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2/5

ー2ー


 私は、その事実が忘れられず、かと言ってそれを知らない顔しながら先生の傍にいる事もできず、秋がやってくるよりも前に部活を辞めてしまった。

 2年生になって、自分のクラスの担任は変わったのに、隣のクラスの担任は変わらなかった。バスケ部のエースと先生は同じクラスのままだ。

 「ねーねー、なんかさー先生とあの男子の距離近くない?」

 それは、隣のクラスの女子の発言だった。

とくに先生の事を好きでもなんでもない女子生徒にまで、そう思われているのだとしたら、噂が広まってしまうのは時間の問題なのではないだろうか?と思った私だけが、少し焦ってしまった。

 とは言っても、学校内でそんな話をするわけにもいかないしな…と思った私は、その日の夜に先生にメールを出すことにした。

 部活の連絡網として、先生のメールのアドレスは部の全員が知っているのだが、そんな事のためにメールしちゃって大丈夫かなという不安はあったけれど、自分は確かめたかったんだと思う。事実を。


「先生、あまり男子生徒にだけ優しいとバレちゃいますよ?」

と、私がメールをすると、

『あーやっぱりミコトには、俺が男を好きなことバレてたのかー』

 先生は、隠そうともせずにシレっとカミングアウトしてきた。私は、平常心を保とうとした。

「当たり前じゃないですか、私がどれだけ先生を好きだと思ってるんですか?」

 この頃の私はまだ、この世に女を好きにならない男はいないだろうと思って疑わなかった。だから、私が好きって言ったら、先生が私を好きになる未来もなくはないんじゃないのかなと思っていたんだ。

『教師やってきて長いけど、バレたことなかったんだよ』

「先生のクラスの女子も少しだけ怪しんでますから、気をつけて下さい。それが言いたかっただけです」

『ミコト。ありがとうな』

 それは、私の告白への返事なんだろうか。それとも、ゲイである事を知っても態度を変えない私への感謝なのだろうか。

 この日、私は先生に見事なまでに失恋した。でも、なんだかあまり落ち込んではいなかったんだ。

 それは、たぶん相手が女の人を好きになれないってだけで、自分が振られたわけではないんじゃないか。と、どこかで思っていたからだ。

 

 そんな高校2年生の夏も終わりそうな頃に、ショックな出来事は起こった。

「そういえばさー先生の元カノって看護婦さんらしーよ。なんか、エロー」

 聞かなければよかったのに、私の地獄耳が先生の噂話をキャッチしてしまった。

 ゲイだから、私を好きになれないのはいい、だけど「女は好きになれない。」はずなのに、元カノがいるってどーいう言う事なんだよ!

 先生は今年たしか…29才?そこから導き出される何かがあるとするなら……。

 無駄に学年トップの頭をフル回転させた。

イライラとしている足が向かったのは職員室だった。先生が一人でいるところを確認したうえで、先生がいつも使っている黒いマグカップにコーヒーを入れる。ドン!という音と共に先生の机にマグカップをおとした。

「親の期待に応えようと女と付き合うから苦しくなるんですよ!」

「ごもっともです」

 先生は苦笑したまま、私に頭を下げた。

先生が好きな砂糖なしのブラックコーヒーを美味しそうに飲んでいる姿を見つめながら私の小言が止まってくれそうになかった。

「しかも看護婦って……会う機会を減らせばなんとかなるとか、そーゆー事じゃないでしょうが」

 おそらく、病院勤務の人間と付き合えば相手が忙しくてデートをしなくても恋人のフリを続けられるとでも思ったのだろう。

「なんでミコトは俺のこと全部わかっちゃうの?」

「安直だから、だよ……」

 私の口からはため息しか出てこなかった。

「ちゃんと心から好きになれなきゃダメだよ。……それが、恋なんだよ?」

「うん。でもさ、俺は恋をしてもいいのかな?」

 いつになく弱気な発言じゃないか。

「いいよ。私が認めてやるんだから、ちゃんと恋しなよ。じゃなきゃ私が浮かばれないだろうが」

「確かに」

 私達は、見つめ合うと自然と笑い合う。そこへ、放課後のホームルームが終わったのか、べつの男の先生が職員室に戻ってきた。

「あー駄目ですよー男の先生が女子生徒と二人っきりとかーそういうのはー」

 戻ってきた先生が、あまりにもあり得ない事を言っているあたり、先生がゲイな事は本当に気づかれていないみたいだ。けれども、私と先生の邪魔をされて、私は立ち上がると戻ってきた先生に舌打ちしながら職員室を出た。

「いいんですよ。大和は特別なんで」

 私が職員室の扉を後ろ手に閉めようとした時、大好きな先生のフォローの声だけが自分の頭で何回も再生された。

「(なんだよ特別って……まるで私が使い勝手のいいモルモットみたいな言い方しないでほしい……バカ」

 特別の意味を勘違いしたら、恋の熱を再発してしまいそうな私は、わざと皮肉な受け取り方をして、それを打ち消した。


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