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8、表と裏


音羽の怖さとは別に、父さんが普段使わない言葉である"食べておいで"という優しい言葉に引っかかり、違和感を覚える。

モヤモヤした気持ちのままゲームセンターのベンチに腰掛け、目の前で楽しそうにキャッキャッとゲームをしている音羽を見ても、落ち着くことすらできなかった。

(無意識でもさすがに怖いな…)

いつもなら、音羽が笑っていても愛おしいと思ったり、可愛いと思ったりするが、今回は状況が悪かったせいかなんなのか、色々考えてしまう。


初めて音羽を"怖い"と思った。


ベンチに座りながら携帯をいじる。

ニュースに目を落とすと、殺人事件や未解決事件、盗難、万引き、そして誘拐事件。毎日毎日更新されるニュースや、新しい情報の入ったニュースが沢山出てきた。

中には、この前僕が手をかけた女性のニュースもあり、未だに捜索が続けられているらしく、捜索願を出した女性の家族からのコメントに目を通す。


"いつものように帰ってくると思った。だけど、一行に帰ってくる気配も、遅くなるという連絡もなく職場に連絡したれけど、もう娘は帰っていると言われた。退勤した時間から2時間もかかっている。最近、誘拐事件が多いため捜索願を出した。娘を返してほしい"


"寄り道する子ではないんです。寄り道するときは絶対連絡もあって、早く見つかってほしいです"


おそらく、父親と母親からのコメントだろう。僕は胸が痛くなる。平然とこの文を読んでいる僕は、サイコパスに当てはまるのだろうか。

思わず僕はSNSでの他者からのコメントにも目を入れとようと調べる。

案の定のコメントだった。


"同一人物なんじゃね?"


"狙われてるのが女性だし、犯人は男っぽいよねぇ"


"もう捜索願出してから何日たってるんだ?さすがにもう死んでるんじゃ…"


"女性、看護師なんだっけ?前、誘拐された人の仕事と同じ?"


"犯人も良く殺るよな〜、どんな気分で見てんかな"


"娘に防犯対策しっかりさせようと思わせられました"



ネットのコメントは様々だった。もう死んでいるだろうと思う人やどこかで生かされてるんじゃないか、家族間でなにかあって誘拐をお願いしている……など。

コメントを読みながら、また胸が痛む。

この世で、僕たちが起こしている誘拐事件を知る人が何人いるだろうか。今僕がいるゲームセンターにだって、この事件を知っている人は少なからずいる。

その犯人が今ここで、ベンチで堂々と座り、誘拐事件のニュースに目を落としていることとは僕が犯人ですと言わない限り、誰も思うまい─────





携帯いじっている間にかなり時間がたっていた。

顔を上げると、さっきまで目の前にいた音羽の姿がなかった。

僕はあわててゲームセンター内を探す。

音羽が行きそうなところに行くが、見当たらない。

僕は焦った。


今度は音羽が行きそうなところではなく、端っこから組まなく探してみようと思い、入口付近へ戻る。

すると、戻った先に音羽の姿が見え、こんなところにいたのかと声をかけようとしたとき、音羽は誰かと話していた。僕の知らない誰かだった。友達だろうかと思い、そっと元影に隠れる。


「1人でいるの?」

「なにしてるの?」

よく聞けば、尋問されているようだった。おそらくクラスメイトっぽい。にしては口が尖ってる友達だなと思い、音羽を見ると、黙ったままだった。

いつもお喋りな音羽からは想像できないほど喋らない。ずっと黙ったままクラスメイトっぽい子たちから、何を言っているのか遠くから聞こうとするが、ここはゲームセンターだ。周りの音がうるさくて聞こえやしない。

やはり話しかけに行くかと考えていたとき、ふと、音羽の片手を見ると何か持っているのが見えた。

(取ったのか?あの子たちの誰かから。いや先にとって、僕だとか言われてるのか?)

状況が読めず、余計声をかけられない。とりあえず、1人で来てないことは伝えられるが…。

すると、音羽はクラスメイトっぽい子たちの人に向けて、尖った先を向けた。

(え…?)

一瞬固まったが、さすがに危ないと思い、僕は走って音羽たちの方へ向かう。

「音羽!!!」

僕の声に気づいたのか、音羽は尖った先をクラスメイトっぽい子たちに向けるのを辞めた。

「あ、おにぃちゃん!」

音羽の横についたときは、いつもの音羽の表情に戻っていた。さっきの尖った先を向けていたことを知らないふりをして話しかける。

「どこ行ってたんだよ、探したぞ」

「ごめんね!喉渇いたから、自動販売機に行こうと思ってたの!」

明らかにさっきまでとは違う態度。携帯の連絡の件といい、更に音羽が怖くなり、知らぬふりしかできなかった。


クラスメイトっぽい子たちに目を向けると、1人は泣きそうになり、青ざめ、固まっていた。その周りにいた子たちも同様に固まっていて、驚き、ビビり、固まっている。

「い、行こうぜ」

「お、おう」

そう言い、クラスメイトっぽい子たちは去って行った。


去っていく姿が、まるで草食動物が肉食動物に追われ、逃げている姿に僕は見えてしまった。



僕は、音羽に話しかける言葉を失う。そう思うのも無理はない。さっき見た音羽の姿が頭から離れないからだ。すると音羽が、いつもの明るい口調で「もう夜ご飯かな?」と話しかけてきた。

気持ちを切り替え、あわてて僕は「そうだな」と答える。

「今日は外食だし、なに食う?」

「んー、お寿司!お寿司がいいな!!」

「寿司な、わかった。じゃあ1階にあるから行こうか」

「うん!!」



ゲームセンターを離れ、寿司屋まで向かう道のりが長く感じる。足取りが重くてしょうがない。

僕は向かっている間に話した内容は寿司屋に着く頃には忘れ、覚えていなかった─────


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