか持っちゃうものよね」

「ぷっ………あの人は、大人なんかじゃないです。先生はアナタが思っているような人じゃないですよ」

 お互いの先生への印象の違いに思わず笑ってしまった。もしも、女の先生がいうような先生が大人の色気たっぷりな男性だとしたなら、私は恋になど落ちなかった事だろう。

 私の好きな先生は大人なのに、どこか子供な人だ。行き場のない苦しみと愛されたい悲しみを抱えて彷徨っているような、まるでどこかに置き去りにされた子供のようで私は目が離せないんだ。おおよそ、それは恋というより母性に近いのかもしれない。彼の幸せをただ願う母のような……。片想いが辛くないのは、好きを通り越しているからなのだと、この時の私が自覚したような気がする。


 球技大会が終わり、市の体育館を出てくると先生のクラスの人たちが集合写真を取っていた。

「(……いいなぁ」

 そう思いながら、ボーッと見ていると、視界の端に捉えた私を先生が手招いた。

「ミコト!ミコトも!」

「え?」

 自分のクラスの人たちの中へ私を呼び寄せた先生は、中央にいた自分の真横に立たせると、私の肩をグッと先生の方へ引き寄せた。

『イエーイ!ピースピース!』

 と、他クラスの生徒が騒いでる中で、それが聞こえないくらい私の頭が真っ白になる。

「写真とるよー」

 とカメラを構えているのは、いまにも顔が引きつりそうな新任の女の先生だった。あまりに突然の出来事に私はアホみたいに驚いた顔の写真におさまっていることだろう。

 写真を取り終わって、みんなが散り散りに帰宅していくのを見送ると、先生が私に振り返る。

「ほら、俺ってミコトのクラス担任になったことないから、一緒の写真欲しかったんだ」

 そんな笑顔で言われたら、こっちもいきなり呼ばれた事を怒る気にもなれなかった。

 ただ、カメラを返しにきた女の先生には睨まれたけれど、女の先生が私をライバル視している間は先生がゲイだってバレないだろうから、いいカモフラージュになるかもしれないって思っておいた。



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